医療情報システムの評価に関する研究

文献情報

文献番号
199700348A
報告書区分
総括
研究課題名
医療情報システムの評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
大櫛 陽一(東海大学医学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 情報技術開発研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療機関の情報化は急速に進み、情報システムは、医療施設におけるインフラとして定着しつつある。しかし、オーダリングシステムなどのようにシステム規模の拡大に伴って、その投資金額が大きくなっており、その定量的な評価の重要性は増している。現在までのところ、定性的な評価は得られているが、定量的な評価が行われることは極めて少なかった。これは、システムの導入や更新が医療施設の拡張や、大幅な運用変更と同時に行われることが多いこと、また途中で保険点数や薬価の改定が行われるなどのため、単純な評価が難しいということに起因している。本研究では、このような場合においてもシステムの効果を定量的に把握する方法論を確立し、実際の医療機関において検証を行った。
研究方法
研究協力者グループの長年にわたる経験と直前の調査結果に基づいて、医療情報システムの定量的な評価指標を設定した。これらの指標を、10ケ所の病院に適応し、各指標の有効性を検証するための具体的な事例を収集した。事例の収集に当たっては、模範となる事例を記入例として四例示した。システムの効果を定量的に評価するには、システムの稼働前後における指標の変化を観察することとした。指標としては、システム稼働前にもデータが得られている必要性から、業務月報や年報などに記録されているものを中心に選定した。また、医療機関の拡張や大幅な運用変更の影響に耐えるように、職員一人当たりや、患者当たりの変化に注目した。調査方法としては、訪問による聞き取り調査とした。これは、定量的な情報を得るには郵送法では難しいと予測されたためである。提供されたデータは、スプレッドシートに展開した。ここのデータと共にデータの組み合わせによる時系列グラフを作成した。このグラフにシステム化の時期をマークして、イベント情報とした。このイベントの前後での指標の変化と、病院の担当者のインタビューからシステムの効果を同定した。
結果と考察
結果=月報、年報、部門内統計、調査結果などの多くのデータが提供された。情報システムの効果が定量出来たのは、記入事例を含めて24例あった。これらは次の4つの指標群に大別された。1)単独で評価可能な項目・外来患者の院内滞在時間が再来予約システム、自動再来受付、案内端末により約60分減少した。2)職員一人当たりの業務効率の向上・医事職員1人当たりのレセプト処理件数が30~50%増加、栄養士一人当たりの栄養指導件数が80%増加などの作業効率が向上した。・医薬品入札業務のシステム化により、年間延べ1,800時間の超過勤務が解消した。3)患者一人当たりの業務改善・入退院管理と食事オーダとの連携により、入院患者当たりの給食調理数が2~5%減少し、無駄な食事調理が減少した。・オーダリングにより医事会計が正確になり、患者一人当たりの収入が約10%改善した。4)収益比率、利用率の改善・医事システム、オーダリングシステムの導入に伴って、返戻率と査定率が半減した。・オーダリングにより、収益に対する医薬品費の割合が約3%低下した。・病床管理のシステム化とベッド情報の公開により、充床率が3%アップした。
考察 =医療機関ごとに診療科目が異なるなどそれぞれの特徴があり、患者や医療の内容に差がある。従って、医療情報システムの定量的評価方法としては、導入病院と非導入病院の群間比較は難しく、同一医療機関での前後比較が適していた。指標としては、待ち時間のように単独で使えるものもあるが、システム導入と同時に他の多くの変化を伴うことが多いので、職員一人当たり、患者一人当たり、返戻査定率・収益率・利用率などに換算して変化を観察すると、影響を受けにくいことが判明した。医療法第二十一条及び医法施行規則第二十条の十一に定められた統計や保健所への報告統計などの普段記録している項目でも、長期にわたって保存し、簡単な計算をして、システム化前後のトレンドを作ることにより、マクロな分析が可能であった。このトレンドの変化を説明するには、システム化の経過と共に、運用の変化、保険点数、薬価、法令などの改訂を具体的に記録に留めておく必要があった。また、「病院機能評価マニュアル」の評価項目に含まれている外来患者の待ち時間調査、入院待機日数、在院日数、病床利用率、診療開始時刻、紹介患者率、収益や費用に関する統計、薬品や材料の在庫管理などの調査と記録、その長期保管も重要である。さらに、詳細なシステム評価を行うには、対象業務ごとの人員数、伝票枚数・検体数・レセプト枚数のような作業対象量をシステム化前後で記録しておくことが望ましい。さらに、経済的分析を行うには、対象業務ごとの収入と経費の変化が必要である。また、システム化の経費も対象業務毎に案分して記録しておく必要がある。
結論
医療情報システムは多くの効果を発揮することが再確認された。しかし、医療経済や病院経営の厳しい環境化では、情報システムの定量的評価を行い、一層のベネフィット/コストの向上に努めなければならない。今回の研究結果が、自己評価や他者評価のモデルとなり、システム評価が確立されることを期待する。医療の自己選択や自己負担額の増加の方向に向かっている中で、患者から見たシステム評価や満足度評価に対する方法論の確立が今後の課題となるであろう。
参考文献=1)厚生省健康政策局監修:健康政策六法平成9年版、中央法規出版、東京、1997. 2)日本医師会・厚生省健康政策局指導課編:病院機能評価マニュアル、金原出版、東京、1989.

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