医療評価のための標準データセットに関する研究

文献情報

文献番号
199700341A
報告書区分
総括
研究課題名
医療評価のための標準データセットに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
今中 雄一(九州大学大学院医学系研究科医療システム学教室助教授)
研究分担者(所属機関)
  • 中山健夫(東京医科歯科大学難治疾患研究所疫学研究部門助手)
  • 福井次矢(京都大学付属病院総合診療部教授)
  • 亀田俊忠(亀田総合病院理事長)
  • 水嶋春朔(横浜市立大学公衆衛生学教室助手)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 情報技術開発研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療評価の実施の上で、構造志向の組織の運営システムの評価(診療録の内容と管理)、プロセス志向の専門性の評価(診療内容の評価)、アウトカム志向の診療成績の評価(臨床的パフォーマンス測定)、という課題がある。診療情報の管理と活用は、いずれの側面から見ても重要で、特に第三の点においては必須となる。一方で、医療保険支払制度との関連やパフォーマンスの第三者評価ゆえに情報化を進めないといけないという側面がある。今後の診療報酬制度の変容のいかんによっては、診療情報を規定のデータセットで入力して症例の類型化を自動的に行うことや、その症例類型ごとのコストの計算と管理が極めて重要になってくる。以上の観点から、本研究では、医療評価をめぐるデータセットの標準化に関してその第一段階として、データセットを定めてデータを収集し、その解析に基づいてデータセットにおける要件と問題点の整理を行い、統合的な枠組みを構築することを目的とした。
研究方法
研究協力を得た国内の8病院で症例の類型化の開発に必要なデータセットを設定して既に収集を行っているデータベースについて、そのデータ収集の実現可能性の検討と得られたデータの解析を行った。そのデータセットには、患者の人口統計因子、病名、手術など、米国のヘルスケア財務局のDRGグルーピングに必要なデータセットUHDDSを含み、かつ、それ以外の患者因子、臨床情報、さらに、診療報酬データを包含している。また、そのプロセスの分析に基づき、データセットの枠組みを構築した。実際の診療データベースを基に、多施設で診療成績の指標化や症例の類型化を行う際には、コード体系が標準化されていないことで、さまざまな問題が生じる。そこで疾患および手術・処置のコード体系とその適用上の問題点を検討した。
結果と考察
ひとつの症例類型の中では医療費や在院日数にかなりのばらつきが一般的に見られる。その一例として、DRG106/107(冠動脈-大動脈バイパス移植術の施行症例)の解析対象110例のデータを解析した。死亡症例は一般に診療報酬総額が大きく離れるためこの解析対象から外している。また、診療報酬総額の予測もモデルからのずれが外れ値を呈した2例も除いている)。その診療報酬総額の平均は3,767,229円(SD689,747)、最小2,707,360円、最大5,899,620円、その開きは3,192,260円となっている。在院日数の平均は、25.6日(SD8.9)、最小8、最大71、その開きは63日である。同様の症例群のデータを用いて、重回帰分析により、診療報酬総額のばらつきの要因構造を解析したところ、在院日数により医療費のばらつきの25% (=R2)が、重症度・患者変数によりさらに27%が、診療パターンのばらつきによりさらに14%が説明された。最終的に医療費のばらつきの67%(R=.82)が説明された。
また、臨床上のパフォーマンスの指標化を進めるためには、臨床的な患者状況や治療形態の上から妥当な症例の類型化を必要とする。扱いやすい数の症例類型を作成し、その中のモザイク状態は、細分類化、あるいは、資源消費や臨床上の成果に影響する重症度因子を総合的に指標化したものを用いて連続的に補正することが必要となる。上記の観点から、既に診療パフォーマンスと消費資源を算出するための症例分類システム(Case indexing system to Adjust and Measure Performance in clinical effectiveness and efficiency: CAMP-CEE)、略称CAMPの開発を進めていきたが、これに基づきルーチンで収集できる年齢ほかの重症度・患者因子を指標化し、それに基づき4クラスに細分類し、分類内の均一性がかなり確保された。4クラスそれぞれの診療報酬額(円)平均は、3,278,763、3,722,702、4,023,174、4,623,576となり、グループ間で50万円程度の格差を呈示した。重症度・患者因子に基づくこの細分類指標により、診療報酬総額のばらつきの44%を削減することができた。
先述の症例分類システムCAMPは、重症度や患者の状態をデータセットの中に取り入れ、症例に多軸的にインデックスをふって目的に応じて症例を類型化し(比較のため、DRGに相当する分類も可能)、細分類や連続変数により重症度補正を可能とするものである。コード体系整備を含め、症例類型化、指標化にのための「開発の枠組み」を呈示するとともに、症例類型化や重症度・患者因子による補正や細分類化をする技術を実証的に開発する上でのデータセットとその適用に関する枠組みである。この主目的は、診療パフォーマンスの指標化とコスト算出を行う上で基盤となる妥当な症例類型を作ることにある。このフレームワークは複数のデータのサブ・セットからなる。まず、ケースミックス・データセットは、症例類型の根幹となるものであるが、疾患情報(主病名、併存症、続発症、重症度、進行度など)、治療・医療介入の情報(手術・侵襲的処置や治療、緊急性など)、患者因子(性・年齢などの人口統計因子、全身的活動状態、生活機能など)からなる。臨床パフォーマンス・データセットは、診療のアウトカムのデータを収集するものである。死亡かどうかなどの転帰や退院経路もここに含まれる(これらは、一部で、症例類型化のためにも使われる)。また、医療資源データセットでは、マンパワー(職種、必要技能レベル、時間、など)、もの(薬剤・材料、機器、など)、システム、などが含まれる。また、環境的影響因子は、病院の機能や置かれた環境、地域格差など、ヘルスケア環境の違いを示すものであり、医療評価や定額支払いの値決めの際の補正に関係しうるものである。
一方、コード体系については、疾患コード体系ICD9、ICD9CM、ICD10、レセ電対応のコード付き診療科別標準病名集およびSNOMEDを比較検討した。手術・処置のコード体系に関しては、WHOのICPM、HCFA-DRGに用いられているICD9CM(これは毎年改訂されている)、1985年に翻訳・発刊した日本語に翻訳されたICD9CM、米国医師会が発行しメディケアRVRBSに用いられているCPT、日本の診療報酬解釈コードなどを比較検討した。構造上あるいは運用上の問題点としては、一般に重症度や各疾患のstagingを表現できないこと、一軸表現の限界や体系性の不備、時間軸や履歴の概念の不備、主病名の基準の曖昧さ、副病名登録の基準の曖昧さ、ICD9では病名を詳記できないことが多いため各病院が独自の桁を加えて体系を作って一貫性が無い点、異なるコード体系間でコードを相互に変換する困難性、ICD9CMの一部は通常日本の臨床現場ではで使われない分類法が用いられている点、主治医以外が退院時サマリーなどを参照してコード化することが一般的だが詳細なコード化に必要な情報が不足しやすい点などが上がってきた。社会としての疾患コード体系の不備は症例分類別の定額支払い制度の導入や診療パフォーマンスの評価・比較に致命的な障害となりかねない。重症度を考慮に入れ、医療評価と症例類型別定額支払・コスト管理を適用の目標として、社会的活用へのコンセプトを持って、疾患(および手術・処置)の現存のコード体系を生かして、コード体系が構築されれば、評価、コスト管理を進めるだけでなく、それらにまつわる様々な管理コストを削減することができるはずである。そこでは、危険度・重症度情報が統合されるれば活用の幅は飛躍的に広がるであろう。また、国際的および国内的なな医療情報に関する標準化規約や通信規約、たとえばHL7やMMLなどとの整合性も重要と考えられる。また、データセットに集約されるデータの正確性や妥当性を確保する手法も併せて確立していく必要がある。
結論
医療の質の評価および管理・保証・改善という点から、もう一つは、医療資源の効率的運用の点から、診療情報の管理は、今後ますます重要になることは明らかである。その中で、データセットの標準化が生み出す社会的、経済的メリットは大きい。データセットが標準化され実社会で広く運用されて初めてそのメリットが社会的なものとなるわけであるが、そのためには公的な推進力が切に望まれる。本研究の結論の要点は以下のごとくである。
1. DRGなどケースミックス分類に必要な最低限の情報の収集が、我が国で可能であることが示された。また、今回用いたデータセットにより、ケースミックス分類をさらに精緻にすることの実現可能性が示された。さらに、医療評価を系統的に進めるための統合的なデータセットの枠組みを構築した。
2. 病名や手術・処置、治療方法等のコード体系の発展と連携して行く必要があることが認識された。
3. 今後の課題として、症例類型に特異的な情報のデータセットの整備、医療資源情報の収集システムの開発に平行した標準的データセットの開発、重症度・危険度による症例類型化・細分化の内的・外的妥当性の検証などが必要である。

公開日・更新日

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