文献情報
文献番号
199700337A
報告書区分
総括
研究課題名
情報技術を活用した診療所支援研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
大江 和彦(東京大学医学部)
研究分担者(所属機関)
- 木内貴弘(東京大学医学部)
- 高林克日己(千葉大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 情報技術開発研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
7,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
これまで、地域医療を支援するための遠隔医療システム、通信衛星を利用した生涯教育支援システム、地域医療でのICカード実験、電子カルテにおける標準化の研究などが行われてきた。しかしこれらは個々の技術だけの実験や特定地域のモデル事業に終わっており、これらを総合的に導入し、医療機関同士、特に診療所間や診療所と高次医療機関との情報連携の日常的な運用には至っていない。
平成8年11月の国民医療総合政策会議中間報告「21世紀初頭における医療提供体制について」では、医療機関の体系化の促進とかかりつけ医の機能の向上を促進するための診療所情報支援の必要性が提言されている。そのためにはどのようなインフラストラクチャの整備が必要であるか、またどのような情報が診療所で求められているのか、を調査し、今後の方策をたてる上での基礎的な研究を行う。
平成8年11月の国民医療総合政策会議中間報告「21世紀初頭における医療提供体制について」では、医療機関の体系化の促進とかかりつけ医の機能の向上を促進するための診療所情報支援の必要性が提言されている。そのためにはどのようなインフラストラクチャの整備が必要であるか、またどのような情報が診療所で求められているのか、を調査し、今後の方策をたてる上での基礎的な研究を行う。
研究方法
病診連携、診療所間連携、住民への情報提供サービスなどを積極的に実施している5人の医師会員を日本医師会に推薦してもらい研究協力者への就任を依頼した。協力していただいたのは50音順で、合馬クリニック(北九州市小倉)の合馬紘先生、回生堂病院(都留市四日市場)の功刀融先生、谷澤医院(明石市西新町)の谷澤義弘先生、葛西中央病院(東京都江戸川区)の早川大府先生、めづき医院(萩市土原)の売豆紀雅昭先生の5名と、電子カルテを日常診療で使用している大橋産婦人科(東京都品川区)の大橋克洋先生の計6名である。情報へのニーズの分析、情報の所在の調査と情報収集方法における問題点の調査、情報システム普及のための課題と方策について、ヒアリング、アンケートを中心として議論することにより行った。
結果と考察
1) 診療所間連携のための情報
地域医療機関の資源データベースに関するニーズが高い。主な内容は、医療機関の所在情報、地図、主な医療設備、診療科、診療時間などである。これらの情報は、各医師会内で収集され、会員へのデータサービスのひとつとして、通常は冊子体で会員に配布されている。患者からの問い合わせに応じて、各医療機関がこの冊子体を参考にして情報を提供したり、患者の紹介先を検討する参考資料にしているのが現状である。これらのデータは最新のデータに常に更新されていることが重要であり、診察室で簡単にこれらの情報を検索できるようにするためにも、オンラインデータベースによって収集、提供できることが望まれている。一方、これらの情報の収集方法と公開範囲を慎重に検討すること、医療機関同士が自主的に、客観的評価に耐えうる質のデータを収集、提供すべきであることが指摘された。
2)病診連携のための情報
診療所側から見て、紹介先の病院の資源情報へのニーズが非常に高く、具体的には以下のような情報が診療所側に提供されることが望まれている。
必須情報:診療科別担当医師名とプロフィール、診療科別診療曜日と時間、診療科別の予約方法および予約込み具合の状況、休日時間外の診療科応需体制および受診方法、各種検査の応需体制・予約方法・予約込み具合の状況、診療科別の病床数、診療科別の入院予約方法とその込み具合の状況、診療科別の病棟担当医師名とそのプロフィールなど。
提供が望まれる情報:疾患カテゴリー別に治療件数と治療成績、術式別の件数と成績、疾患別の在院日数、疾患別の医療費、全身麻酔件数などの医療行為実績データ、各科の詳細な専門領域。
これらのデータが、診療所に提供されれば、紹介先の決定をしたり患者に説明する上で、非常に有用であるとの意見が多かった。ここに挙げた治療実績データについては、医療機関としてのデータではなく、担当医師別のデータであることが必要であるという意見もあった。また、これらのデータは診療所にとっては有用であるが、提供する病院側にとって正確なデータを提供するためには、さまざまな課題を解決しなければならない。特にデータ作成のために新たな投資を必要とするものもある。したがってこれらのデータを公開することを制度として強制するのではなく、病診連携にとって有用であるということを病院側が認識するよう啓蒙を行い、各病院の自由な意思のもとで自由競争原理により公開が進むようにすべきである。
3)住民サービスのための情報
診療所の資源情報を住民に公開し、住民が自己の自由な意思のもとで、かかりつけ医を選択できるようにする必要がある。そのためには、客観的な評価情報、資源データを住民が容易に入手できる環境整備が必要である。問題は、医療機関の客観的評価の方法が確立していないことであり、今後の課題とすべきである。ここでも、データの収集や公開自体は、国が関与するのではなく、自由な民間活動にゆだねることが望ましい。
4)診断治療支援のための情報
診療所における日常診療を直接支援するための情報として、治療マニュアル、診断マニュアル、医薬品情報、各種医療関連文書の雛形、医療材料や新製品情報、レセプト点数マスター、患者への説明資料とその基礎データが望まれている。このうち、各種医療関連文書の雛形、患者への説明資料とその基礎データ以外のものは、不十分であるがすでにいくつかのデータベースが市販されている。これらのデータベースを、安価にかつ統一された使用方法のもとで利用できるソフトウエアシステムの開発と整備が必要である。
5)診療所における情報システムの導入のあり方
診療記録をすべて電子化するために、医師自身が診療中に入力するシステムは、診療所にとって実現が難しく、直接的なメリットが現時点では少ないため、導入のインセンティブが働かない。しかし、診療所で様々な情報照会と診療情報支援を行う情報システムの普及を図ることは、今後の診療所機能のさらなる活性化とチーム診療、病診連携の活発化に大きな効果をもたらすことは確実である。一方で、これまでに進められてきた電子カルテの研究開発、病院情報システムのダウンサイジングによって診療所用のシステムを開発し導入を図ろうとする手法が、診療所への情報システム普及に成功しているとはいえない。診療所にはレセプトコンピュータが導入されているところが多く、医事担当者が各種のオーダー、処方内容を入力しているところが多い。また検体検査は原則として外注であり、民間の臨床検査センターが検査結果を端末で照会できるよう、端末機をレンタルしているケースも多い。このように、診療所の経営面で有用な機能をもった情報システムは確実に普及してきている。この事実は、診療所への情報システム導入は、従来からの電子カルテやオーダーエントリーシステムの発想では無理があり、レセプトコンピュータ、検体検査センターのコンピュータなど統合され、チーム診療と病診連携を積極的に支援する新しいタイプの情報システムが必要であることを示している。
地域医療機関の資源データベースに関するニーズが高い。主な内容は、医療機関の所在情報、地図、主な医療設備、診療科、診療時間などである。これらの情報は、各医師会内で収集され、会員へのデータサービスのひとつとして、通常は冊子体で会員に配布されている。患者からの問い合わせに応じて、各医療機関がこの冊子体を参考にして情報を提供したり、患者の紹介先を検討する参考資料にしているのが現状である。これらのデータは最新のデータに常に更新されていることが重要であり、診察室で簡単にこれらの情報を検索できるようにするためにも、オンラインデータベースによって収集、提供できることが望まれている。一方、これらの情報の収集方法と公開範囲を慎重に検討すること、医療機関同士が自主的に、客観的評価に耐えうる質のデータを収集、提供すべきであることが指摘された。
2)病診連携のための情報
診療所側から見て、紹介先の病院の資源情報へのニーズが非常に高く、具体的には以下のような情報が診療所側に提供されることが望まれている。
必須情報:診療科別担当医師名とプロフィール、診療科別診療曜日と時間、診療科別の予約方法および予約込み具合の状況、休日時間外の診療科応需体制および受診方法、各種検査の応需体制・予約方法・予約込み具合の状況、診療科別の病床数、診療科別の入院予約方法とその込み具合の状況、診療科別の病棟担当医師名とそのプロフィールなど。
提供が望まれる情報:疾患カテゴリー別に治療件数と治療成績、術式別の件数と成績、疾患別の在院日数、疾患別の医療費、全身麻酔件数などの医療行為実績データ、各科の詳細な専門領域。
これらのデータが、診療所に提供されれば、紹介先の決定をしたり患者に説明する上で、非常に有用であるとの意見が多かった。ここに挙げた治療実績データについては、医療機関としてのデータではなく、担当医師別のデータであることが必要であるという意見もあった。また、これらのデータは診療所にとっては有用であるが、提供する病院側にとって正確なデータを提供するためには、さまざまな課題を解決しなければならない。特にデータ作成のために新たな投資を必要とするものもある。したがってこれらのデータを公開することを制度として強制するのではなく、病診連携にとって有用であるということを病院側が認識するよう啓蒙を行い、各病院の自由な意思のもとで自由競争原理により公開が進むようにすべきである。
3)住民サービスのための情報
診療所の資源情報を住民に公開し、住民が自己の自由な意思のもとで、かかりつけ医を選択できるようにする必要がある。そのためには、客観的な評価情報、資源データを住民が容易に入手できる環境整備が必要である。問題は、医療機関の客観的評価の方法が確立していないことであり、今後の課題とすべきである。ここでも、データの収集や公開自体は、国が関与するのではなく、自由な民間活動にゆだねることが望ましい。
4)診断治療支援のための情報
診療所における日常診療を直接支援するための情報として、治療マニュアル、診断マニュアル、医薬品情報、各種医療関連文書の雛形、医療材料や新製品情報、レセプト点数マスター、患者への説明資料とその基礎データが望まれている。このうち、各種医療関連文書の雛形、患者への説明資料とその基礎データ以外のものは、不十分であるがすでにいくつかのデータベースが市販されている。これらのデータベースを、安価にかつ統一された使用方法のもとで利用できるソフトウエアシステムの開発と整備が必要である。
5)診療所における情報システムの導入のあり方
診療記録をすべて電子化するために、医師自身が診療中に入力するシステムは、診療所にとって実現が難しく、直接的なメリットが現時点では少ないため、導入のインセンティブが働かない。しかし、診療所で様々な情報照会と診療情報支援を行う情報システムの普及を図ることは、今後の診療所機能のさらなる活性化とチーム診療、病診連携の活発化に大きな効果をもたらすことは確実である。一方で、これまでに進められてきた電子カルテの研究開発、病院情報システムのダウンサイジングによって診療所用のシステムを開発し導入を図ろうとする手法が、診療所への情報システム普及に成功しているとはいえない。診療所にはレセプトコンピュータが導入されているところが多く、医事担当者が各種のオーダー、処方内容を入力しているところが多い。また検体検査は原則として外注であり、民間の臨床検査センターが検査結果を端末で照会できるよう、端末機をレンタルしているケースも多い。このように、診療所の経営面で有用な機能をもった情報システムは確実に普及してきている。この事実は、診療所への情報システム導入は、従来からの電子カルテやオーダーエントリーシステムの発想では無理があり、レセプトコンピュータ、検体検査センターのコンピュータなど統合され、チーム診療と病診連携を積極的に支援する新しいタイプの情報システムが必要であることを示している。
結論
1)医療連携に関する共通ソフトウエアの設計、開発とその提供体制の整備
多くの医師会で、地域内の会員のデータベースを作成し、冊子体で配布している。このデータベースをオンラインで収集し、会員の範囲に限定して情報提供できるオンラインサービスシステムを、各医師会が独自開発する必要がないよう、共通的なソフトウエアの開発、提供と、システムの枠組みを提供すべきである。そのデータベースの内容や公開範囲などは、各組織が独自の判断で作成すべきものであり、この共通ソフトウエアで規定すべきものではない。
2)個別システム連携方式の策定
レセプトコンピュータで入力された患者データの照会機能、臨床検査センターの検査結果照会システム、前節の各種の情報連携支援機能、および既存の種々の電子的に提供されているマニュアルや資料類を、別々のコンピュータではなく、1台の操作の極めて簡単な小型の情報機器により利用できるような、技術上の解決をめざす必要がある。さらに、このシステムは、他の病院情報システムと患者紹介データの相互転送も可能でなくてはならない。ただし、ソフトウエアを国として開発し提供するのではなく、その開発と普及を民間が積極的に行えるよう助成等を行うことが望まれる。
3)医療機関同士の自主的な情報公開支援
広告制限を緩和し、医療機関が自主的な判断で自身のデータを必要と考える範囲に種々に限定して公開できるような機能をもった情報インフラストラクチャを整備すべきである。地域内の診療所同士でのみ共有できるデータベース、特定の紹介先病院群にのみ公開するデータベース、地域住民に公開できるデータベースなどが、医療機関同士の自主的な判断で、あるいは第3者機関によって構築され得るよう環境を整備する必要がある。
4)医療水準の客観的評価基準の策定
患者が自主的な判断基準で医療機関を選択し、診療所が同様に紹介先病院を選択できるためには、医療機関の客観的なデータが入手できる必要がある。そのためには、各医療機関が客観的に確立された評価にもとづいたデータを自主的に公開する必要があり、個々の治療方法、診断方法、ケアなどについて個別に評価基準を策定することが必要である。
5)診療所、病院のインターネット環境の整備とその経費補助
診療所にはダイアルアップアクセス環境とインターネットアクセス端末の整備を、病院には1.5Mbps以上の定常接続回線を整備し、病診、診診間での情報交換が恒常的になされるよう、初期導入経費と回線経費の一部補助を行うことが必要である。
多くの医師会で、地域内の会員のデータベースを作成し、冊子体で配布している。このデータベースをオンラインで収集し、会員の範囲に限定して情報提供できるオンラインサービスシステムを、各医師会が独自開発する必要がないよう、共通的なソフトウエアの開発、提供と、システムの枠組みを提供すべきである。そのデータベースの内容や公開範囲などは、各組織が独自の判断で作成すべきものであり、この共通ソフトウエアで規定すべきものではない。
2)個別システム連携方式の策定
レセプトコンピュータで入力された患者データの照会機能、臨床検査センターの検査結果照会システム、前節の各種の情報連携支援機能、および既存の種々の電子的に提供されているマニュアルや資料類を、別々のコンピュータではなく、1台の操作の極めて簡単な小型の情報機器により利用できるような、技術上の解決をめざす必要がある。さらに、このシステムは、他の病院情報システムと患者紹介データの相互転送も可能でなくてはならない。ただし、ソフトウエアを国として開発し提供するのではなく、その開発と普及を民間が積極的に行えるよう助成等を行うことが望まれる。
3)医療機関同士の自主的な情報公開支援
広告制限を緩和し、医療機関が自主的な判断で自身のデータを必要と考える範囲に種々に限定して公開できるような機能をもった情報インフラストラクチャを整備すべきである。地域内の診療所同士でのみ共有できるデータベース、特定の紹介先病院群にのみ公開するデータベース、地域住民に公開できるデータベースなどが、医療機関同士の自主的な判断で、あるいは第3者機関によって構築され得るよう環境を整備する必要がある。
4)医療水準の客観的評価基準の策定
患者が自主的な判断基準で医療機関を選択し、診療所が同様に紹介先病院を選択できるためには、医療機関の客観的なデータが入手できる必要がある。そのためには、各医療機関が客観的に確立された評価にもとづいたデータを自主的に公開する必要があり、個々の治療方法、診断方法、ケアなどについて個別に評価基準を策定することが必要である。
5)診療所、病院のインターネット環境の整備とその経費補助
診療所にはダイアルアップアクセス環境とインターネットアクセス端末の整備を、病院には1.5Mbps以上の定常接続回線を整備し、病診、診診間での情報交換が恒常的になされるよう、初期導入経費と回線経費の一部補助を行うことが必要である。
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更新日
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