医療情報の総合的推進に関する研究

文献情報

文献番号
199700336A
報告書区分
総括
研究課題名
医療情報の総合的推進に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
開原 成允(国立大蔵病院)
研究分担者(所属機関)
  • 山本隆一(大阪医科大)
  • 前田知穂(京都府立医科大学)
  • 澤井高志(岩手医科大学)
  • 山口直人(国立がんセンター)
  • 高木幹男(東京理科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 情報技術開発研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療情報技術が医療の重要な意思決定の問題にまで関与し、医療の形態にも影響を与えるようになっているために、医療情報技術の社会的影響を評価した上でその利用を考えていくことが必要になっている。
本研究の目的は、医療情報技術の中で基盤技術として重要な映像通信とセキュリティの問題を取り上げて、その技術的問題、医療上の問題、経済上の問題などを検討することにあった。
研究方法
全体の研究を三つに分け、第一は、医療情報推進の基本的問題について研究し、他の研究班のまとめの役割も担う。第二は遠隔医療に関する研究で、この中に更に5つの研究班を設け遠隔医療実施上の様々な問題点と解決法の研究を行い、本年度は特にその経済性に重点をおいた研究を行った。第三は、医療情報のセキュリティに関する研究で、今後最も重要になるセキュリティ技術について、最近の進歩をまとめると共に日本の医療で使うべきセキュリティ技術を提案した。
研究方法は、一部では実験を伴いつつ、調査や専門家のよる討議を経て実証的に問題点の解決を図った。また、研究成果については、公開のシンポジウムを開催したり、インターネット上にその成果を公表して、この問題に関心を持つ人々の意見を吸収するように努めた。
結果と考察
医療情報の総合的推進を図る上で現在重要な課題として、遠隔医療及びセキュリティの問題点及びその解決策を以下の二つに分ける。
1)遠隔医療
在宅患者の遠隔医療については、医師法第20条の解釈がこれまで不明確であったが、昨年度の本研究班はその解釈を明確にするべきことを提言し、平成9年12月厚生省健康政策局は局長名の通知により、第20条の解釈を明確にしたためにこの問題は解決した。遠隔医療で重要なことは、その医療上の意義である。もし、遠隔医療に十分な診断能力がなければ論議そのものが意味がなくなるからである。診断の可能性などについては、これまで実験室の中などでは十分評価され、診断が可能であることが証明されてきたが、実際の医療の場でのデータが蓄積されてきたことが最近の特徴である。
まず、遠隔病理診断については、実態を明らかにするために、岩手県医療局の協力を得て、県下の病院の病理診断の実態が詳細に調査された。
この調査から、病理の遠隔診断にたいする関心は非常に深く、地域医療の向上になると考えている病院がほとんどであるが、遠隔医療に伴うコストが問題と答えており、コストの問題が解消すれば利用したいと考えている病院が、回答のあった37病院のうち30病院あった。
遠隔放射線診断(テレラジオロジー)については、一次医療機関が高次の医療機関に患者を搬送するべきか否かの判断をテレラジオロジーを用いて仰ぐ場合が典型的な利用方法と考えられる。調査の結果、伝送がなければ治療方針を誤った可能性のある例も多く含まれている。
以上のように実際の医療の場で必要性があることは確実である。
遠隔医療の経済性評価をするためのデータも少しずつ蓄積されている。第一に、遠隔医療システムがあれば搬送されたり、遠隔地の医療機関まで紹介されて受診する必要がなかった患者の割合を調査し、第二に患者の搬送に必要な費用についての積算を行った。医師の費やす時間については、現段階では、遠隔医療は医師のボランティア的サービスとして行われているために費用の算出が困難である。
現在は、機器などの初期投資が大きな負担となっているが、運用段階になれば、通常の費用の中で可能と思われるので、上記の医療の質の向上を考慮すれば、医療費の削減になると考えてもよいであろう。
今後、これらの数値の蓄積によって更に詳細に医療的効果や経済性を検討する必要がある。
2)セキュリティ
診療情報のセキュリティに関連した問題としては、蓄積された診療情報の保存に関する問題と広域ネットワーク上で情報を交換する場合に起こるセキュリティの問題がある。本研究班では、まだあまり研究されていない重要な課題である後者の問題を研究した。実験では、認証情報を氏名のような普遍的なものと、勤務先のような可変名部分にわけて、可変の部分は拡張フィールドに移したシステムを構築した。この方式をとることにより、証明有効期限との組み合わせにより、勤務先などが変わった場合には、証明されなくなるなどの実用的な利点が得られた。また、証明の階層性をどのように作っていくかも今後の課題であることが示されたが、本方式を運用することにより、安全にネットワーク上で診療データの交換を行うことができることが証明された。
結論
遠隔医療を例として、新しい医療情報技術が医療に導入されて効果を表すまでの実態を定量的に調査した。その結果、テレパソロジー、テレラジオロジーにおいては、十分普及するべき根拠が既に確立されていると考えられた。
セキュリティについては、ネットワーク上で診療データを交換する場合について、その運用を含めたシステムを実験し、今後これを実用化していくための問題点を明らかにした。

公開日・更新日

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