早期退院を可能とする看護活動の効果に関する研究

文献情報

文献番号
199700334A
報告書区分
総括
研究課題名
早期退院を可能とする看護活動の効果に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
濱口 恵子(東札幌病院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 看護対策総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
今年度は前年度の結果をふまえて2つの目的、つまり1)包括的退院計画の標準化システム作りとその評価、2)クリティカル・パスの文献検討及び事例検討に分け、これらの結果を統合してよりよい包括的退院計画のあり方を検討することを目的とした。
研究方法
研究方法1:包括的退院計画のシステム作りとその評価=1)包括的退院計画の標準化システム作りとして、(1)東札幌病院の多職種で研究メンバーを組織し、全部署の主任看護婦をケアマネージャーとして位置づけ、これらのメンバーで前年度に作成した包括的退院計画システムと各アセスメント表について現状をふまえて改良した。2)この包括的退院計画システムの評価は、平成9年9月1日以降に東札幌病院に入院した患者のうち、入院時にハイリスクチェック8項目のうち1項目でも該当した患者を登録対象者として行った。まず、包括的退院計画システムにそってケアし、患者アウトカムをoutcome用紙にそって入院時から退院後まで経時的に測定した。また、包括的退院計画システムにそって医療が行われたのか、その理由について主任看護婦が評価し(Quality Assurance;QA)、婦長1名が監査した。これらから、QAと患者アウトカムとの関連を分析した。なお、在院期間に関しては、対応のないStudentのt検定、Man-Whitney のU検定を用いて統計学的検定を行った。さらに、システムの実行可能性、有用性、問題点、及び患者アウトカムに影響を及ぼす因子について検討した。また、他施設(退院調整専属看護婦を位置づけている病院)の退院計画システムの見学を通して、包括的退院計画システムの標準化に向けてそのあり方を検討した。研究方法2:クリティカル・パス(以下CP)の文献検討及び事例検討=1)CPについてMedlineで文献検索し文献検討を行った。2)CPを作成・運営している3施設を研究者が訪問し、有用性及び問題点について把握した。これらをふまえて、3)当院に多い疾患・検査・治療の中から、経皮的肝動脈塞栓法(TAE)と喘息のCPを作成することにした。
結果と考察
A.包括的退院計画の評価。1.対象者の背景:平成9年9月1日から平成10年1月31日までに当院に入院した対象者のうち再入院を除いた解析対象者は、男性109名、女性109名の計218名であり、年齢は、68.4±13.5歳(25~95歳)であった。平成10年1月31日現在の死亡退院患者59名と緩和ケア病棟入院患者41名(うち死亡退院25名)はそれ以外の患者と入院目的や医療目的が異なるため、これらを除外した143名で以下の分析を行った。2.在院期間:平成10年2月28日現在で在院期間をみてみると、143名の平均在院日数は44.9±42.3日であり、これらの在院期間を2週間毎に区切ってみてみると、在院期間4週以内が48.3%、9週以上が27.3%を占めていた。5つの疾患群、つまり、がん(手術)群、がん(その他)群、急性疾患群、慢性疾患群、精査群 に分けてみてみると、がん(手術)群の在院期間が長く、ついで、がん(その他)群が長かった。3.QAの結果:「退院ニーズのアセスメント」や「各専門職の役割分担」「各アセスメント用紙への記載」ができた割合が低く、また、合意形成カンファランスが開かれたのは約50%であった。4.QAと在院期間との関連:全疾患群及び、がん(その他)群、慢性疾患群において、QAの評価を「Yes」と「Yes以外(No、不能、不明を含む)」に分けて在院期間を比較すると、退院調整に関するQA項目は疾患群に関係なく在院期間に影響し、「退院ニーズのアセスメント」「患者・家族の退院計画への参加及び同意」「社会資源の提示及び活用」が重要であることがわかった。 5.QAと患者満足度との関連:患者満足度を入院時と退院時とで比較すると、全疾患群では退院時の方が入院時より患者満足度が高くなっていた(P<0.001)。またQA項目別に入院時と退
院時の患者満足度を比較すると、「必要な社会資源が活用できた例」では患者満足度が有意に向上していたが、その他の例では不変であった。このことから、患者満足度を向上させるためには、社会資源の提示・活用が重要であると考えられた。しかし患者満足度を入院時と退院時の両時点で聴取できたのが143例中63例と少なく、再検討する必要がある。6.QAの結果の分析:全体的に各職種のアセスメント・ケアプラン不足、各専門職が話し合い合意するための時間確保の問題などがあげられた。7.包括的退院計画システムとアセスメント表の評価:この包括的退院計画システムに参加した医師、看護婦、MSWの意見から、このシステム及びアセスメント表に関して評価した。(内容省略)。B.他施設の退院計画システムの事例検討を通して有用だと思われたシステムの内容は、「退院調整に関する専属の職員をおくこと」「病院全体で取り組む姿勢及び職員への啓蒙活動」「病棟に関わる全医師を含む医療チームで定期的に継続してカンファランスを行うこと」「看護記録の監査などを通してQAを行うシステム」「病院外で患者・家族をサポートするシステムの充実」及び「それらを推進する職員のリーダーシップ」であった。
2.CPの文献検討及び事例検討。A.文献検討:Medlineの検索から、関連する文献が 575報検索され、CPの作成法やその効果などの総説が261報、看護関連が258報であった。B.CPの事例検討: 1)当院でのTAE実施例の チャートレビューを行った結果に基づき、TAEのCPを作成した。当院では進行がん患者や合併症をもった患者が多く、TAE以外の原疾患への治療・検査や症状コントロールなどで在院期間が比較的長かった。しかし、TAEを効果的に行うことを目的に8日間のCPを、記録の重複記載を回避することを目的として記録用紙をかねた形式で作成した。文献検討からパスの作成・運営までに約4ヶ月を要した。2)CPの実施結果:(1) TAEのCPを用いた患者は5名であったが、在院期間は他の治療目的で必ずしも短縮されていなかった。また、CPのゴールを規定していなかったため、有効性やTAE施行中のヴァリアンスなどを検討することはできなかった。(2)CPの作成過程、実施に関わった全主任と、また研究メンバーが話し合いの中で有用性と問題点を評価した(内容省略)。以上のことから、?CPを成功させるためには病院全体、特に医師の全面的な参加が必須であり、全専門職をリードする推進者が必要である。?当院のように進行・末期がんや合併症をもつ患者など複雑な臨床経過をたどる患者が多い場合、様々な臨床経過を考慮し、CPの概念を取り入れた治療・ケアのスタンダードを作ることによりその効果が高まると考えられる。?CP毎に記録用紙を兼ねることは作成に膨大な時間を要し、また複雑な臨床経過をたどる患者へのCP作成にはさらに困難となる。CPと記録との関連を再考する必要がある。
結論
1)包括的退院計画の標準化システムに必要な内容として、(1)患者アセスメント及びケアプランの作成・実施の徹底、(2)患者へのインフォームド・コンセント、(3)患者の医療のゴールを設定し医療チームが連携し集中して医療する体制;定期的継続的な合意形成カンファランス (4)退院計画への患者・家族の参加及び同意、(5)社会資源の提示及び活用、(6)第三者によるQAシステム、(7)退院を調整し推進する職員の配置、(8)病院全体の取り組みの姿勢、職員への啓蒙・教育があげられる。2)治療・ケアのゴールを設定し効果的・効率的に医療を行うためにCPを活用することが一つの有用な手段である。合併症や病状が進行している患者のように複雑な臨床経過をたどる患者にも活用できるようなCPの概念を取り入れた治療・ケアのスタンダード作りによりその効果は高まると考えられる。3)包括的退院計画システムとCPとを組み合わせることで、早期退院を可能とするシステムが有効となるであろう。  

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