看護婦の生涯教育のあり方に関する研究 実務経験を活かした准看護婦・士の教育

文献情報

文献番号
199700332A
報告書区分
総括
研究課題名
看護婦の生涯教育のあり方に関する研究 実務経験を活かした准看護婦・士の教育
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
川島 みどり(健和会臨床看護学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 薄井坦子(宮崎県立看護大学)
  • 小松美穂子(茨城県立医療大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 看護対策総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
准看護婦・士の実務経験を生かした教育内容と方法の開発を行う。
研究方法
1.現行の看護婦と准看護婦・士の基礎教育カリキュラムを参照し、現在就業している准看護婦に欠けている能力を高めるために必要な事項を抽出する。2.現状の看護技術教育を検討し、看護現象を構造化したり対象化する訓練や実践から帰納的に整理する指導法を明らかにするため、専門基礎分野の2領域と、専門分野の基礎看護学について現在実施している教授内容を振り返り、准看護婦の実務経験をふまえた効果的な学習内容や方法を検討した。
結果と考察
 1.専門基礎分野の1つ「からだの仕組みとはたらき」については、生活行動や疾病に結びつけて、からだを理解するために次のようなプログラムを開発した。ここでの学習目標は、?日常生活行動の仕組みと、からだの構造と機能を学ぶ。?病態から正常なからだの構造と機能を学ぶ。教授方法の工夫としては、以下の2点を強調した。?経験している事柄を理論的に解釈し直し、理解を深める。?経験している個々の事柄を理論でつなげる道筋を示す。教授内容としては、看護学における人体の見方を導入として、「見る」という外部環境からの情報の処理に始まり、動く、食べる、トイレに行く、息をする、呼吸器とガス交換のメカニズム、生体の防衛機構、循環系、血圧の調節機構、腎臓と体液量の調整、体液の性状、物質代謝そして最後に全体のまとめを入れて15時間の授業を行う。
2.同じく専門基礎分野の「疾病の成り立ちと回復の促進」については、ナイチンゲールの病気観を理論的基盤に据え、人間の生命力のよい状態を前提に、病むとはどういうことかを看護する立場から明らかにしようと取り組んだ。まず看護学の各専門領域担当経験者が、それぞれの専門領域において学びの多かった看護実践例を想起し、事例の生命力を脅かす諸条件を生活者の視点にたって分析して典型例を作成、次いで典型例をどのように見つめれば看護の方向性を定めることができるかについて検討し、それら判断過程に要求される専門知識・専門基礎知識・一般的知識を教育内容として抽出した。さらに、それら教育内容を、学習者が自己の健康状態を客観視しながらその変化について学び、人々が地域の健康ネットワークを活用しながら健康的な生活を実現できるように、という観点から整理し、カリキュラムの柱を立てた。教育目標および教育内容の設定については、典型例のなかの疾病の理解がカギとなった事例について再検討し、日常遭遇しやすい疾患を選定して、生活と関連づけながら15回にまとめた。教育方法としては、豊かな臨床経験をもつ看護職者が、反射的に対応するケアのなかにどのような原理が含まれているかを学習する方法として、まずティーチングポイントを明確にし、これを視覚化できる教材を作成し、学習者が主体的に学べるように工夫した。
3.専門分野の「看護の基礎となる理論と技術」については、先ず理論を4つの柱で構成する。すなわち、看護の本質論、対象論、援助論、技術論である。ここでの学習目標は、?看護の歴史的変遷とそれぞれの時代における看護への社会的期待、人間のヘルスケア活動に関わる専門職としての看護職の役割、ならびに看護の本質について理解する。? 看護の対象を生命の尊厳と人権の尊重、深い人間愛を基盤にして統合的に理解する。?人間の生活と環境・文化・社会との関連性を理解し、さらにそれらと健康のあり方との関連を理解する。?看護実践の構造と看護技術の基礎的な概念を理解し、療養上の世話と診療面における基本的技術の科学的根拠について理解する。?対象のヘルスニーズに対応するための方法と、ヘルスニーズを予測した看護の展開を考える。学習方法は出来るだけヴィジュアルな手法を取り入れながら、受け身ではなく自己の経験を再構成し統合できるように、また、短期間で教育効果を高める工夫をした。また、看護実践場面を振り返り日々遭遇する技術課題に気づきかつ解決する方法についても学ばせる。講義は、30時間を予定している。
看護の基礎となる技術については、?かれらにとって最も弱い一面ともなっている対象のヘルスニーズを明確にするためのアセスメント技術を修得させる。?看護の基本的技術の科学的うらずけを学ぶとともに対象の状態や場面別に複数の技術を組み合わせて問題解決を図る方法を身につけることとした。学習方法としては、すでに実践経験を持っているため、経験に合わせて基礎技術全体を見直しながら、個々の技術の意味と正しい方法について習得し、技術の統合を図る訓練をする。そのため1~2名のポピュラーな患者の入院から退院までを映像化する。そしてその経過のなかで出会うであろう身近な看護事象を選び、必要なアセスメントを行い、問題解決に有用な技術の基本とバリエーションについて学ばせる。そのためビデオ教材を作成し、演習を取り入れた学習方法60時間とする。
現在就業している准看護婦・士らは40万人にのぼる。かれらは、さまざまな動機から看護の道を志し、その教育背景と免許の相違から看護婦とは異なった処遇を受けてきた。本来、同一の職種でありながら2つの免許が存在していることは、きわめて不自然である。しかし、准看護婦・士教育のカリキュラム自体、看護教育のそれとは、質・量ともにかなり不足している。そこで、准看護婦・士らの経験を評価しつつ、かれらに最も不足している判断能力を高め、1人の人間として病者に寄り添い苦悩をともに分かち合える人間性を目指す教育内容にしたいと考えた。さらに、仕事を継続しながら楽しく学べる方法の探索を行わない限り、移行教育をすすめることは不可能であろう。そこで、従来の看護カリキュラムに沿った展開方法ではなく、かれらになじみの深い日常的な看護現象から帰納的に学ぶ内容と方法を検討した。つまり、准看護婦・士自身が経験した事象を、今日の看護事情に引きつけて再構成する試みを取り入れ、現実に行っている看護実践を構造化したり対象化する訓練を盛り込んだプログラムを工夫した。これは、かれらの学習意欲を刺激し、能動的な学習が可能になるのではないかと考えたのである。これにより、本研究結果は、准看護婦問題調査検討会の提言「看護婦養成の統合に努めるために現行の教育レベルを確保しつつ、働きながら看護婦の資格を取得するための方策」にも活用できると思われる。なお、今後、これを有効に運用するためには、指導教官の育成、学習支援体制の整備が必須である。
結論
准看護婦・士の生涯教育の方法について、これまでの看護基礎教育の方法にとらわれず、かれらの日々体験する事象を帰納的に整理しながら、興味深く楽しく学べる指導方法を明らかにした。1)からだの仕組みとはたらき2)疾病の成り立ちと回復の促進 3)看護の基礎となる理論と技術についてそれぞれ作成したプログラムは、平成8年12月の「准看護婦問題調査検討会」における准看護婦・士の看護婦への移行の拡大を図るための方策にも活用できると思われる。

公開日・更新日

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