認知症者の記憶と見当識を補う情報呈示による不安軽減効果の研究

文献情報

文献番号
200718077A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症者の記憶と見当識を補う情報呈示による不安軽減効果の研究
課題番号
H19-長寿-一般-026
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
井上 剛伸(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 石渡 利奈(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
3,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
外的情報呈示により、記憶や見当識を補う新たなケア手法を提案し、これにより、初期から中期の認知症者の不安を軽減する。このために、以下の目標を設定した。
1.記憶と見当識を補う情報呈示手法の開発
2.情報呈示による認知症者の不安軽減効果の検証
研究方法
参与観察により得られたご飯の時間等を繰り返し聞く事例から、認知症者が出来事や予定の情報に関して、潜在的な不安を持っている可能性が示唆された。このため、記憶と見当識を補う情報として、「過去情報(本日の出来事)」、「現在情報(現在時刻)」、「未来情報(本日の予定)」を外的手段(情報呈示機器)を用いて提供し、効果を調べた。
1.情報呈示の内容・方法・場所に関して機器の仕様を提案し、プロトタイプを用いて各条件下での呈示実験を行った。理解度や利用頻度を発話分析から求め、認知症者の特性とニーズに対応した呈示手法を探索した。
2.提案した情報呈示手法に基づき、約4ヶ月間の介入実験を実施した。観察式スケールにより対象者の認知機能等を調べ、発話分析による関心度と比較した。また、発話分析と行動分析により、情報取得のパターンと取得回数を調べ、介入前後で比較した。
結果と考察
1.呈示内容については、現在時刻と次の予定の時間への関心が高かった。また、呈示方法については、「アナログ時計」と「予定表(単語)+文章表示」の理解度が高いことが示された。これは、情報の抽出が容易な予定表と、理解が容易な文章表示を組み合わせたためと考えられる。また、より視認されやすい場所での呈示において、機器への接近・指差し、情報に関する発話が増加し、視認されやすさが重要であることが示唆された。
2.関心度は、記憶障害・見当識障害がより軽度な者と重度な者では低く、その中間の記憶に混乱のある認知症者が情報呈示へのニーズを持つと考えられた。介入前は、入居者または職員に聞くことで情報取得を行っており、情報が得られていたのは、50%(職員に聞いたとき)であったが、介入後は97%に上昇した。このことから、機器を用いて情報呈示を行うことで、情報が常に得られるようになり、情報欠損による不安が軽減する可能性が示唆された。
結論
以上より、1日の出来事や予定に関して、認知症者の特性とニーズに対応した有効な情報呈示手法を提案した。情報呈示による補完効果は高く、提案した情報呈示をケアに取り入れることで、情報欠損への潜在的な不安を軽減できる可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2008-12-14
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200718077C

成果

専門的・学術的観点からの成果
認知症者を対象とした支援策の研究では、当事者の主観が得られないためにニーズの明確化や支援策の評価が難しく、これまで工学分野での研究が遅れてきた。本研究では研究者が認知症者の生活の場に入り込んで参与観察や音声画像データ収集を行い、発話や行動から支援策を求める手法を示した。本手法は、今後、認知障害者への工学的支援を展開していく上で、新たな支援機器の開発における幅広い応用が期待される。
臨床的観点からの成果
認知症者のケアは、従来人的支援を中心に行われてきたが、今後は、IT技術等を用いて、認知機能を補う機器やシステムによる支援を行っていくことも重要である。本研究では、出来事や予定の情報に関する認知症者のニーズを明らかにし、認知症者に有効な情報呈示手法を明らかにした。本手法により、情報呈示を用いた認知症者のケアを促進することができる。また、情報呈示機器の利用により、施設職員への質問の割合が半減した結果から、機器の利用が介護負担の軽減につながる具体例を示した。
ガイドライン等の開発
「情報の意味づけのしやすさ」、「情報の理解のしやすさ」、「情報の抽出のしやすさ」や「視認されやすさ」の観点から、認知症者への情報伝達に有効な情報呈示手法を示した。また、長期間の発話分析に基づく定量的データにより、認知症者が認知機能低下のために情報欠損に陥っている実態を明らかにし、その解決策として、情報呈示による情報補完の効果を示した。
その他行政的観点からの成果
認知症高齢者数は、2015年に250万人に達すると推計される。本研究で行った情報呈示による新たなケア手法の提案は、少子高齢化による介護力不足への対応の第一歩となる。
本研究は、新健康フロンティアのアクションプランにおいて以下の項目の立案に寄与した。
「認知症対策の一層の推進」の具体的取り組み
(2)認知症の方が安心して社会で暮らせる体制作り
→認知症の方の自立を支援するシステムの開発・実用化のための研究を推進する
その他のインパクト
・第2回認知症のある人の福祉機器シンポジウム―自立と家族を支える―を開催した。
・介護保険情報誌2008年1月号p42-45認知症ナビ32掲載記事「自立と家族を支える認知症のある人の福祉機器 国立リハセンターが第2回シンポ」の中で、本研究の内容が紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
準備中
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
準備中
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-