看護の質の確保に関する研究

文献情報

文献番号
199700330A
報告書区分
総括
研究課題名
看護の質の確保に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
菱沼 典子(聖路加看護大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 看護対策総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、先進諸国における看護婦(士)の免許更新制度とそれに伴う継続教育の実状を明らかにし、わが国の看護の質の確保のための、看護婦(士)の免許更新制度と継続教育について検討することが目的である。
研究方法
第一段階として、先進国WHOプライマリーヘルスケア看護開発協力センターに免許更新制度の有無に関する調査を行った。第二段階として、免許更新制度を有する先進4カ国(イギリス、オーストラリア、カナダ、アメリカ)に対し、免許更新を取り扱っている機関、手続き方法、免許更新の要件や各医療機関における免許更新制度の実態について質問紙を用いた郵送および面接調査を行った。その結果、得られたデータは記述的に分析した。
結果と考察
先進9カ国のうち、免許更新制度を取り入れている国は4カ国であり、免許更新に関する各国の状況は次のようである。
イタリア、韓国、スウェーデン、デンマーク、フランスの5カ国は免許更新制度を実施していないことが明らかになった。このうち韓国は免許の更新は行っていないが、継続教育は義務づけられており、継続教育を受けないと免許停止となる場合もあることがわかった。1)イギリスはUKCCによる「プロジェクト2000」の登録後の教育に関する改革に基づき、安全で効果的な看護ケアの質を証明することを目的として、すべての登録看護婦に新たな免許更新制度が2001年までに移行しようとする状況にあった。新制度では、3年間ごとに5日間の継続教育と実践能力の申告と実践を5年以上継続していることが義務づけている。実践していない場合の再登録には、そのための教育を受けることが義務づけられている。
2)オーストラリアは1992年に行われたNursing Actの改正により1年ごとの免許更新が規定されているが、その手続きや費用等は各州ごとに異なっており、継続教育の要件はない。更新の目的も州により様々であったが、社会に対する能力の保証、あるいは専門的な処置に対する訴訟を受けたときのは保護に役立つことであった。また、看護専門職としての自覚を促すための看護実践能力のセルフアセスメントしとその申告を通し、看護の質を高めようとする新たな動きが見られていた。
3)カナダはPublic Protection を目的として1年ごとの免許更新が規定されているが、その費用や要件は各州ごとに異なっていた。現在は継続教育との関連はなく、看護の質の保証のために免許更新制度の改革も考えられていた。
4)アメリカは2年ごとの免許更新が義務づけらており、共通して法的違反の有無が問われていたが、その手続きや費用、要件は州ごとに異なっていた。継続教育を要件としている州は約半数であった。ミネソタ州の例では継続教育が義務づけられていたが、専門看護婦と一般のRNとでは内容が異なっていた。一般のRNの場合は2年間に約20時間の継続教育が定められ、その内容はBoardが基準を示しており、継続教育の質が確保されていた。免許更新の有効性は認めながらも施設として配慮があるところは少なく、専門職として個々人の問題として捉えられているところもあった。
免許更新制度を有する国に共通していたことは、免許更新は法で定められており、更新機関がNursing Board(ボード)であり、郵送による自己申告制であった。更新に必要なものは更新書類のほか、更新料であり、更新書類の内容は就業状況、法的罰則の有無であった。また、就業している限りにおいて、免許更新は、すべての登録看護婦に義務づけられていた。免許更新の意味は、国民に対して等しく看護の質を保証することであったが、アメリカでは、郵送による手続きだけで更新が可能な州もあること、州毎の基準にのっとっていることで等しく質の保証が可能であるかという議論があるとの回答もあった。一方、州によっては、薬物濫用者の取り締まりなどの法的罰則の有無を確認することで、看護婦のモラルを問うという、最も基本的な意味での質の保証も含まれており、免許更新には幅の広い意味での質の保証が含まれていることがわかった。また、オーストラリアでは免許更新によって就業看護婦数把握に役立つという利点もあった。このような意味から考えると、就業看護婦としてのモラルの確認や就業数の把握と言った免許更新の利点は、我が国で既に行われている2年ごとの就業届けの見直しでも十分であるかもしれない。しかし、看護の質を保証することを目的とするならば、自分の看護実践能力を査定し申告するイギリスやオーストラリアの方法や、イギリス、アメリカ(一部の州)のような継続教育をとの関連が必要であろう。そして、そのための継続教育は一定の基準を持った看護の質の維持・向上につながるものであることが必要であり、アメリカのように多様な教育の機会が得られるような配慮も看護の質の保証には意味があると推察される。
今回の結果から、諸外国においては、看護の質の確保のために、専門職として個人が自らの資質を高めていくことが要求されていた。我が国においても、専門職としての自己研鑽が不可欠と考えるとき、看護の質を確保するためのあり方として、必要な教育内容を明らかにすると共に教育内容をいかに保証するか、教育の機会をどのようにして均等に提供するかという課題があることがわかった。そのためには、第一に教育内容の保証に関しては、アメリカにみるように、教育内容について一定の基準をもち、常にその教育を評価し続けることが必要であろう。第二に、継続教育の機会を等しく提供するためには、各施設等でプログラムされた教育以外の多様な機会(学会、セミナー、通信添削など)を利用することが必要になる。これは、我が国における地域格差をうめる一助にもなるであろう。今後イギリスは、国全体として一律に継続教育を課していこうとする方向であり、どのように実施していくかは、日本での検討の参考になるであろう。
結論
免許更新制度は法的規制のもと幅広い目的をもって実施されていたが、継続教育とは必ずしもリンクしていないことが明らかになり、免許の更新がそのまま看護の質の確保にはつながっていない可能性があることがわかった。継続教育を免許更新の要件にしている場合には、そのプログラムの内容や教育方法に一定の基準を設けているところもあった。看護の質を確保していくためには、効果的な継続教育を検討していくことが現段階では重要であると考える。

公開日・更新日

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