アルツハイマー病巣での膜結合型プロスタグランジンE合成酵素1の生物学的・臨床医学的意義の解析

文献情報

文献番号
200718071A
報告書区分
総括
研究課題名
アルツハイマー病巣での膜結合型プロスタグランジンE合成酵素1の生物学的・臨床医学的意義の解析
課題番号
H19-長寿-一般-020
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
工藤 一郎(昭和大学薬学部)
研究分担者(所属機関)
  • 原 俊太郎(昭和大学薬学部)
  • 高橋 三津雄(福岡大学薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
21,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
プロスタグランジン(PG)類産生を抑制する非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)がアルツハイマー病(AD)の進行を抑えることが疫学的に示されているが、PG類産生とAD進行との関連については未だ明確にされていない。本研究では、炎症刺激により発現が誘導され、様々な疾患の進行に関わる膜結合型プロスタグランジンE合成酵素1(mPGES-1)に注目し、本酵素とAD進行との関連を明らかにするとともに、mPGES-1阻害剤がADに対する治療薬となりうる可能性を検証することを目的とする。
研究方法
AD、非ADの脳神経症、対照患者の剖検脳組織を用い、mPGES-1および他のPGE合成酵素(cPGES、mPGES-2)について免疫組織化学的解析を行った。さらに、GFAPなどの各々の神経細胞に特異的なマーカー蛋白質と二重染色を行うことで、mPGES-1発現細胞を同定し、アミロイドβペプチド(Aβ)やリン酸化tauと二重染色を行うことで、病態進行とmPGES-1発現との関連を検討した。また、AD患者および健常人より尿を採取し、尿中のPGE2および代謝物をEIAキットにより定量した。さらに、実験モデルにおけるADとmPGES-1の関連について解析するために、老人斑を自然発症するADのモデルマウスTG2576の脳を用いた免疫組織化学的解析、ラット培養神経細胞C6をAβ刺激した際のmPGES-1の発現についての検討を行った。
結果と考察
1) AD患者脳の海馬では、非AD神経疾患の患者や対照者に比べ、mPGES-1の蛋白質が高発現していること、さらにAD患者の脳におけるこのmPGES-1の陽性シグナルがneuronのマーカー蛋白質MAP2の陽性シグナル及びADの病巣部(リン酸化tauの発現部位や老人斑)と重なることを見出した。一方、mPGES-1以外のPGESについては、その発現と病態との間に関連は見られなかった。
2) 16ヶ月齢のTG2576マウスの脳では、mPGES-1蛋白質が老人斑周辺のastrocytesにおいて高発現していることを見出した。そこで、mPGES-1遺伝子欠損TG2576マウスを作製し、その飼育を開始した。また、ラット培養神経細胞C6をAβで刺激すると、mPGES-1の発現が誘導されることも明らかとなった。
3) 症例数が少なくADの病態との明確な関連は示せなかったものの、AD患者で尿中PGE2およびその代謝物量が増加する傾向が見られた。

結論
AD患者の脳では、mPGES-1の発現が亢進し、その結果産生が増大したPGE2がAD進行に何らかの形で関与している可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2008-12-14
更新日
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