看護ケアの質の評価基準に関する研究

文献情報

文献番号
199700328A
報告書区分
総括
研究課題名
看護ケアの質の評価基準に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
片田 範子(兵庫県立看護大学)
研究分担者(所属機関)
  • 内布敦子(兵庫県立看護大学)
  • 上泉和子(兵庫県立看護大学)
  • 山本あい子(兵庫県立看護大学)
  • 近沢範子(1995まで)(兵庫県立看護大学)
  • 粟屋典子(国家公務員共済組合連合会虎ノ門病院)
  • 堀内成子(1995まで)(聖路加看護大学)
  • 森山弘子(1996)(元東京大学医学部付属病院看護部長)
  • 茂林和子(1996)(国立国際医療センター看護部長)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 看護対策総合研究事業
研究開始年度
平成5(1993)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
看護ケアの質を評価する基準を探索し、看護ケアの質を評価する簡便で実用性に富む妥当なツールを開発する。1997年度は加えて看護量の適切な測定方法を検討する。各年度ごとに次のような目標を順次設定し、最終的に看護ケアの質の評価を行いうるツールを開発した。
・1993年度:看護ケアの質の評価に関する国内外文献の検討、デルファイ法による看護ケアの質の要素の抽出、開発中の既存の看護ケアの質評価用質問紙(QA-PT,QA-NS)の精錬  ・1994年度:要素を構成する看護の技術を明らかにする(質的研究)、9つの質を構成する要素の妥当性を検討(量的調査)、QA-PT QA-NSはQACQ-PT,QACQ-NSとしてさらに精錬、それらの構成概念妥当性、関連妥当性、内的整合性、安定性の検定  ・1995年度:看護の技術を実現するために評価すべき指標の検討、指標に沿って評価内容や評価方法を考案し評価ツール第1版を作成、第1版(構造指標、過程指標、結果指標による評価ツール)の試用、QACQ-PT,QACQ-NSの予測妥当性の検討  ・1996年度:第1版試用結果の分析、改善と第2版の作成、第2版試用と評価尺度の暫定的設定、患者・家族調査質問紙の信頼性検討、患者・家族調査質問紙の併存妥当性の検討  ・1997年度:第2版試用結果の分析、改善と第3版の作成、第3版の試用と評価尺度の設定、評価提言報告書作成、患者・家族質問紙得点の標準値の探索、転倒・転落・褥創の発生率の標準値の探索、妥当な看護量の測定方法の検討
研究方法
1993年度:面接調査によって得られた記述データの内容を分析し分類した結果をデルファイ法によって順位を決め要素を抽出した。開発中の既存の看護ケアの質評価用質問紙(QA-PT,QA-NS)の精錬においては「該当せず」回答の内容の分析と統計学的手法(SPSS-PC)によって改訂版の信頼性と妥当性を検討した。  ・1994年度:看護場面の参加観察法によって得られた記述データをクラウンデッドセオリーの手法を用いて構造化する質的研究を行った。同時に9つの質を構成する要素の妥当性について量的調査を行い因子分析によって要素の妥当性を裏付けた。QACQ-PT,QACQ-NSの構成概念妥当性、関連妥当性、内的整合性、安定性の検定には多変量解析ソフトHALBAUを用いた。  ・1995年度:看護の実践家を含む研究者によるディスカッションによって看護の技術を実現するために評価すべき指標を検討し、指標に沿って評価内容や評価方法を考案し評価ツール第1版を作成した。さらに第1版(構造指標、過程指標、結果指標による評価ツール)のパイロットスタディを行った。QACQ-PT,QACQ-NSの予測妥当性の検討には患者の健康度をQAM(Quality Audit Marker)を同時に測定し統計学的手法を用いてQAMへのQACQ-PT QACQ-NSの影響度を見た。  ・1996年度:第1版パイロットスタディの結果を分析、改善と第2版の作成し、第2版の試用と評価尺度の暫定的設定をした。結果指標に関しては、患者、家族調査質問紙の信頼性と併存妥当性を量的に検証した。   ・1997年度:第2版試用結果の分析、改善と第3版の作成し、第3版の試用と評価尺度の設定を行った。さらに評価提言報告書を作成した。患者、家族質問紙得点の標準値の探索、転倒・転落・褥創の発生率の標準値の探索については量的調査によって行った。看護量の測定については文献検討と実施している病院に出向き評価の実態を調査した。
結果と考察
1993年度に明らかになった看護ケアの質の要素は次の9つである。?人間性を尊重する ?信頼関係を重視する ?苦痛の緩和 ?看護婦の姿勢 ?個別性の尊重?家族へのケア ?モニタリング機能 ?ケア体制の条件 ?適切な看護過程。QA-PT QA-NSの信頼性と妥当性は検証された。「該当せず」回答の理由は、質問内容が患者の状態に合っていない、看護婦が行っていることを患者が認識していないというものであった。
1994年度に質的研究によって明らかになった看護ケアの質の要素を構成する看護の技術は次のようなものである。苦痛の緩和における看護の技術では、「患者の痛みの読みとり技術」「患者がいる場の調整技術」「患者の内なる力を強める技術」「患者の痛みへの介入技術」という4つの技術と「患者とともにいる」「看護婦の技量」という関連要素が参加観察によって明らかになった。家族を含めたケアでは、「場を作る技術」「招き入れの技術」「区切りの技術」「保つ技術」の4つが明らかになった。モニタリング機能では、「情報への接近」「情報をとる」「統合する」「判断する」という4つの技術が確認された。医療チームの連携では、「場を読みとる」「手配する」「演出する」「補佐する」「場づくりをする」という5つの技術が確認された。新たに加えた日常生活の改善・維持の技術では、「患者の安心・安楽を広げる技術」「日常生活に戻す援助技術」「観察技術」の3つが確認された。9つの要素の妥当性について量的調査を行いそれは検証された。またQA-PT QA-NSはそれぞれQNCQ-PT QNCQ-NSとし、さらなる精錬を行い構成概念妥当性、関連妥当性、内的整合性、安定性の検定を行い、いずれも検証された。
1995年度は各技術を保証するような構造指標、過程指標、結果指標を提案し、看護ケアの質の評価ツール第1版を作成し、パイロットスタディを行った結果、簡便性やデータの客観性などの点から改善点が提示された。インシデントについては病棟の看護ケアの管理責任を持つ婦長にインタビューを行い、評価方法を模索した。QACQ-PT,QACQ-NSの予測妥当性はQAMとの関連性においてQACQ-PTのみ支持された。
1996年度は、第1版の結果分析によって指摘された改善点を修正し第2版として、全国の広い範囲で試用した。実施してみて設定した評価項目や評価内容によって評価できることを確認した。同時に患者、家族用質問紙はその信頼性が検証された。
1997年度は、第2版の分析によって指摘された部分を修正し、第2版の結果の分布を考慮して尺度を設定した。3版として、看護料算定に用いられている基準の区分の異なる病棟を対象として試用しその汎用性を見た。評価の結果、点数の分布にある程度ばらつきを認め、評価ツールとして適切であることが確認できた。患者、家族質問紙とインシデントの発生率については標準値を探索するため量的調査をおこないヒストグラムを作成した。さらに評価報告書として対象となった病棟に示し、実感と合っているか、また改善につながる評価報告書であるかどうか意見をもらい、このツールが看護ケアの質を的確に評価していることや改善点が具体的で見えやすくなっていることが予測された。構造、過程、結果(アウトカム)の3側面の関連性も指摘することができ、効率的な改善を提言できるツールであることがわかった。看護量の測定は原型評価法が実用的であることがわかった。
結論
3回の改訂を重ね、看護ケアの質の評価ツールとして、簡便性、実用性、汎用性をある程度満たした評価用具を開発することができた。患者、家族用質問紙については信頼性、妥当性の検証も行った。評価報告書が現場の看護婦の実感と一致してることや改善につながりやすいという感想も聞かれており、質の改善に貢献しうる評価ツールであることが考えられる。先に開発したQACQ-PT QACQ-NSの各種検証作業も終了した。今後、ツールの運用システムが整備されれば我が国の看護ケアの質を評価するツールとして広く用ることができ、データを蓄積により指標の妥当性が徐々に検証されると考える。

公開日・更新日

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