こころのケア技術研究

文献情報

文献番号
199700326A
報告書区分
総括
研究課題名
こころのケア技術研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
野嶋 佐由美(高知女子大学家政学部看護学科)
研究分担者(所属機関)
  • 加納川栄子(高知女子大学家政学部看護学科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 看護対策総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、「織りなすこころの看護」モデルに基づいて、『こころのケア指針』を作成し、臨床の場で活用できるものに開発していくことをめざしている。
研究方法
4段階の手順を経て『こころのケア指針』を検討し評価した。第1段階では、研究メンバーによる内容妥当性の検討を行った。第2段階では、エキスパートナースからなるフォーカスグループにおいて、第1回目の検討を行った。フォーカスグループでは、司会者がインタービューガイドに沿って質問し、『こころのケア指針』の臨床での活用の可能性と修正の必要性について様々な意見を得ることができた。討議時間は、約2時間であった。これらに基づいて、『こころのケア指針案?』を作成し、第2回目のフォーカスグループを開催する1週間前に参加予定者に配布し、臨床場面で活用することが可能かどうかの検討を依頼した。第3段階では、実際に各々の病棟に入院中の患者1~2名に『こころのケア指針案?』を活用した後に、第2回目のフォーカスグループによる検討を行った。ここでは、実際に『こころのケア指針案?』を活用して気付いたことや考えたことなどについて討議し、さらに、アセスメント、各レベルの働きかけの基本的な姿勢、働きかけの方法に対して意見や感想を得ることができた。さらに、これらに基づいて修正を行い、『こころのケア指針案?』を作成した。第4段階では、看護管理者から構成されるフォーカスグループで検討し、これらに基づいて、『こころのケア指針』の洗練化を行った。討議(約2時間)の内容は、いずれもカセットテープレコーダーに録音し、内容を分析した。また、最終回のフォーカスグループ終了後、再度、参加者全員に対して『こころのケア指針に関するアンケート』を実施した。参加者にアンケート用紙と返信用封筒を入れた封筒を手渡し、無記名で返送するよう依頼した。
結果と考察
「織りなすこころの看護」においては、心理的・情緒的側面へのケアばかりでなく、身体のケアを通したこころのケア、日常生活への援助を通したこころのケアが、看護婦にとっては重要であることが判明した。そこで看護ケアユニットの決定に際して、心理的な側面、身体的な側面、日常生活の側面の3つを取り上げることができるように考慮した。「不安」「癌性疼痛」「自己管理への意欲」をケアユニットとして選択し、「不安のある患者へのこころのケア指針」「癌性疼痛のある患者へのこころのケア指針」「自己管理に問題がある慢性疾患患者の意欲に働きかけるこころのケア指針」を作成した。それぞれの『こころのケア指針』は、「アセスメント」「働きかけの選択」「働きかけの方法」の3部門から構成されている。また、どのような働きかけを選択すべきかを示唆する意味で、アセスメントの3段階のレベルに求められる看護の方向性を、働きかけの基本的姿勢として記述し、それに基づいて「働きかけの選択」ができるようにした。『こころのケア指針』を活用する看護婦は、看護ケアユニットに関して、3段階のどのレベルにあるのかアセスメントを行う。該当するレベルの働きかけの基本的姿勢を参考として、必要なこころのケア、働きかけとして掲げてある主要な働きかけの方法の中から、適切な働きかけを選択し、重点の置き方を工夫する。さらに、主要な働きかけ方法を3段階毎に具体的な行動レベルで例示しているものを参考として、患者に看護援助を行う。不安では、「情緒的サポートを提供する」「リラックスを促す」「現実認識を深める」「対処能力を高める」「状況を整える」「自尊感情を高める」「薬物療法の効果を利用する」の7つを、自己管理への意欲では、「情緒的サポートを提供する」「病気や自己管理に対する現実認識
を深める」「自己管理の実行を支援する」「自信を高める」「患者教育を行う」「状況を整える」の6つを、癌性疼痛のある患者への働きかけとしては、「薬物療法の効果を高める」「情緒的サポートを提供する」「痛みに対する現実認識を深める」「対処能力を高める」「状況を整える」「リッラクスを促す」の6つを取り上げた。『こころのケア指針』の中に、アセスメントのポイント、働きかけの基本的な姿勢や働きかけの方法を示したことにより、看護援助の方向性が明確になり、患者へのこころのケアを実践していく上で役立つことが明らかになった。すべてのケアユニットにおいて、看護婦は、必要性を認識しながらも、「現実認識を深める」働きかけや「対処能力を高める」働きかけを比較的活用していなかった。看護者は、『こころのケア指針』を実際に患者に適用することにより、日常の患者との関わりの中に、看護の専門性や独自の役割が存在していること、さらに、自らが追求すべきケアの本質に気づくことにより、患者と共に歩むこころの看護の実践には、看護婦自身の自己成長と自己変革が求められることをも認識できていた。『こころのケア指針』が看護実践にもたらす効果として、看護管理者から、(ア)看護婦のこころのケアに対する動機付けとなった、(イ)看護婦の学習意欲が高まった、(ウ)アセスメントや看護計画の立案がスムーズにかつ的確になされるようになった、(エ)カンファレンスでお互いの意見を交換することにより患者の状態に合った一貫した関わりができるようになった、(オ)実際に患者の状態の変化をもたらすことができたことが報告された。また、『こころのケア指針』の実践での効果的な用い方として、(ア)看護過程の展開の際にベッドサイドのケア指針として用いる、(イ)他職種に対して看護の働きかけの意義と専門性を示す一つの資料として用いる、(ウ)看護の継続教育の資料として用いる、(エ)看護婦の看護への気付きを促すために用いる、(オ)ケアの見直しや評価のために用いるなど、看護の実際場面での活用が十分可能であると考える。『こころのケア指針』の問題点としては、アセスメントの視点を用いた患者のレベル分けの困難性が挙げられた。特に“自己管理への意欲"の指針に対しては、より的確なアセスメントの視点を求める意見が多かった。全体的に指針で使用されている言葉の表現が抽象的で行動化が難しいこと、さらに、他職種と共有できる指針にするためには、相互に共通認識をすることができる、より明解な言葉を用いたものへと修正していく必要がある。
結論
織りなすこころの看護ケアとは、患者-看護婦関係を土台として、看護婦の臨床判断に基づいて患者の心・身体・生活を統合させ、24時間を通したケアを提供することにより、患者に生きる力を与え、患者の自己決定能力や問題解決能力を高めていくものである。さらに、これらの看護ケアの実践を通して、看護婦自身の専門職としての自尊感情や自己実現を高めていくことが明らかにされた。また、こころのケア行動として15のケア行動が明らかにされ、今回のケア指針の働きかけの方法の中にそれらのケア行動が駆使されている。『こころのケア指針』は、現状の看護体制や看護方式に関わりなく、看護婦にこころの看護を導く有意義な指針の1つのモデルとして、実際の患者ケアに活用可能なことが明らかになった。さらに、臨床の看護婦は、経験年数に関わりなく、『こころのケア指針』により看護実践に根ざすケアの本質を再確認し、それにより看護する自信・喜び・意味を見いだすことができていた。また、こころのケア指針の効果として、患者ケアの充実とケアの達成度の向上、そして看護婦自身の専門職としての成長を促し、看護ケアの質の向上に貢献できることが明らかにされた。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)