老人の在宅ケアにおける看護技術研究

文献情報

文献番号
199700325A
報告書区分
総括
研究課題名
老人の在宅ケアにおける看護技術研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
川村 佐和子(東京医科歯科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 平林勝政(国学院大学)
  • 川越博美(聖路加看護大学)
  • 数間恵子(東京医科歯科大学)
  • 宮崎和加子(健和会訪問看護ステーション統括本部)
  • 横田喜久恵(医療法人社団慶成会新宿訪問看護ステーション)
  • 数藤綾子(白十字訪問看護ステーション)
  • 牛込三和子(東京都神経科学総合研究所)
  • 牛久保美津子(東京医科歯科大学)
  • 天野志保(東京医科歯科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 看護対策総合研究事業
研究開始年度
-
研究終了予定年度
-
研究費
3,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年の在宅医療の推進により、在宅で医療処置を実施・管理している療養者は増加傾向にあり、その看護は、複数の医師・看護婦が療養者に関わり、かつ看護婦は医師が常駐しない状況でさまざまな判断を行いながら、医師との連携をはかって医療処置の実施・管理を行なわなければならないという特徴がある。在宅での医療処置の管理を看護婦が安全に行い、質を維持する方法に、さまざまな状況に対する判断と行動の道筋を医師との事前協議や取決めに基づいて示したプロトコールの活用があるが、わが国では未だその試みはなく、その作成・整備は在宅看護の質の維持・向上には緊急の課題である。
本研究は、平成6年度より行っている老人の在宅ケアにおける看護技術研究の一貫として、これまでの研究成果を踏まえ、次の目的で行った。
1.在宅看護において取り扱う機会の多い医療処置として、経管栄養法管理、膀胱カテ-テ ル留置法管理、末期がん患者の疼痛コントロ-ル、および人工呼吸法管理を取りあげ、 安全な実施・管理のためのプロトコール試案を作成する。
2.昨年度に開始した「訪問看護における褥瘡管理プロトコ-ル」の検討に関して、褥瘡予 防・改善のための栄養管理、および除圧管理についての判断樹試案を作成する。
研究方法
医療処置の管理プロトコ-ル試案作成では、4つの医療処置に関してそれぞれ実践経験の豊富な都内3訪問看護ステ-ションおよび都研究所を選び、各ステ-ションおよび研究所ごとに、分担した医療処置に関して最近の代表的な在宅看護事例を抽出し、次いで、それらの事例について、医師の訪問看護指示書や訪問看護記録の調査、主治医の意見や看護婦の判断過程についての聞き取り調査を行った。得られた資料をもとに、分担グループごとに所属看護婦間でのカンファレンおよび医師との情報交換を行って、試案を作成した。各試案作成過程では、並行して全体での定期的な討議・検討を行い、他の試案との調整・統一を計った。
褥瘡管理プロトコ-ル試案作成では、東京都と中部地区の訪問看護ステ-ション32施設を選んで自記式調査票を郵送し、所属訪問看護婦 315名に無記名で回答を依頼した。調査内容、昨年度の「褥瘡管理のプロトコ-ル(試案)の作成」の結果および AHCPRを参考にし、褥瘡予防のための栄養管理・除圧に関して、必要と考えるアセスメント項目と判断基準について、多肢選択式または自由記載で回答を設定した。試案は回収された調査票 131票(回収率41.6%)の回答を分析し、共通する用語あるいは数値を主に用いて作成した。
結果と考察
各医療処置の管理プロトコ-ル試案には以下を含めた。1.プロトコ-ルを使用する対象者と看護婦の条件、2.各医療処置に関して;必要性(導入)を医師に提案するための根拠を得る思考過程、その処置が適切であるかどうかの判断過程、中止を医師に提案するための根拠を得る思考過程、の判断経路を示す判断樹、3.各医療処置の適切性に関して;医師に報告する必要がある項目とその判断基準、4.各試案に関して;今後明らかにする必要がある点、使用に際しての注意点や限定条件とした。
経管栄養法管理プロトコ-ル試案を例に内容を示す。1.プロトコ-ル使用対象者の条件は、?在宅で経管栄養法を行っている人、?在宅療養者で何らかの事情で経管栄養法の適応を検討する人で、使用する看護婦の条件は、?経管栄養法の対象者の看護経験5例以上、?経管栄養法の適応や仕組みを理解しており、起こりうる症状やトラブルについて熟知し、対応できる知識・技術がある、?1主治医と常に連絡や連携がとれる、とした。判断樹は、経管栄養法全体の流れを大きく5段階として示し、その中でも次の段階の判断樹を作成した。経管栄養法の必要性と方法の選択、経管栄養実施中の管理、経管栄養中止である(それぞれの判断樹は割愛する)。経管栄養実施中の処置の適切性に関して医師に報告する必要がある項目は、全身状態に関して、腹満・嘔気・嘔吐、下痢・便秘、栄養剤が滴下しない、不意の抜去、肥満・るいそう、発熱の6項目と、経鼻カテ-テルあるいは胃瘻カテ-テルに関して観察する必要がある項目を設定し、それぞれ判断基準を設定した。なお、老衰やがんのターミナル期では経口摂取不可能になることが多いが、栄養状態が不良でも、必ずしも経管栄養法を選択するとは限らないことが確認された。
褥瘡管理プロトコ-ル試案に関しては、栄養状態の評価と栄養補給の判断樹(図1)と
組織への負荷の管理の判断樹を作成した。前者は、医療機関とは離れているという在宅看護が特徴から、看護婦のフィジカルアセスメントを中心とした判断経路とした。後者では、褥瘡の stage分類と併せたアセスメントにより、エアマットと他の体圧調整用具の使い分けができ、経済的な面での効果も期待できるようにした。
結論
在宅における経管栄養管理、膀胱カテ-テル留置法管理、末期がん患者の疼痛コントロ-ル、人工呼吸法導入、および褥瘡患者の栄養管理と体圧管理に関してプロトコ-ル試案を作成した。今後、多くの事例に適用して改善をはかるとともに、他の医療処置についても、安全な管理のための試案を作成する必要がある。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)