男性ホルモン低下に起因する老年病の治療戦略とその機序に関する総合研究

文献情報

文献番号
200718012A
報告書区分
総括
研究課題名
男性ホルモン低下に起因する老年病の治療戦略とその機序に関する総合研究
課題番号
H17-長寿-一般-046
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
秋下 雅弘(東京大学医学部附属病院 老年病科)
研究分担者(所属機関)
  • 神崎 恒一(杏林大学 医学部)
  • 柳瀬 敏彦(九州大学大学院 医学研究院)
  • 堀江 重郎(帝京大学 医学部)
  • 熊野 宏昭(東京大学大学院 医学系研究科)
  • 若槻 明彦(愛知医科大学)
  • 近藤 宇史(長崎大学 医歯薬総合大学院)
  • 山田 思鶴(老人保健施設 まほろばの郷)
  • 寺本 信嗣(東京大学大学院 医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
13,779,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
老年病の発症・進展におけるアンドロゲン低下の意義とその治療法について検討することを目的とする。
研究方法
1)アンドロゲン低下と老年病との関連を検討する横断・縦断観察研究、2)アンドロゲン補充療法の効果を検討する介入研究、3)アンドロゲンの作用機序に関する基礎研究を実施した。
結果と考察
1)健常中年男性(33名、平均49歳)では、総テストステロン(T)、DHEA-Sともに5年間で有意な低下はみられなかった。生活習慣病を有する中高年男性(176名、平均48歳)では、平均76か月の追跡で、総T低値群(下位1/3、410ng/dL未満)に心血管イベントの発生が有意に多く、他の危険因子で調整後も2.8倍のオッズ比を示した。閉経後うつ病女性患者では、健常者群と比較して、estrone、osteocalcin は有意に低く、総Tは有意に高かった。睡眠時無呼吸症候群患者は、年齢層にかかわらず血漿アドレノメデュリンが有意に高かったが、性差はなかった。男性認知症患者(147名、平均77歳)では、遊離T濃度が認知機能と正の相関を示し、2年後および3年後には遊離T低値群で認知機能点数の低下が認められる一方、高値群では点数の低下が認められなかった。2)健常中高年男性(11名、44-65歳)に対する6ヶ月間のDHEA投与(25 mg/日内服)により、特に副作用はみられず、糖代謝関連マーカーは軽度ながら改善傾向を認めた。閉経後女性のエストロゲン補充療法に酢酸メドロキシプロゲステロンを併用することで内因性NO合成阻害物質asymmetrical dimethylarginine (ADMA)の濃度は影響されなかった。男性更年期患者(20名、平均53歳)に対するSildenafil内服により、6ヶ月後の血清及び唾液テストステロン濃度は有意に増加した。高齢骨粗鬆症患者に対する6ヶ月間のDHEA補充療法(25 mg/日内服)により、対照群と比べて大腿骨骨密度の増加傾向を示した。3)テストステロンによる内皮型NO合成酵素の活性化には、内皮細胞で豊富に発現するアンドロゲン受容体とPI3K/Akt経路、ERK経路の両方が関与した。テストステロンによる血管平滑筋石灰化の抑制は、アンドロゲン受容体を介したgas6の発現回復と細胞死の抑制に関連するものであった。DHEAは、レドックスシステムの活性化を介して血管平滑筋細胞における増殖シグナルPDGF-BBの働きを阻害した。
結論
老年病の発症・進展にアンドロゲン低下が深く関係しており、今後も研究を継続していく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2008-04-11
更新日
-

文献情報

文献番号
200718012B
報告書区分
総合
研究課題名
男性ホルモン低下に起因する老年病の治療戦略とその機序に関する総合研究
課題番号
H17-長寿-一般-046
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
秋下 雅弘(東京大学医学部附属病院 老年病科)
研究分担者(所属機関)
  • 神崎 恒一(杏林大学 医学部)
  • 柳瀬 敏彦(九州大学大学院 医学研究院)
  • 堀江 重郎(帝京大学 医学部)
  • 熊野 宏昭(東京大学大学院 医学系研究科)
  • 若槻 明彦(愛知医科大学)
  • 近藤 宇史(長崎大学 医歯薬総合大学院)
  • 山田 思鶴(老人保健施設まほろばの郷)
  • 寺本 信嗣(東京大学大学院 医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
老年病の発症・進展におけるアンドロゲン低下の意義とその治療法について検討することを目的とした。
研究方法
1)アンドロゲン低下と老年病との関連を検討する横断・縦断観察研究、2)アンドロゲン補充療法の効果を検討する介入研究、3)アンドロゲンの作用機序に関する基礎研究を実施した。
結果と考察
(1)9集団(計900名)を対象とした研究により、1)健常中高年;男女とも糖脂質代謝とホルモン濃度は関連なし。2)生活習慣病;男性のテストステロン濃度、女性のDHEA-S濃度が血管内皮機能およびメタボリックシンドローム指標と独立した関連。男性のテストステロン低値が6年間の心血管イベントと関連。3)うつ病;男女でホルモン分泌能に異常がみられた。4)認知症;男性のテストステロン濃度が認知機能およびその2-3年の変化と関連。5)地域在住超高齢女性;DHEA-S濃度が認知機能と関連。6)要介護高齢者;男性のテストステロンが日常生活機能全般と、女性のDHEA-Sが基本的ADLと関連。男性のテストステロンおよびDHEA-S低値が2年後の死亡と関連。(2)7集団(計200名)を対象とした研究により、1)健常中高年;DHEAは男性の糖代謝、エストロゲンは女性の脂質と内皮機能を改善。2)虚弱高齢者;テストステロン補充療法は男性の認知機能を改善。DHEAは女性の認知機能と基本的ADL、骨塩量を改善。3)運動療法;高齢男女でテストステロン、DHEA-S濃度の増加。高齢女性で認知機能の改善。(3)1)テストステロンの抗動脈硬化作用;アンドロゲン受容体を介した内皮型NO合成酵素の活性化作用と血管平滑筋細胞の石灰化抑制作用。2)DHEAは心筋の酸化ストレス応答性および血管平滑筋細胞の増殖シグナルを抑制。
結論
男性のみならず女性においても、老年病の発症・進展にアンドロゲン低下が深く関与していると考えられる。また、アンドロゲン補充療法および代替療法に老年病の進行予防効果が期待できる。

公開日・更新日

公開日
2008-06-18
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2008-12-16
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200718012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
メタボリックシンドローム、動脈硬化、勃起障害、認知症、虚弱化といった高齢者の疾病状態にアンドロゲン低下が寄与することを臨床的に示し、その機序の一部を基礎研究で明らかにした。
臨床的観点からの成果
少数例ではあるが虚弱高齢者に対するアンドロゲン補充療法およびその代替療法としての運動療法の有効性を示した。また、多数の観察研究により、アンドロゲン補充療法の幅広い適応を示唆した。
ガイドライン等の開発
結果の一部は、介護予防ガイドライン(厚生科学研究所発行)に盛り込まれた。今後、日本Men's Health医学会などの専門医学会によるガイドラインに反映されることが予想される。
その他行政的観点からの成果
明らかな成果なし。
その他のインパクト
朝日新聞記事(2007年10月22日夕刊)などに研究内容が紹介された。日本Men's Health医学会主催の公開セミナーで発表。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
20件
その他論文(和文)
44件
その他論文(英文等)
12件
学会発表(国内学会)
94件
学会発表(国際学会等)
8件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Akishita M, Hashimoto M, Ohike Y, et al.
Association of plasma dehydroepiandrosterone-sulfate levels with endothelial function in postmenopausal women with coronary risk factors.
Hypertens Res. , 31 , 69-74  (2008)
原著論文2
Akishita M, Hashimoto M, Ohike Y, et al.
Low testosterone level is an independent determinant of endothelial dysfunction in men.
Hypertens Res. , 30 , 1029-1034  (2007)
原著論文3
Kanda M, Ihara Y, Murata H, et al.
Glutaredoxin modulates PDGF-dependent cell signaling by regulation the redox status of low molecular weight rpotein tyrosine phoshatase.
J. Biol. Chem. , 281 (39) , 28118-28128  (2006)
原著論文4
Urata Y, Ihara Y, Mutara H, et al.
17β-Estradiol protects against oxidative stress-induced cell death though the glutathione/glutaredoxin-dependent redox regulation of Akt in myocardiac H9c2 cells.
J. Biol. Chem. , 281 (19) , 13092-13102  (2006)
原著論文5
Nonaka K, Kume N, Urata Y, et al.
Serum levels of S-glutathionylated proteins as a risk-marker for arteriosclerosis obliterans.
Circ J , 71 (1) , 100-105  (2007)
原著論文6
Yoshida NM, Kumano H, Kuboki T.
Does the Aging Males' Symptoms scale assess major depressive disorder?: a pilot study.
Maturitas , 53 , 171-175  (2006)
原著論文7
Yasuda M, Horie S.
DHEA and testosterone in the elderly.
N Engl J Med , 356 (6) , 635-636  (2007)
原著論文8
Yasuda M, Furuya K, Yoshii T et al.
Low testosterone level of middle-aged Japanese men – the association between low testosterone levels and quality-of-life.
J Men’s Health and Gender , 4 , 149-155  (2007)
原著論文9
Yasuda M, Horie S, Steven M A et al.
The prevalence of depressive symptoms and other variables among frail aging men in New York City's Personal Care Services program.
J Men’s Health and Gender , 4 , 165-170  (2007)
原著論文10
Muto S, Yasuda M, Kamiyama Y et al.
Testosterone decreased urinary-frequency in nNOS-deficient mice.
Int J Androl , 31 , 67-70  (2008)
原著論文11
Yasuda M, Honma S, Furuya K et al.
Diagnostic significance of salivary testosterone measurement using both LC-MS and ELISA.
JOURNAL of Men’s Health and Gender  (2008)
原著論文12
Yasuda M, Ide H, Furuya K et al.
Salivary 8-OHdG: a useful biomarker for predicting severe ED and Hypogonadism
The Journal of Sexual Medicine  (2008)
原著論文13
Fan W, Yanase T, Nomura M et al.
Androgen receptor null male mice develop late-onset obesity due to decreased energy expenditure and lypolytic activity but show normal insulin sensitivity with high adiponectin secretion.
Diabetes , 54 , 1000-1008  (2005)
原著論文14
Ashida K, Goto K, Zhao Y et al.
Dehydroepiandrosterone negatively regulates the p38 mitogen-activated protein kinase pathway by a novel PTPN7 locus-derived transcript.
Biochim Biophys Acta (Gene Structure Exper) , 1728 , 84-94  (2005)
原著論文15
Kawate H, Wu Y, Ohnaka K et al.
Impaired nuclear translocation, nuclear matrix targeting, and intranuclear mobility of mutant androgen receptors carrying amino Acid substitutions in the deoxyribonucleic Acid-binding domain derived from androgen insensitivity syndrome patients.
J Clin Endocrinol Metab , 90 , 6162-6169  (2005)
原著論文16
Chen G, Nomura M, Morinaga H et al.
Modulation of androgen receptor transactivation by FoxH1. A newly identified androgen receptor corepressor.
J Biol Chem , 280 , 36355-36363  (2005)
原著論文17
Fan S, Goto K, Chen G et al.
Identification of the functional domains of ANT-1, a novel coactivator of the androgen receptor.
Biochem Biophys Res Commum , 341 , 192-201  (2006)
原著論文18
Yanase T, Muta K, Nawata H
Serum concentrations of dehydroepiandrosterone-sulfate(DHEA-S) in oldest old Japanese women correlate with cognitive activity rather than activities of daily living.
Geriatrics and Gerontology International , 6 , 194-198  (2006)
原著論文19
Fan W, Yanase T, Morinaga H et al.
Insulin-like growth factor 1/insulin signaling activates androgen signaling through direct interactions of Foxo1 with androgen receptor.
J Biol Chem , 282 , 7329-7338  (2007)
原著論文20
Yamada Y, Sekihara H, Omura M et al.
Changes in serum sex hormone profiles after short-term low-dose administration of dehydroepiandrosterone (DHEA) to young and elderly persons.
Endocr J , 54 , 153-162  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-