植皮生着率の評価及び広域ネットワーク対応のスキンバンク情報システムに関する調査研究

文献情報

文献番号
199700320A
報告書区分
総括
研究課題名
植皮生着率の評価及び広域ネットワーク対応のスキンバンク情報システムに関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
阿部 清秀(旭川赤十字病院形成外科)
研究分担者(所属機関)
  • 辰巳治之(札幌医科大学医学部解剖学第一講座)
  • 村上弦(札幌医科大学医学部解剖学第二講座)
  • 水島洋(国立がんセンターがん情報研究部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 健康政策調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
各種保存法による凍結皮膚の植皮生着率、生着期間等の情報を集め、今後の熱傷患者に対する医療技術の向上に資する基礎データの蓄積を行う。それとともに、重症熱傷患者発生時に即座に対応できるように、スキンバンク設立準備委員会を札幌医科大学内に発足し、種々の問題を検討する。また、8時間以内に皮膚採取する為の情報伝達システムや、セキュリテー及びEnd User Computing(コンピュータに不慣れな医師でもつかえること)を考慮し、インターネットの技術を活用した全国規模の皮膚収集および提供システムのありかたを検討する。さらに地域展開を試み、地域の中核医療機関と連係プレーがスムーズに行えるような医療系に閉じたネットワーク構築の実験をし、将来の臓器移植時代への試金石としたい。
研究方法
皮膚移植のための皮膚提供希望者が死亡された際に、いつでも対応できる緊急時の体制を作りながら、スキンバンク設立準備委員会を発足させ、スキンバンク運営における問題点など洗い出しそれを解決すべく努力するとともに、重症熱傷患者発生時には、今まで凍結保存している皮膚を用い基礎データの蓄積をする。
インターネット技術を応用し、これらのデータ管理をセキュリティーを確保したうえで、コンピュータに馴染みのない医師や医療関係者が容易に活用できる情報交換システムの構築を行なう。すなわち、World Wide Webや電子メールを活用し、それぞれの特徴を生かした連絡網を作成する。例えば、電子メールは、緊急時の確実な早い連絡網としては欠点があるが、それを補えるようにポケットベルとの連携をとることを計画する。これらインターネットの技術活用における問題点を洗い出し、その解決策を練る。
平成8年度に作成したプロトタイプである情報交換システムを、広域ネットワーク対応にして、セキュリティ保護をしたうえで情報交換ができるようにする。また、医療系に閉じたネットワークを構築しその上で応用実験する。一方で、地域の中核病院にも協力してもらい、クローズドな医療系ネットワークに参加し、その効率のよい利用応用実験を開始する。
結果と考察
研究結果: 1. 皮膚採取の為の臨時24時間体制
スキンバンク設立の準備をしているところであるが、すでに皮膚提供の申し出をされている方おられるので、その方が死亡された時に8時間以内に皮膚採取ができるように、臨時の連絡網及び当番の体制をつくった。また、この際の皮膚採取及び保存法のフォローチャートと対応マニュアルを作成した。
2. 札幌医科大学スキンバンク設立準備委員会 発足
平成9年3月の医学部教授会でのスキンバンク設立準備委員会発足の提案に基づき、12月に第一回準備委員会を開催した。そこで設立準備委員会委員長を選出し、各委員に現在までの経緯を説明し、これからの計画と問題点を話し合い、実際の実働部隊からなるワーキンググループを組織することにし、そこでさらに詳細検討上、事務当局も参加し再び設立準備委員会で対策を考えることになった。
3. 重症電撃傷における凍結保存皮膚移植の経験
58歳の男性が、トラクターで作業中、手に持っていた棒が66,000Vの送電線にふれ受傷し搬送されてきた。電撃傷は生体に外部から電気が流れることにより起る障害であり、皮膚病変に加え深部の臓器損傷及び血管閉塞による進行 性の壊死が様々な病体を引き起こす。この患者の場合は、両上肢、前胸部、背 部、両踵部、右下腿にIII度の26%程度の電撃傷を認めた。気管内挿管下に人工 呼吸管理を行い、血小板減少に対しDICの治療をした。その後、両上肢切断、 前胸部、背部へ、2年半ほど冷凍保存していた皮膚及び新鮮皮膚を同種移植をすることによって救命し得た。ここでの経験から、ガラス化法により凍結し-196°Cで2年半あまり保存していた皮膚でも、十分に利用価値があり救命に 役立つことが分かった。
4. 緊急時情報交換網の構築
死後できるだけ早く皮膚採取できるよう、インターネットの便利なところを 活用し、その欠点を補い手間のかからないスムーズで正確な情報伝達システムを目指し開発した。8時間以内に皮膚採取を行なうために24時間体制で待機し、さらに効率のよい情報伝達網が必要になってくる。そこで、今後のInternetの普及を鑑み、WWW(World Wide Web)のホームページを活用し「皮膚 採取のための連絡システム」を作成した。このシステムでは、皮膚提供の連絡をWWWのページからできるようにし、ここに必要事項を書き込むとスキンバンクのmailing listに電子メールが送られる。また、WWWのページからこの電子メールを見ることができ、一連の情報の流れが把握できるようにした。電子メールの受けとり時刻を正確にするためにxntpを動かし、stratum 1に時間を合わせるようにしている。電子メールの不利なところは、常にインターネット端末を使用していないと電子メール到着に気づかない点である。そこで、このシステムではWWWから電子メールをおくると同時に、担当者に電子メールの到着をポケットベルにて知らせ、さらに、NTT DoCoMoのインフォネクストのサービスを利用し簡単な文字情報をポケットベルへ転送するようにした。さらに詳細な情報は、電子メールやWWWの電子掲示板にて確認する。
5 地域展開
今回、主任研究者の旭川日本赤十字病院転出にともない、スキンバンクネットワークの地域展開の実験を図った。札幌--旭川との間は100Kmを越えるため、通常の専用回線では経費がかかりすぎる。また、NTTのサービスである
OCNのような一般のインターネットサービスを使うと費用が安いがセキュリティーが低下する。そこで、旭川日本赤十字病院と札幌医大との間をFrame Relay による専用線で繋ぎ、インターネットの技術を使ったExtranetを構築した。この構築にあたっては、北海道に商用インターネットが無かった時代に、 WIDEプロジェクトとの共同研究としてインターネットを北海道に持ってきて、 道内の情報化に貢献した北海道地域ネットワーク協議会(NORTH)[参考1]及び、日本学術振興会産学協力第163インターネット技術研究委員会(ITRC)[参考 2]の地域ネットワーク活動分科会などの協力を得て行われた。さらに全国展開への布石として、MDX(Medical Internet eXchange)への接続をし、医療系に閉じたInternetを作成し、その活用をこれから考える。
現在の情報網の問題点と解決策:
このSkin-Bankネットワークシステムは、札幌医大に閉じたものでなく、多くの人々の参加を得てセキュリティーを守りながら広く情報交換できるようにしたい。そのためにも 一般に対する啓発及び広報活動的な部分と、実際のSkin-Bankネットワークの運用面との2つの要素を合わせもつことが必要である。Skin-Bankの運用面においてアクセス制限やパスワードチェックだけだとセキュリティーの点で若干不安が残る。 そこでInternet Compatibleでありながらもある程度医療系に閉じた全国規模のネットワーク上で安全にかつスムーズに情報交換ができる実験として、Medical Internet Exchange Projectを立ち上げた。このプロジェクとでは、医療機関同士がお互いに接続することによって、医療情報のセキュアーな通信、医療情報の高速な通信、AUP(AcceptableUse Policy)に捕らわれない通信、共通のcacheを用いることによる効率化を目指す実験の場を作る。 全世界的にみても、インターネットの技術を活用した医療系に閉じたネットワークの構築はほとんどなく、日本では、唯一、北海道地域ネットワーク協議会の医療ネットワーク研究会[3]の議論から開始されたJPMEDというニュースグループ(http://www.sapmed.ac.jp/jpmed)がある[3,4]。
これらのクローズドなNetNewsは、1996年の病原性大腸菌感染症流行のときには、有用な情報交換手段として役立った。これらの経験を元に、Medical Internet Exchangeを構築し、医療系に閉じた広域ネットワークの実験を開始したところである。このネットワークを皮膚移植の情報交換網として活用することを考えている。
現段階での考察:
重症熱傷における凍結保存同種皮膚移植の有用性は、今回の経験で示されたが、もっと多くの基礎データを集める必要がある。その為には、移植に対する理解を深め、多くの人に提供してもらえるようになること、そして、長期にわたる地道な研究活動を続けていくこと、さらには、大規模のデータ収集システムが重要であると考えられる。Skin-Bankネットワーク構築にあたって継続的な活動をコンスタントに続けるために、コスト面および人的資源の有効活用などを考える必要がある。そのためにも高度情報化システムとしてのインターネット活用は必須のものとなるが、さらに医療系特有の問題を解決するためにはまだまだいろいろな実験や研究を継続する必要がある。例えば、今回のポケットベルを鳴らすシステムは、電子メールを送るだけで良いのだが、同じ北海道内で情報交換するだけなのに、民間のこのサービスを利用するにあたって、一旦東京のNSPIXP(Network Service Provider Internet eXchange Point)経由の通信になってしまい、通信に時間がかかることがあり、緊急時の連絡網にどこまでつかえるか不安がのこる。そのためにも地域のIX(Internet eXchange Point)を真剣に考える必要があり、Skin-Bankネットワークなどにおける具体的な活用事例を念頭において、MDX Projectのなかでもその実験を押し進める必要があると考えている。
結論
 症例数は少ないが、今回の結果から、ガラス化法による長期凍結保存した皮膚の有用性が示され、スキンバンク設立の価値が再認識された。スキンバンク設立にあたっては、数々の諸問題があり性急に事を進めるには問題があるが、慎重になりすぎ設立までにあまりに長い時間がかかると、救命できる患者も救えない事態が起こりうる。そのことを鑑み、学長、学部長、病院長をメンバーとするスキンバンク設立準備委員会を組織し、具体的な対策をワーキンググループをつくり前向きに検討を始めることができたのは、評価に値すると思われる。
これからは、医療系の情報網の発達は必須のものであるが、セキュリティーやQoS(Quality of Service)を考えた全国規模のネットワークは未だなく、その意味でもMDX Projectは価値があり、そのなかのーつのアプリとしてこのスキンバンクネットワークの構築実験を進めて行きたい。

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