タクロリムスの難治性クローン病治療に向けての臨床試験実施計画に関する研究

文献情報

文献番号
200717011A
報告書区分
総括
研究課題名
タクロリムスの難治性クローン病治療に向けての臨床試験実施計画に関する研究
課題番号
H19-臨床試験-一般-006
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
千葉 勉(京都大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 西尾 彰功(京都大学大学院医学研究科)
  • 仲瀬 裕志(京都大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床試験推進研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
クローン病(CD)は若年者に発症する難治性の炎症性腸疾患であり、わが国でも増加しつつある。CD発症には大腸常在細菌に対する異常な免疫反応が関与しているため免疫抑制薬を中心とした治療が行われているが、現行の保険適応薬剤に抵抗性の難治例が存在する。タクロリムスはわが国で開発された優れた免疫抑制剤で、すでに移植後拒絶などに保険承認を受けて優れた効果をあげている。しかしながらCDについては、その効果が期待されながら患者数が少ないなどの理由から臨床治験の計画はない。本研究はタクロリムスの難治性CDに対する保険適応承認を最終目標として、その効果について質の高いエビデンスを得るための臨床試験を計画することを目的とした。
研究方法
現行の内科治療で治療困難な難治性CD患者にタクロリムスを投与し、投与量、投与期間などを検討した。投与量は血中濃度により3群(低用量 0-5、中 5-10、高 10-15ng/ml)に分けた。評価は、疾患活動性指数(CDAI)の変化でおこない、副次項目として、ステロイドの減量効果も検討した。さらに副作用の出現についても検討を加えた。
結果と考察
(1)19例がエントリーされた(平均年齢は32歳)。タクロリムス投与30日後、低、中、高トラフ群でCDAIは330、254、151、60日後には324、204、123となった。有効例は1/7 (14.3%)、4/6(66.7%)、6/6(100%)、緩解例は0/7(0%)、2/6(33.3%)、5/6(83.3%)となった。(2)タクロリムス投与によるステロイド減量効果は低、中、高トラフ群の順に増強した。投与30日後には、高トラフ群では22mgから2.7mg、60日目には0となった。(3)副作用として、2例に軽い血清クレアチニンの上昇、1例に一時的なTremorが出現した。また全経過を通して中断例は認めなかった。(4)タクロリムス投与により、4例の瘻孔(内瘻)のうち3例で、また2例の外瘻の2例ともに閉鎖が確認された。
 以上より難治性CDに対してタクロリムス投与が極めて有効であることが確認された。またその効果は高用量でもっとも高く、また極めて即効性であった。
結論
難治性のクローン病に対するタクロリムス投与の大規模臨床試験の実施においては、高用量で短期間の投与方法をとることが適切であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2008-04-09
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200717011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
難治性のクローン病患者に対してタクロリムスの投与をおこなったが、ステロイドやレミケードに抵抗性の患者に対して、非常に効果的であることが明らかになり、潰瘍性大腸炎のみならず、クローン病に対しても、主としてT細胞の免疫抑制が効果的であることが示された。またその効果は即効性であることも判明し、欧米でおこなわれている難治性クローン病に対するタクロリムスの効果がわが国でも認められた。
臨床的観点からの成果
難治性のクローン病はレミケード、ステロイドに抵抗性であり、現行の保険医療による効果的な治療法が存在しない状況にある。今回これら難治性のクローン病患者に対して、タクロリムス投与が有効であり、かつ即効性で、ステロイド減量効果にもすぐれていること、さらに大きな副作用が認められないことが示された。以上より、タクロリムス治療は、難治性のクローン病に対する標準治療の一つとすべきであることが証明された。
ガイドライン等の開発
本研究の成果は直接ガイドラインの開発とは結びつかないが、今後クローン病治療のガイドラインの中に、難治性クローン病に対してタクロリムス治療を加える必要があると考えられた。
その他行政的観点からの成果
クローン病は国の難治性疾患研究の対象疾患であり、そのため患者に対する救済措置がとられている。しかしながら本疾患の治療薬として現在保険診療で認められているのは、5ASA製剤、免疫抑制剤、ステロイド、レミケードのみであり、タクロリムスは保健医療の対象薬剤とはなっていない。本研究でタクロリムスの難治性クローン病患者に対する優れた効果が認められたことは、今後タクロリムスのクローン病治療に対する保険医療承認にむけた、大きな第一歩となると期待される。
その他のインパクト
本研究で、難治性クローン病患者に対するタクロリムスの優れた効果がみとめられたことから、薬剤メーカーによる本薬剤の臨床治験の動きが加速されることを期待したい。また本成績を論文化することで、消化器病学会などを通した、保健医療申請の参考資料となることが期待される。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
10件
その他論文(和文)
10件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nakase H, Yoshino T,Chiba T, et al.
Importance of early detection of cytomegalovirus infection in refractory inflammatory bowel disease.
Inflamm Bowel Dis , 13 , 364-364  (2007)
原著論文2
Nakase H, Mikami S, Chiba T, et al.
Rescue therapy with Tacrolimus for a patient with severe ulcerative colitis refractory to combination leukocytapehresis and high-dose of corticosteroid therapy.
Int Med , 46 , 717-720  (2007)
原著論文3
Inoue S, Nakase H, Chiba T, et al.
Open label trial of Clarithromycin therapy in Japanese patients with Crohn's disease.
J Gastroenterol Hepatol , 22 , 984-988  (2007)
原著論文4
Mikami S, Nakase H, Chiba T, et al.
Involvement of cytomegalovirus infection in the ileal lesions of the patient with Behcet’s disease.
Inflamm Bowel Dis , 13 , 802-803  (2007)
原著論文5
Yoshino T, Nakase H, Chiba T, et al.
Usefulness of quantitative real-time PCR assay for early detection of cytomegalovirus infection in patients with ulcerative colitis refractory to immunosuppressive therapies.
Inflamm Bowel Dis , 13 , 1516-1521  (2007)
原著論文6
Uza N, Nakase H, Chiba T, et al.
The effect of medical treatment on patients with fistuklizing Crohn's disease: our experience with a retrospective study.
Intern Med (in press)  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-