放射線治療法の評価基準に関する研究

文献情報

文献番号
199700318A
報告書区分
総括
研究課題名
放射線治療法の評価基準に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
稲邑 清也(大阪大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 井上俊彦(大阪大学医学部)
  • 池田恢(国立がんセンター東病院)
  • 山下孝(癌研究会癌研究所病院)
  • 安藤裕(慶応大学医学部)
  • 山口直人(国立がんセンター研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 健康政策調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
2,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の最終目的は、放射線治療の個別の症例に対し最適な治療方法を見いだすことにある。そのためには放射線治療を主とする場合にも、他の治療方法と併用する場合にも部位別、疾患別、モダリティ別に治療方法を総合的かつ客観的に評価し提示できなければならない。そして費用効果比の優れた治療方法を伸ばし、費用効果が不明のまま全国で行われている治療方法について再検討するための標準の提示と適切なリコメンデーションができなければならない。従って評価の方法と評価基準を作成し、その方法と基準が実際に利用できることを証明しなければならない。
研究方法
(1)全国の放射線治療施設から具体的な治療臨床症例を収集し、その追跡調査をも可能とするデータベースとしてのインフラストラクチュアをまず確立する。(2)患者一人一人について、どの施設においてどの職種の医療スタッフがどれだけの時間をかけて放射線治療を実施しているかを詳細に具体的に把握する方法を確立する。フロースタディ、タイムスタディを実施し、ケアマップスタディの利用による方法を確立する。(3)放射線治療を受けた患者についてQuality of Lifeを定量的に織り込み、どのようにどれだけ生存したかを測定する客観的な表現方法を確立する。(4)上記(2)においては費用を、(3)においては効果を知り、(3)を(2)割り対費用効果比を計算する方法を確立する。更に上記(1)のインフラストラクチュアを用いて全国規模で放射線治療の実症例による対費用効果比の多くのデータを収集する方法を実現する。
結果と考察
結果= (1)放射線治療の全国規模の広域データベースを治療症例評価のためのインフラストラクチュアとして構築した。データベースは放射線治療の症例記録について、55項目にわたる患者情報、診断記録、放射線診断記録、他の治療法との併用記録、治療終了後のアフターフォローなどを収録するものである。平成8年と9年のそれぞれ1ケ月間合計2ヶ月のprospective studyを行い、5,953例の有効症例を147施設から収集した。
(2)放射線治療についての全国調査を行い、その分析を行った。682施設にアンケートを発送し、549施設から回答が得られた。(80.5%)。例として治療方法による分類では次のようなデータが得られた。
腔内照射:194施設:(36%),組織内照射:65施設:(13%),全身照射:104施設:(21%)
術中照射:99施設:(20%),脳への3次元治療:42施設:(8%),温熱療法:89施設:(18%)
(3)平成8年度の保険点数をもとにHDR組織内照射単独、外部照射単独およびHDRと外部照射併用の場合の放射線治療関係だけの保険点数を算出した。
平成8年度に入院で治療したHDR及びLDR組織内照射単独治療症例の入院日数はそれぞれ22-39日と27-43日であった。保険点数はHDRが73,585-83,418点、LDRが64,714-115,786点であった。保険点数の約半分は入院基本料や看護料であった。放射線治療関係の点数はHDRで18-21%であり、LDRでは合併症のあった症例を除くと28%と29%であった。
すなわち高い制御率と機能温存可能な舌癌の組織内照射の費用は入院治療の費用の20-30%に過ぎなかった。
(4)Performance Status Scale での Karnofsky 法と WHO 法 ( ECOG 法 ) とを比較し考察した。 Karnofsky 法は 10 点ごと、 11 段階の指標である。また、 WHO 法は5段階評価である。Karnofsky 法では 10 間隔があり、精度が高いため、我々が使用するWHO 法への変換は比較的容易である。 WHO 法は5段階評価であるが、カルテあるいは看護記録の記載を参照する retrospective study においてはより適切と考えられる。
(5)子宮頸癌、食道癌をはじめとする疾患別ごとの治療方法別のコストを調査した。一方個別の病院における患者一人一人についての医療職種別の詳細な人件費を調査すべくケアマップスタディを行った。ケアマップエディターの実用性を実証し改良点を指摘できるなどの収穫を得た。
(6)放射線治療後の患者の生活の質(Quality of Life)を定量的に考慮し、生存期間を計算する Quality Adjusted Life Yearを定義した。この定義に基づき個々の各症例についてデータを収集する方法としてマルコフ連鎖モデルによる状態間遷移確率を推定する計算方式を確立した。これにより放射線治療の評価基準の計算を試みた。
(7)マルコフモデルでは必要とされるデータが非常に細かいものを要求されるため、より簡便な方法を含めて適応の可能性が期待できる評価方法を調査し、他に以下の4つの方法を提案することができた。
1)Q-TWiST法(Quality-adjusted Time without Symptoms and Toxicity)
2)判断樹を用いた臨床判断分析
3)システムダイナミックスモデル
4)階層分析法
(8)上記(7)による指標を(5)によるコストで割り、対費用効果比を導き、(1)による広域のデータ収集インフラストラクチュアを利用して広く放射線治療の評価基準作成のためのデータを収集し、目的を達成する方法を確立しつつある。すなわち費用効果比の大きい放射線治療法の選択に関する基礎データを得る。
考察= (1)本研究では、まずほぼ治療法が確立されている放射線治療(例えばSm期表在性食道癌)の評価基準の作成に限定してはいるが、新しい治療方法を含む広い範囲の癌治療や心臓疾患の治療方法についても適用できる可能性をもっている。
(2)その可能性の要点は、個々の患者の Quality of Lifeを考慮した生存期間の正確なデータ収集方法の確立、個々の患者の治療に要するコスト発生の実態の正確な把握方法の確立、そしてこれらの患者についての全国の多数の施設での具体的な症例データの収集とその統計データの作成方法の確立である。
(3)本研究はこの意味において一般性普遍性を有する技術の評価に関する健康政策調査研究事業の一つと考察できる。
結論
 (1)放射線治療法の評価基準を対費用効果比として計算し、多数の臨床症例を全国規模でデータ収集できる方法を確立した。
(2)放射線治療法のみに限らず、広く新しい治療法を含む他の疾患の治療法を費用効果比として評価できる方法に拡張できる可能性を示した。
(3)今年度の研究成果を応用して具体的な臨床症例を多数収集して本研究の目的を達成させる次のステップに踏み込むべき基礎をつくった。

公開日・更新日

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