口腔保健と全身的な健康状態の関係についての研究

文献情報

文献番号
199700317A
報告書区分
総括
研究課題名
口腔保健と全身的な健康状態の関係についての研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
小林 修平(国立健康・栄養研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 養老孟司(北里大学)
  • 斎藤毅(日本大学)
  • 花田信弘(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 健康政策調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢社会における歯科保健のあり方を示す目標として8020運動(80歳まで20本の歯を維持する運動)が提唱されているが、口腔保健に優れた8020達成者が全身的な健康状態も優れているのかどうかについては明らかにされているわけではない。また、80歳で平均残存歯が数本という現状を改善するためには、現実的な数値目標と科学的な健康戦略を持たなければならない。そこで、口腔保健が全身の健康状態に影響を及ぼしている状況を客観的に評価し、数値目標の基礎データを得る目的で、実験研究と調査を実施した。更に、8020運動を推進する目的で、各都道府県におけるデータバンクの構築状況、歯科保健の数値目標の設定、手段の有効性の検証、目標達成度の判定という通常の地域保健のサイクルが順調に稼動しているか否かの状況を把握するアンケート調査を行った。
研究方法
都道府県庁の協力を得て、WHOの歯科保健目標の達成状況と独自の歯科保健目標の設定、データバンク構築の状況を中心とするアンケート調査を郵送法で行った。
岩手県および岩手県歯科医師会の協力を得て、県内9市町村において80歳の口腔保健と全身的な健康状態についての健康調査を行った。
大学医学部、歯学部の協力を得て、歯と脳の老化、歯と肥満・糖尿病、歯と骨粗鬆症、歯と呼吸器系感染症、歯と高齢者の日常生活動作(ADL)の関連について研究を行った。
結果と考察
 47都道府県庁に対して、WHOの歯科保健目標の達成状況と独自の歯科保健目標の設定、データバンク構築の状況を中心とするアンケート調査を行い44都道府県から得た回答の結果を収集した。 西暦2000年までに12歳児の平均齲歯数を3本以下にしようというWHOの目標を達成しているのは7県であった。歯科保健データバンクを構築し、科学性のある歯科保健を推進している県は宮城県、新潟県、滋賀県、山口県、福岡県の5県であった。
平成9年9月から11月にかけて80歳(大正6年生まれの人)の健康調査を岩手県で行った。調査対象者は指定対象地区に住民票がある大正6年生まれの男女全員である。総対象者944名、受診者813名、受診率86.1%(会場受診者666名、在宅・入院者147名)であった。調査項目は、内科検診、歯科検診(齲蝕と歯周病)、身長・体重、視力、血圧、心電図、血液検査(総タンパク質、アルブミン、クレアチニン、血糖、GOT, GTP,g-GTP、総コレステロール、中性脂肪、カルシウム、リン、IgG, IgA, IgM、リウマチ因子)、唾液検査、骨密度、嚥下、顎関節、ADL、握力、開眼片足立ち、脚伸展力、ステッピング、脚伸展力パワー(W)、舌苔、カンジダ検査、パノラマレントゲンおよび生活習慣を中心にしたアンケートである。8020達成者は815名中51名(8020達成者率6.3%)、平均歯数4.6本であった。血液、唾液、ステッピング、カンジダ検査などの計測項目で歯数との有意な差が認められた。
また、口腔保健と脳の老化、肥満・糖尿病、骨粗鬆症、感染症、高齢者の日常生活動作(ADL)の関連などについて個別のテーマで研究を行い、肺炎と口腔、痴呆と歯の関係を示す研究報告を得た。
大正6年生まれの高齢者の健康調査を実施した結果、8020達成者は多くの全身的な検査項目で非達成者よりも優れていることが示唆された。また、肺炎と口腔、痴呆と歯の関係などを示す研究報告を得た。しかし、口腔保健と全身的な健康状態の関係についての因果関係を明らかにするためには、これから追跡調査を行う必要があると思われた。また、8020運動を達成するためにデータバンクを構築し、歯科保健の数値目標の設定、手段の有効性の検証、目標達成度の判定をするという科学性のある地域保健のサイクルが順調に稼動している都道府県が現状では極めて少なかった。
また、口腔保健と脳の老化、肥満・糖尿病、骨粗鬆症、感染症、高齢者の日常生活動作(ADL)の関連などについて個別のテーマで研究を行い、肺炎と口腔、痴呆と歯の関係を示す研究報告を得た。しかし、口腔保健と全身的な健康状態の関係について、個々の調査項目で因果関係を述べるには今後追跡調査を行う必要があると思われた。
結論
8020達成者は多くの全身的な項目で非達成者よりも優れていることが示唆された。しかし、8020運動を推進するのに不可欠な、地域データバンクの構築が遅れていた。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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