新たな臨床研修に応じた歯科医師国家試験の改善に関する研究

文献情報

文献番号
199700316A
報告書区分
総括
研究課題名
新たな臨床研修に応じた歯科医師国家試験の改善に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
石川 富士郎(岩手医科大学歯学部)
研究分担者(所属機関)
  • 藍稔(東京医科歯科大学歯学部)
  • 斎藤毅(日本大学歯学部)
  • 作田正義(大阪大学歯学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 健康政策調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「新たな臨床研修に応じた歯科医師国家試験の改善に関する研究を行い、これに必要な臨床実地の実技試験や面接等の新設を模索することとした。歯科医師の基本的診断能力については、現行の筆記試験の評価だけでは不十分であり、すでに廃止された従来型の実技試験の再構成ではなく、新しく技能評価を行う実技試験の導入を中・長期的に検討することとした。特に本年度は、歯科医師国家試験での精神運動領域(技能)や情意領域(態度、習慣)の評価(法)と現行の認知領域を主とした筆記試験の評価(法)との関連性を一分科に偏らないで統合的な観点からも比較検討をすることとした。
これらによって、現在の歯科医師国家試験のあり方についての評価の実施と、その上での臨床実技試験や面接等の具体的実施要領を求めて、新設の方向性を取り上げていくこととした。
研究方法
本研究の趣旨を確認した上で、研究班会議(第一回平成9年9月19日開催、第二回平成9年11月17日開催、第三回平成10年1月23日開催、第四回平成10年3月17日開催)をもち、各研究者相互で充分に研究内容を理解して、特に新たな臨床研修に応じた臨床能力(基本的診療能力)の具体的な評価方法について検討することとした。本年度は統合的実地試験における評価(法)として技能面の評価は斎藤、藍両班員が、態度面の評価は作田班員、石川が担うこととした。
結果と考察
(A)斎藤分担研究者からは、本年度全国歯科大学の歯科保存科(歯内療法、保存修復、歯周療法)領域を担う教授等に対してアンケート調査を行った。歯科医師国家試験に実地試験を課すことが求められた(72.4%)、不必要(25.9%)。その中で技能の評価を積極的に取り込む必要がある(63.8%)、必要であるが難しい(20.0%)。特に態度面の評価となると必要であるが難しい(67.2%)。その実技試験は人工歯を用いる技能評価であった(78.4%)。現在,全国歯科大学では人工歯を用いた技能習得が行われており、歯内療法の中では・齲窩の開拡、・天蓋の除去、・根管口の明示、・根管形成などの基本的診療手技テストを課すことができる。また、歯周療法(歯周病治療)ではそれに適する模型上での・歯周ポケットの深さの測定、・歯石除去(スケーリング)の手技を課すことができる。この場合の手技面の評価は、点数化よりも「合」か「否」かで行い、特にその技能の基本にチェックポイントを設けて判定することが望まれる。その方策(試験の実施は大学相互で行い、模型はマネキンに付けて臨場感をだす)をまとめた。特に技能面の作業能力や表現能力を評価するのには実技試験なくては評価し得ないという。
(B)藍分担研究者からは、歯科医療を行う上で最小限必要な臨床技能や臨床態度の評価を行うべきである。アンケート調査の結果、技術面を評価する技能試験と面接試問とは別個の試験として扱い、両者ともに必要性がある。
この技能試験の実施可能な規模は、試験期間は一日、課題は2題程度で、模型はマネキンに付ける。その試験課題は、・エアータービンを使用して支台歯形成、或いは・模型上での印象採得を行う。・床義歯補綴では半調節性などの咬合器を使用しての床義歯の製作を行う。他方、面接試問は視覚素材を提示して行う。実技試験、面接試問の場所、設備については現状では問題はないが、実施時期、試験官、器材の準備、採点方法などは課題が残る。
(C)作田分担研究者から、歯科医療を行う上での最小限必要な臨床技能や臨床態度の評価を行うことは望まれている。しかし、臨床実地、特に実技や態度に関する評価を導入することは極めて難しい。特に、本年度は視覚資料を中心としたテストによる評価法と大学での臨床実習における種々の評価法との比較を自校の教育環境下で、教官と学生を動員をして行動的な研究を行った。
現在臨床実習を行っている第6学年次学生(60名)を対象として実習中の各テストを分析項目(説明変数)とし、国家試験への導入を想定した目標項目(目的変数)を視覚資料に用いた試験による評価項目を作った。情意領域に関する分析としては・学生による自己評価調査表、・指導教官による学生評価表を用い多変量統計解析法によって学生、指導教官相互の相関性を検討した。
a)技能面の係わりがある分析は、説明変数および目的変数での各項目の相互の相関性(Pearsonの相関係数)についてはレポート報告と記入テスト、レポート報告と視覚資料テストとの2つの組み合わせを除き、いずれも有意差(p<0.01)をもって相関性があった。また、分析項目(説明変数)と目的項目(目的変数)との間の相関性は、いずれの目的変数においても説明変数との間に統計的に有意の相関性があった。さらに、目的変数を卒業試験、実技テスト、口頭試問とした場合のその他の説明変数に対する相関性は、いずれの目的変数についても相関性があった。
b)態度面に係わりのある学生の自己評価と指導教官による評価を基にした相関性は、1%水準で有意の相関性があった。結論的に、視覚テストは各種テストの評価と相関性があり、実技テストは口頭試問の評価と最もよい相関性があった。従って新たな歯科医師国家試験の精神運動領域の評価には、直接、技能面を実技試験で評価をしなくとも、口頭試問、或いは面接の手法を導入した実地試験を行うことでよい。
(D)石川からは、前年度におけるアンケート調査成績を基に基本的診療能力の評価については治療技術面の実地試験よりも、基本的診断能力の評価をする実地試験が望まれた。従って、その診断能力の実技テストは自ら習慣や態度等の情意領域を測るテストと併せて実施できる試験の方策が求められる。その最も適切なのはシュミレーション形式の出題による実地試験の評価で、現行の歯科医師国家試験中の種々の制約の中で実施の可能性が高い。
全国的7~8か所の国家試験場でシュミレーション形式での課題を提示する方法は、現在の臨床実地試験の視覚素材と併せて動態(患者の全身的、局所的な動き)から患者の訴え、それを受ける術者の対応、術者の診断、診療の行為等)をVTRで提示して、そのシュミレーションの中から正解肢を記入させる方策を中心に調査研究を行った。かかる映像(動画)の利用は国家試験として要する同時性、守秘性、公平性、確実性、客観性に留意したメディアハでなければならない。これに適う極めて現実性のある技術的側面は、その試験映像の配布方法で、パッケージメディア(ビデオテープ、ディスク<ビデオCD、DVD-ROMなど)の郵送する方法である。
次に、試験映像の視聴については、・大型モニター(29インチ以上超えるブラウン管の使用)によるグループ視聴、或いは・小型モニター(9~14インチのブラウン管の使用)による視聴のいずれかが採用できる。
いずれにしても試験映像の作成に対するシナリオの段階から撮影、録画に至る期間とそのためのかなりの経費を要することはいたしかたない。特に、精細度が必要とされる映像(中でも口腔内写真やエックス写真像等)については印刷による紙媒体(現在の試験での視覚素材)を補完することが前提ですすめることがよい。
映像の受け手となる試験場の施設の均等化が必要である。加えて、音響についても配慮を必要とする。要は同じ実地試験でも技術評価よりも解釈力、思考力、創造力の評価にその主点をおく試験実施の可能性がある。
以上の結果を基に考察すると、新たな臨床研修に応じた歯科医師国家試験の改善にむけて、この臨床研修そのものの充実を計る一方で、新規参入する歯科医師の資質の確保は重要な課題である。本年度までの本研究の成績からは現行の歯科医師国家試験の役割からみて、精神運動領域(技能)や情意領域(態度等)を適切に評価することは極めて重要であり、これに必要な臨床実地の実技試験(特に保存科領域、補綴科領域ではこの技術面の評価が求められている)や口頭試問、面接(特に口腔外科領域、矯正、小児歯科領域では問題解決のための思考面の評価が求められている)を行い、これらの試験をとおして態度、習慣等の情意領域での評価までを新設してゆくことが歯科医師国家試験の改善の一助になると考えられた。そのためには、本研究成果を、歯科医師国家試験問題の新たな導入として取り上げ、実技試験、口頭試問、面接の実際面についてモデルを構築し、パイロット試験の実施によって試験の構造、データ分析、基準の設定などについて試行し、その実地試験の客観性、信頼性、妥当性などをさらに検討する必要があると考えた。
結論
種々の制約や限界があるものの、現行の歯科医師国家試験に精神運動領域(技能)、情意領域(態度等)の新たな評価を臨床実地試験(実技試験、口頭試問、面接等)を導入して行う可能性を見出し、その評価法に関する方策を提言することができた。

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研究報告書(紙媒体)