歯科衛生士養成のあり方及びその需給バランスに関する研究

文献情報

文献番号
199700313A
報告書区分
総括
研究課題名
歯科衛生士養成のあり方及びその需給バランスに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
淺井 康宏(東京歯科大学教授)
研究分担者(所属機関)
  • 矢尾和彦(大阪歯科大学歯科衛生士専門学校校長)
  • 嶋野浪江(湘南短期大学助教授)
  • 真木吉信(東京歯科大学助教授)
  • 松井恭平(千葉県立衛生短期大学教授)
  • 増田豊(日本歯科大学助教授)
  • 兵頭英昭(日本歯科医師会理事)
  • 足立三枝子(日本歯科衛生士会理事)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 健康政策調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究は多様化する歯科保健医療のニ-ズに対応するために、歯科衛生士の質的向上を図ることを目的として、現行の学校教育および卒後研修の両面から、そのカリキュラムとあり方について検討するものである。併せて、量的にも適正な状態を確保するために、需要と供給のバランスについても予測と検討を行うことを目的とした。
研究方法
 上記の目的に従った分析と検討を行うため、次に示すような方法を採用した。
1.現在の歯科衛生士の養成教育に関するカリキュラム内容や時間数の実態把握と問題点および将来への希望、さらには教育年限の適否について、全国134の各養成機関を通して調査した。
2.高齢少子化など社会環境の変化と社会的なニ-ズに対応した歯科衛生士の業務とあるべき姿について、昨年度の歯科衛生士学校教員を対象としたヒアリング調査に続いて、全国の歯科衛生士養成機関、日本歯科衛生士会会員ならびに一般住民を対象にアンケ-ト調査を行った。
3.歯科衛生士の需要と供給のバランスに関する調査は、日本歯科衛生士会および歯科衛生士養成機関を通して、就職状況や新規参入者数など需給にかかわる要因について、郵送によるアンケ-ト調査を実施した。さらに、厚生省の医療施設調査を基に、診療所における歯科衛生士の適切な配置と人数を算定し、前回の公衆衛生環境における需要に加えて、診療所、病院を含む歯科衛生士の需要全体について検討を行った。
結果と考察
結果=
1.歯科衛生士の教育
全国134校の歯科衛生士養成所を対象とした「歯科衛生士教育課程等に関するアンケ-ト調査」および「臨床実習に関するアンケ-ト」の回収率はそれぞれ59.4%と71.5%であった。教育カリキュラムのなかで新設の希望が多かったものは行動科学、情報処理などの比較的新しい分野であり、臨床科目では、老年歯科、障害者歯科、看護学、歯科X線など社会環境の変化に対応した科目や業務の拡大を考慮したものであった。主要3科目(予防処置、診療補助、保健指導)については、高齢者と障害者を対象とした訪問指導、訪問看護、摂食指導、さらには介護技術などに新設科目としての採用希望が多かった。
望ましい教育年限としては、3年制とした教育機関が53.2%と半数を超え、4年制を選択した学校も2校あった。三年生のカリキュラムの総時間数の平均は3096時間で、単位制の導入を希望するものが過半数を占めた。臨床実習に関しては、現行の600~700時間を選択した養成機関が約半数を占めたが、地域歯科保健などの臨地実習については、現在のところ幼稚園・小学校が多いが、将来的には行政機関や高齢者・障害者の施設の見学実習を希望する養成機関が多かった。
2.歯科衛生士の業務とあり方
一般住民を対象としたアンケ-ト調査の結果は、歯科衛生士という職業を知らない人が約2/3を占め、社会的評価についても仕事の魅力についても十分な理解が得られていない職種ということになる。
社会的評価については、日本歯科衛生士会の会員を対象とした調査でも同様に低く、業務に対する満足度も決して高いとはいえない状況であった。しかしながら、生涯研修の必要性を感じているものは90%以上にも達している。一方、歯科衛生士養成所に対するアンケ-ト調査の結果では、養成所の70%が業務の見直しを必要とし、業務範囲の拡大を予測するものが多かった。特に行政や高齢者施設での歯科衛生士の活躍を期待しているところが多い。さらに、教育年限に関しても、半数以上が3年以上を希望し、70%以上は、歯学部講座制を基本とした縦割りの講義を見直し、大綱化を進め、いわば「歯科衛生(士)学」といったような独自の学問体系が必要であると回答している。
3.歯科衛生士の需要と供給
歯科衛生士の需要と供給を検討するために、全国の歯科衛生士養成所133校を対象として「歯科衛生士養成所の入学生、卒業生及び就職状況に関する調査」を郵送によって実施した。本アンケ-トの回収率は80.45%であった。この結果、過去5年間の入学定員は増加傾向にあるが、入学者数は平成7年度をピークに減少している。特に平成9年度は入学定員5,739名に対して入学者数5,664名で、全体として入学定員割れの現象が認められた。さらに、卒業者数と就職者数の推移を見ると、卒業しても就職しないものが増加しつつあり、両者の開きは大きくなる傾向を示した。これに対して歯科衛生士の求人人数及び件数については、卒業者数を遥かに上回り、ここ3年は増加傾向にあり、平成9年度はほぼ4倍を超える求人人数に達している。
一方、歯科衛生士会の会員を対象としたアンケート調査によれば、未就業歯科衛生士の62%は結婚及び出産・育児を理由に仕事を離れる現実がある。しかし、この未就業者の半数を超えるものが再就職を希望していることも事実であった。また、厚生省の統計調査による就業歯科衛生士数は昭和40年(1965)以降継続的な増加を示し、平成8年度は56,466名に達し、同時に一診療所あたりの歯科衛生士数も、昭和40年には0.1未満であったものが、平成8年には0.85となっている(図5)。しかしながら、この数値は地域ごとの差異が激しく、都道府県によっては0.21から2.02の間で大きな違いが認められる。また、就業歯科衛生士がライセンスを持つ者(150,000人)の約1/3にすぎないことも大きな問題であろう。
以上のデータにより、将来の歯科衛生士の需要と供給を推測すると、歯科保健医療体制及び教育制度が現状のまま継続されるとすれば、就業歯科衛生士数は、平成20年(2008)年には80,000人前後に達すると予測される。しかしながら、医療施設調査を基にした診療所の歯科衛生士の需要を考えると、現在でも約38,000名ほど歯科衛生士の未充足が考えられ、歯科診療所の増加や衛生行政分野の需要さらには高齢者・障害者の介護などを考慮すると、この歯科衛生士数でも需要を完全に満たすことになるかは疑問が残るところである。
現段階での考察=
日本における歯科衛生士の就業者数は平成8年末で56,466人であり、ライセンスを持った歯科衛生士全体の約1/3に留っているのが現状である。これは医師、歯科医師、看護婦、保健婦など他の医療職に比較してもその就業率は低く、そのために現在のところ供給に対する需要の割合が高い職種と言えよう。
この要因としては、第一に医療職としての魅力の欠如があげられる。これが歯科衛生士独自の学問体系が欠如している教育カリキュラムと年限についての不満を生じさせ、歯科衛生士業務の見直しと社会的なニ-ズに対応した業務の拡大への強い欲求につながっていると考えられる。また、看護婦と保健婦の例に見られるような専門的な業務の分化についても議論があり、教育年限の延長を期待する声も大きい。第二に、歯科衛生士の就業環境の改善または育児環境の整備によって、20歳で就業した歯科衛生士数が30歳では30%に激減するような現象はなくなり、生涯にわたる職業とするものが増加すると考えられ、業務の満足感も上昇し社会的評価も向上することが期待される。
歯科衛生士の供給に関しては、平成23年までの18歳人口の減少傾向および四年制大学への進学率の増加から、専修学校および短期大学への入学者数は明らかに減少することが見込まれるので、新規参入の歯科衛生士数が現在以上に増えることは考えにくい。これに対して、職場環境の改善を前提とした場合、30歳までの離職率の低下および40歳以降の再就職者の増加が期待されるところである。
一方、需要については、歯科診療所数の増加とそれにともなう一診療所あたりの歯科衛生士数が増加傾向にあること、衛生行政分野への歯科衛生士の配置、さらには高齢者と障害者の口腔介護の必要性を配慮すると、現在でも養成機関への求人数が全体で4.5倍であることから、需要が供給を下回ることは考えにくい現状である。
結論
 教育カリキュラムを中心とした歯科衛生士養成のあり方及びその需給バランスに関する2年間にわたる調査分析の結果現段階で以下の結論を得た。
1) 歯科衛生士という医療職に魅力をもたせるには、従来の業務に加えて高齢者の介護や障害者の口腔機能訓練など、社会的ニ-ズに対応した専門性を備えることが必要である。
2) そのためには、歯科衛生士独自の学問を体系化し、教育カリキュラムの改善と教育年限の3年制への延長が望まれる。さらに卒後研修制度の充実を計ることも必要である。
3) 歯科衛生士の需給に関しては、歯科保健医療体制及び教育制度が現況のまま継続されるとすれば、就業歯科衛生士数は平成20年(2008年)には80,000人前後に達すると推測されるが、需要を完全に満たすことになるかは疑問が残るところである。

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