臨床研究医の業務及び医療資源の実態に関する研究

文献情報

文献番号
199700312A
報告書区分
総括
研究課題名
臨床研究医の業務及び医療資源の実態に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
吉田 勝美(聖マリアンナ医科大学予防医学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 池田俊也(慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 健康政策調査研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 臨床研修医活動が保険診療に対してどの程度の貢献があったかについては、医業収入の上ではほとんど調査されていない。都内の1病院を対象に研修医の保険診療活動に関する調査を行い、その寄与度について検討した。しかし調査は対象数が極めて限られていることから、客観性を欠いていた。そこで、調査方法に改善を加えると共に対象病院、対象数を増加し、研修医の保険診療活動に対する寄与度を再検討した。
研究方法
1)調査対象及び調査期間
調査対象は、東京都内の2病院(臨床研修指定病院)における内科系研修医10名(内科8名、小児科2名)、神奈川県内の大学病院1病院(臨床研修指定病院)内科系研修医8名(内科7名、精神科1名)とした。さらにこれらの研修医の指導医も調査対象に加えた。会計情報については、各病院の医事課担当者にレセプト出力を依頼した。
調査期間は平成10年1月19日ー25日の1週間である。
2)調査方法
・生活時間調査
研修医に自記式調査用紙(日記法)を配布し、一週間の活動につきprospectiveにその内容及び時間の記入を依頼した。時間の記入を明確にするために、自記式調査用紙は30分毎の行動を示すものとした。この際、特に指導医と共同で行った活動については詳細な記入を要請した。
次に、記入したスケジュールについて指導医に研修医の臨床研修活動の評価を依頼すると共に、記入された研修医の各活動については、研修医の医療行為上の寄与度の判定を依頼した。さらに、研修医が存在することによるメリット・デメリットを総合的に考慮した評価を尋ねた。指導医からの情報は面接法により行った。
・医業収入調査
当該週のレセプト原票より、食事料を除外した研修医の関与した医療行為の保険収入を調査し、これに指導医により判定された寄与度を乗じることにより、研修医の診療行為による医業収入額を推計した。また推計医業収入の比較は1日単位で行った。
さらに研修医教育担当の有無について、その影響を検討した。
結果と考察
結果=1)分析対象
調査対象となった3病院のうち、研修医の自記式調査、指導医面接調査、当該週のレセプトの3者がそろった2病院を分析対象とした。2病院における研修医は13名であったが、その中には小児科と精神科の研修医も含まれていた。しかしながら、小児科及び精神科では他の内科と診療内容、保険収入が大きく異なることから、今回の分析対象から除外した。
さらに研修医に関する医業収入の分析は研修医が担当した入院患者に限定した。対象となった研修医1人あたりの受持入院患者数の2病院の平均は6人(最小5~最大12人)であった。
2)分析結果
・研修医による推計医業収入
研修医の受持入院患者の診療により得られた全保険収入、すなわち指導医による診療を含んだ全収入は一日平均25.9万円(最小14.3万~最大62.9万円)であった。これらの診療行為における研修医の寄与度は平均51%(最小20~最大82%)と評価された。これらの結果に基づき、研修医の推計医業収入額を、(全保険収入)×(研修医の寄与度)として算出した。この結果、研修医の推計医業収入額は一日平均12.2万円相当(最小4.8万~最大24.4万円)となった。
・対象2病院の比較検討
分析対象となった2病院は共に臨床研修指定病院であるが、地域における立場や医学教育における役割は異なっている。両者を比較すると、研修医の受持入院患者数は、国立病院では大学病院のほぼ2倍だったが、1日の全保険収入は大学病院の方が高い結果となった。また大学病院における研修医の寄与度は国立病院に比し高く評価され、その結果、研修医の推計医業収入については国立病院を上回っていた。
さらに2病院の研修医による推計医業収入について、保険診療における診療行為別に比較した。大学病院における研修医の推計医業収入は、国立病院の2倍となっていた。大学病院におけて比率の高いものは、基本料、投薬料、注射料、手術・麻酔、検査、画像診断の項目によるものであった。一方、市中病院においては処置の割合が高かった。また入院料については両者に差がみられなかった。
・研修教育担当有無による影響
次に、研修医とペアを組んでいない医師との比較を、大学病院について行った。同一科内においては、研修教育担当の有無にかかわらず受持患者数、1日あたりの保険収入には差は認められなかった。
考察=
臨床研修は医師の生涯教育の上で重要な位置を占めている。その中心となる臨床研修指定病院は医師免許取得後の2年間の卒後教育を行う医療施設として、全国で326病院が認定されている。臨床研修は対象者の80%以上で行われており、その80%は大学病院、残りの20%は臨床研修指定病院で行われている。臨床研修活動は医師免許の既得した医師が行っているが、日常診療に与える影響や貢献については明らかにされていない。本研究では、臨床研修医の業務が保険診療に及ぼす影響について、生活時間調査をもとに検討した。
研修医の診療に対する各指導医による寄与度の評価は20~82%と大きくばらついた。また、研修医の受持入院患者数と推計医業収入についても相関はみられなかった(図3)。これは、寄与度の考え方及び算出の根拠が指導医により異なり、あくまでも主観的な評価であること、研修医の質が異なること、調査対象期間における受持入院患者の病態や重症度が研修医により異なるため診療行為の内容も大きく異なること、などの要因が考えられる。今回の分析にあたっては、個々の患者情報はレセプトのみであり、重症度を考慮した調整はおこなっていない。しかしながら、患者数よりも重症度がより研修医の推計医業収入の上にも大きな影響を及ぼしていることが推測される。研修医の寄与度の評価については、今回の調査結果をもとにさらに詳細な検討を行っていきたい。
研修医による推計医業収入は、全保険収入と寄与度の積として算出した。このため全保険収入による影響をそのままうけることになる。レセプト項目ごとに、2病院の推計医業収入を比較する上では、2病院の特性が反映されていた。推計医業収入の比較検討においては、単に数値の比較ではなく、地域における病院の機能や医学教育との関わりにおいて吟味され、検討されるべきものと考えられる。
指導医となりうる医師の受持入院患者数や保険収入については、研修医教育担当の有無に関わらず、ほぼ同等であった。表2においては、研修担当の医師が研修医を担当していない医師に比べて、受持患者が1.2(人)、保険収入では6.4(万円)高くなっている。この差は受持患者数の差と考えられるが、受持患者数の多少の変化は日常的に存在する。この点を考慮すれば、研修医を担当することで保険収入が増加するということはなく、研修教育担当の有無にかかわらず一般医の保険収入は一定と考えられる。
保険収入の上で、研修教育担当がプラスに作用していないと考えると、研修教育を担当することは一般医に負担をもたらすものと考えられる。すなわち、研修教育担当医師は保険診療には計上されない一定の時間を費やしていることが、面接調査でも明らかになった。
面接調査の結果から、研修医教育を担当する医師は入院患者の診療を研修医と同等に行ってはいるものの、カルテのチェックや検査手法の指導などの教育指導には1日2ー3時間を要していることが判明した。また本人・家族への病状説明などについては、いずれも指導医の責任をもって行われており、研修医は培席しカルテの記録をとるなどの役割を担っていた。研修医の能力に差があるものの、研修医を担当する指導医は、研修医の自発的意欲を促すと共に、研修医の日常医療活動を細心の注意を払うなど、研修医教育へ時間と労力を費やしていた。今後、研修医の保険診療における役割の評価と共に、指導医における教育的役割についても経済的側面からの再評価が必要と考えられた。
結論
 研修医活動の保険診療に対する寄与度を、研修医に対する生活時間調査及びレセプトより推計した。その結果、研修医の医業収入額は一日平均12.2万円相当(最小6.1万~最大24.4万円)と算出された。しかし、研修医の診療に対する各指導医による寄与度の評価は20~82%と大きくばらついた。研修医の寄与度の評価については、今回の調査結果をもとにさらに詳細な検討が必要である。
また今回の調査では 、保険収入の上では研修教育担当は必ずしもプラスに作用としているとは限らず、むしろ研修教育担当医師に保険診療には計上されない時間的負担をもたらしていることがうかがえた。

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