がん微小環境制御を併用したナノドラッグによる難治性固形がん治療の実現

文献情報

文献番号
200712045A
報告書区分
総括
研究課題名
がん微小環境制御を併用したナノドラッグによる難治性固形がん治療の実現
課題番号
H19-ナノ-若手-001
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
狩野 光伸(東京大学大学院医学系研究科 分子病理学)
研究分担者(所属機関)
  • 西山 伸宏(東京大学大学院医学系研究科 臨床医工学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(ナノメディシン研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ナノ粒子の腫瘍内蓄積については、全ての腫瘍血管が数百nmの物質に対して漏出性であるという前提で開発されてきた。我々の研究では、難治がんである膵がんおよび胃がんの腫瘍血管では実は漏出性は高くなく、逆にTGF-β阻害剤を用いて漏出性を増加させた方が、ナノ粒子の腫瘍蓄積が増強される可能性を示唆した。本研究は、これら腫瘍血管を含む腫瘍微小環境すなわちEPR効果の要素に着目し、その制御の併用により、副作用の増悪なく難治性固形癌でのナノDDSの薬効を増強することを目指す。
研究方法
本年度は1.難治性でない固形癌でTGF-β阻害による増強効果があるかC26マウス大腸癌細胞皮下移植モデルでナノ粒子として高分子量デキストランまたはPEG化リポソーム内包アドリアマイシン(ドキシル)とTGF-β阻害剤を併用投与して検討した。2.膵癌・胃癌以外の難治性固形癌での効果について、ヒト胆管細胞癌細胞株などのマウス移植モデルを組織学的に、及び高分子デキストランにより生理学的に検討した。3.薬効があってトレーサーを持つナノ粒子を開発する目的で、白金製剤DACHPt内包ミセルのPEG組成を変化させて最適な組成を探し、また蛍光物質の結合を試みた。
結果と考察
1.C26モデルではナノ粒子はいずれも単独で十分な腫瘍内分布があり、TGF-β阻害剤併用は有意な増強をもたらさなかった。つまりTGF-β阻害剤は元来漏出性が十分な血管壁に対しては漏出性増強しないことが示され、当治療法の適応可能範囲を絞り込むのに重要な情報となった。2.ヒト難治腫瘍細胞株のヌードマウス皮下移植モデルは、一般に実際のヒト難治腫瘍と比較して血管密度はより高く、また腫瘍間質の線維化ははるかに少なく、組織構築に大きな隔たりがあることが判明した。「薬剤が血管から漏出して腫瘍間質を通過し、腫瘍細胞の集団に到達して初めて奏効する」という腫瘍内薬剤送達の研究には、より妥当な系の確立が必要と考えられた。3.組成を最適化したDACHPt内包ミセルは、C26モデルでより効果的な腫瘍内集積、抗腫瘍活性を認めた。さらに蛍光物質の付加が可能であった。
結論
今年度の研究結果から、ヒト難治癌組織内での薬剤送達を左右する腫瘍内微小環境の研究に妥当な動物モデルの構築を、今後のより重要な課題として加える。DACHPt内包ミセルでは組成の最適化と蛍光色素の導入によるトレーサー機能の付与を行った。

公開日・更新日

公開日
2008-04-11
更新日
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