東洋療法の国家試験にかかる実技試験等の導入に関する研究

文献情報

文献番号
199700311A
報告書区分
総括
研究課題名
東洋療法の国家試験にかかる実技試験等の導入に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
丹澤 章八(明治鍼灸大学大学院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 健康政策調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現行のはり師・きゅう師(“はき師")国家試験は客観式試験のため、専門技倆に関する評価は行われず、資格試験としては不十分であるという指摘がある。本研究は上記の指摘を踏まえ、“はき師"の施術(臨床)能力を客観的に評価する方法論の確立を目指すことと、あわせてその方法の国家試験への導入の可能性を検討することとを目的としている。
研究方法
“はき師"の基本的な施術能力を、医療面接(問診)、検査、取穴(ツボをとる)、刺鍼または施灸の4つの側面(課題)から評価する実技試験モデルをOSCEに依拠して作成し、これを首都圏所在の“はき師"養成校で試行した。評価は、複数の評価者が、課題を遂行する受験者を観察しながらチェックリストに記入したものを得点に置き換え、その得点を細田らが示した基準に倣い加算法と積算法とを用いて評定した。なお刺鍼課題は刺鍼操作が電気的に記録できる刺鍼試験台を創作し、これを使用した。また同時に実技試験モデルで設定した課題と同じ課題の筆記試験(記述式と客観式)を受験者に課し、両者の関連性を調査した。また評価の信頼性を確かめるため、本研究員による評価グループが試行時に記録したビデオを見ながら評価した結果と、試行時の評価者の評価結果とを照合して相関を調べた。以上の研究を今回は“はり師"を対象として行った。
結果と考察
課題の平均得点は取穴課題が高く、医療面接課題と検査課題が低く、変動係数は検査課題が高かった(23.1%)。この結果は専門教育に比し、実地臨床の教育がやや希薄倆をな教育現場の実情を反映しているものと受け取れる。各課題相互の相関を各課題の得点から求めた結果、課題相互間の相関はなくそれぞれに独立性が見られ、刺鍼課題でその傾向が顕著であった。また実技試験と筆記試験との間にも相関は見られなかった。以上の相関関係を総合して判断すると、当該モデルは客観式試験では得られない認知領域以外の技含む能力を評価しているものと考えられ、施術能力評価としての当該モデルの妥当性を裏付けるものであろう。複数評価者の評価一致率は全課題平均で完全一致率が71.9%、できる・できないの二区分法での一致率は85.9%であった。また試行時の評価結果と研究員による評価結果との相関は、加算法、積算法でともに高い相関が認められた(相関係数は加算法でr=0.854、積算法でr=0.905)。これらの結果は当該モデルで行った評価の信頼性と客観性を裏付けるものといえる。以上、本研究は施術能力が客観的に評価できる可能性を提示できたものと考える。受験者と試行に関係した教員に施行後の感想を求めたところ、両者ともに実地試験の意義を高く評価するとともに卒前教育への導入に賛意を示した。
施術能力の評価を目的としたこの種の実地試験が卒前教育に導入され、活発な論議が展開されれば教育水準の向上や標準化に資するものは多く、本研究を実施したこととその成果の意味するところは極めて大きい。一方、試行に参加した教員に対し、国家試験への導入について見解を求めたところ、その割合は賛成6:保留4に分れた。国家試験への導入にはなお検討すべき多くの課題があることと、これらの課題の討議・解決の過程を経て教育界のコンセンサスの醸成を計ることとが必要であり、現時点での国家試験への導入に関する短絡的な論議は時期尚早であることを示唆する結果であった。
結論
OSCEに依拠して“はき師"の施術能力の評価を目的とした実技試験モデルを作成し、“はき師"養成校で試行した結果、当該モデルは認知領域以外の技倆を含む施術能力の評価法として妥当性と信頼性とがあることを確かめ、“はき師"の施術能力を客観的に評価できる可能性を提示した。実技試験の国家試験への導入の可能性については、先行して検討すべき課題があり現時点で論議するのは時期尚早と思われる。しかし論議を喚起する意味を含めて本研究実施の意義は極めて大きいことを述べた。
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公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)