腸粘膜M細胞を標的としたドラッグデリバリー・システムの開発

文献情報

文献番号
200712006A
報告書区分
総括
研究課題名
腸粘膜M細胞を標的としたドラッグデリバリー・システムの開発
課題番号
H17-ナノ-一般-005
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
千葉 勉(京都大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 清野 宏(東京大学 医科学研究所)
  • 竹田 潔(大阪大学大学院 医学系研究科)
  • 田畑 泰彦(京都大学 再生医科学研究所)
  • 若月 芳雄(京都大学大学院 医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(ナノメディシン研究)
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
25,890,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
炎症性腸疾患の治療には免疫抑制薬の全身投与が使用されるが様々な副作用を来しやすく、また十分な効果がえられない場合が多い。したがって炎症局所へ特異的へのドラッグデリバリー•システム(DDS)の確立が必要となる。そこで腸M細胞が一定の大きさの粒子を取込むことに着目してポリ乳酸マイクロスフェア(PL-MS)によるM細胞を標的としたDDSを確立し、これに薬剤を包埋することによって腸粘膜に薬物を特異的に集積させる方法の開発を試み、ヒトへの臨床試験をおこなった。
研究方法
(1)PL-MS粒子作製条件を変化させ種々の改善を試みた。またラージスケール、かつヒトへの投与に耐えうるクリーンな環境での作製法確立をおこなった。(3)M細胞特異的に発現するPGRP-S のKOマウスを作成し基礎的検討をおこなった。(4)腸炎発症に関与するTh17細胞と腸内細菌の関わりについて動物実験をおこなった。(5)ステロイド包埋PL-MSの効果を増強するための手段としてゲラチン結合IL10発現プラスミドベクター同時投与、Bifidobacterium lognamを同時包埋したPL-MS投与の効果を検討した。(6)薬剤抵抗性潰瘍性大腸炎患者にデキサメサゾン包埋PL-MSを投与して効果を検討した。
結果と考察
(1)PL-MSの改良において、薬物徐放性、M細胞へのターゲティング能から、5μm以下の粒子がもっとも有効であった。(2)臨床応用に耐えうるクリーンな環境で、ラージスケールでのPL-MSの作製体制を構築した。(3)M細胞の基礎的検討で、パイエル板M細胞特異的に発現しているPGRP-S がB 細胞の IgA 産生を抑制して、抗原非特異的な抗体産生を抑制している可能性が示唆された。(4)Th17細胞の発育、維持を担う新たな腸内細菌由来物質の存在が示唆された。(5)IL10発現プラスミド結合ゲラチンの同時投与、およびbifidobacterium lognamのPL-MSへの同時包埋はより強力な腸炎抑制効果を示した。(6)デキサメサゾン包埋PL-MSを16例の潰瘍性大腸炎患者に対して治療を行った。4週間で全員改善を示し、CAIスコアも11.6点から6.7へと改善した。
結論
デキサメサゾンPL-MSは、潰瘍性大腸炎患者に対する、より副作用が少なく有効な治療法と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2008-04-11
更新日
-

文献情報

文献番号
200712006B
報告書区分
総合
研究課題名
腸粘膜M細胞を標的としたドラッグデリバリー・システムの開発
課題番号
H17-ナノ-一般-005
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
千葉 勉(京都大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 清野 宏(東京大学 医科学研究所)
  • 竹田 潔(大阪大学大学院 医学系研究科)
  • 田畑 泰彦(京都大学 再生医科学研究所)
  • 若月 芳雄(京都大学大学院 医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(ナノメディシン研究)
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
炎症性腸疾患の治療には免疫抑制薬の全身投与が使用されるが様々な副作用を来しやすく、また十分な効果がえられない場合が多い。したがって炎症局所への特異的なドラッグデリバリー・システム(DDS)の確立が必要となる。そこで腸M細胞が一定の大きさの粒子を取込むことに着目してポリ乳酸マイクロスフェア(PL-MS)によるM細胞を標的としたDDSを確立し、これに薬剤を包埋することによって腸粘膜に薬物を特異的に集積させる方法の開発を試み、ヒトへの臨床試験をおこなった。
研究方法
(1)PL-MS粒子作製条件を変化させ種々の改善を試みた。またラージスケール、かつヒトへの投与に耐えうるクリーンな環境での作製法確立をおこなった。(2)M細胞についての基礎的検討をおこない、マイクロアレイによりM細胞特異的遺伝子の同定を試みた。(3)腸管免疫に重要なTLRの解析と、腸炎発症に関与するTh17細胞と腸内細菌の関わりについて動物実験をおこなった。(4)ステロイド包埋PL-MSの効果を増強するための手段としてゲラチン結合IL10発現プラスミドベクター同時投与、Bifidobacterium lognamを同時包埋したPL-MS投与の効果を検討した。(5)薬剤抵抗性潰瘍性大腸炎患者にデキサメサゾン包埋PL-MSを投与して効果を検討した。
結果と考察
(1)PL-MSの改良において、薬物徐放性、M細胞へのターゲティング能から、3-5μmの粒子がもっとも有効であった。(2)GMPに準拠して臨床応用に耐えうるクリーンな環境で、ラージスケールでのPL-MSの作製体制を構築した。(3)M細胞の基礎的検討で、パイエル板M細胞特異的に発現している分子を同定し、そのうちPGRP-S がB 細胞の IgA 産生を抑制して、抗原非特異的な抗体産生を抑制している可能性が示唆された。(4)Th17細胞の発育、維持を担う新たな腸内細菌由来物質の存在が示唆された。(5)IL10発現プラスミド結合ゲラチンの同時投与、およびbifidobacterium lognamのPL-MSへの同時包埋はより強力な腸炎抑制効果を示した。(6)デキサメサゾン包埋PL-MS投与を16例の潰瘍性大腸炎患者に対して行った。4週間で全員改善を示し、CAIスコアも11.6点から6.7へと改善した。
結論
デキサメサゾンPL-MSは、潰瘍性大腸炎患者に対する、より副作用が少なく有効な治療法と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2008-04-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200712006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
(1)M細胞を標的としたDDSが実際に可能である事を示した。(2)M細胞はパイエル板のみならず小腸絨毛上皮にも存在することを明らかにし、さらにそれぞれの特徴が異なることを示した。(3)またパイエル板特異的に発現するいくつかの分子を同定し、その中のPGRP-Sが常在菌の成分を認識して、B細胞からの抗体産生を抑制することを明らかにした。(4)さらに炎症性腸疾患に深く関与するTh17細胞の発育、維持に腸内細菌由来の物質の関与が想定された。(5)ステロイドPL-MSによって潰瘍性大腸炎の改善がみられた。
臨床的観点からの成果
(1)実際にGMPに則して、ラージスケールかつクリーンな状況で、ステロイド包埋PL-MSを産生することが可能となった。(2)さらにIL10プラスミッドさらにBifidobacterium lognamの同時投与による、PL-MS効果のさらなる増強の可能性が示された。(3)実際に難治性の潰瘍性大腸炎患者16名にデキサメサゾン含有PL-MSを注腸投与することによって、全例で改善を示したことから、本DDSの有効性をヒトで確認しえた。
ガイドライン等の開発
本研究は、特にガイドライン等の開発とは直接関係していない。
その他行政的観点からの成果
潰瘍性大腸炎は国の難治性疾患として研究班が存在し、また患者に対する救済措置がとられている。しかしながら本疾患は現在わが国で急増しつつあり、新しいより有効な治療法開発が望まれている。本DDSはこうした行政的要求に答えうる可能性のある薬剤と考えられ、今後医師主導の治験も含めて、実際の臨床応用にむけた努力が期待される。
その他のインパクト
日本経済新聞に、本ポリ乳酸マイクロスフェア(PL-MS)によるM細胞特異的なドラッグデリバリーシステムが、炎症性腸疾患やGVHDに対する、全身の副作用の少ない、より効果的な治療方法、として紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
88件
その他論文(和文)
21件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
46件
学会発表(国際学会等)
72件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Matsuura M, Tabata Y, Chiba T, et al.
Therapeutic effects of rectal administration of basic fibroblast growth factor on experimental murine colitis.
Gastroenterology , 128 , 975-986  (2005)
原著論文2
Watanabe T, Chiba T, Wakatsuki Y, et al.
CD4+CD25+ T cells regulate colonic localization of CD4 T cells reactive to a microbial antigen.
Inflamm Bowel Dis , 11 , 541-550  (2005)
原著論文3
Takagi H, Hiroi T, Kiyono H, et al.
A rice-based edible vaccine expressing multiple T cell epitopes induces oral tolerance for inhibition of Th2-mediated IgE responses.
Proc Natl Acad Sci USA , 102 , 17525-17530  (2005)
原著論文4
Wieland CW, Florquin S, Maris, N. A., Hoebe, Takeda K, et al.
The MyD88-dependent, but not the MyD88-independent, pathway of TLR4 signaling is important in clearing nontypeable haemophilus influenzae from the mouse lung.
J Immunol , 175 , 6042-6049  (2005)
原著論文5
Nakase H, Nishio A, Chiba T, et al.
Specific antibodies against recombinant protein of insertion element 900 of Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis in Japanese patients with Crohn’s disease.
Inflamm Bowel Dis , 12 , 62-69  (2006)
原著論文6
Tamaki H, Nakamura H, Chiba T, et al.
Human Thioredoxin-1 Ameliorates Experimental Murine Colitis in Association with Suppressed MIF Production.
Gastroenterology , 131 , 1110-1121  (2006)
原著論文7
Jang MH, Sougawa N, Kiyono H, et al.
CCR7 is critically important for migration of dendritic cells in intestinal lamina propria to mesenteric lymph nodes.
J Immunol , 176 , 803-810  (2006)
原著論文8
Fukuyama S, Nagatake T, Kiyono H, et al.
Uniqueness of lymphoid chemokine requirement for the initiation and maturation of NALT organogenesis.
J Immunol , 177 , 4276-4280  (2006)
原著論文9
Uematsu S, Jang MH, Takeda K, et al.
Detection of pathogenic intestinal bacteria by Toll-like receptor 5 on intestinal CD11c+ lamina propria cells.
Nat Immunol , 7 , 868-874  (2006)
原著論文10
Ogawa A, Tagawa T, Takeda K, et al.
Toll-like receptors 2 and 4 are differentially involved in Fas-dependent apoptosis in Peyers patch and liver at an early stage after bile duct ligation in mice.
Gut , 5 , 105-113  (2006)
原著論文11
Yoshida M, Kobayashi K, Wakatsuki Y, et al.
Roopenian, Atsushi Mizoguchi, Wayne I. Lencer and Richard S. Blumberg: Neonatal Fc receptor for IgG regulates mucosal immune responses to luminal bacteria.
J Clinical Invest , 16 , 2142-2151  (2006)
原著論文12
Watanabe T, Kitani A, Wakatsuki Y, et al.
Nucleotide binding oligomerization domain 2 deficiency leads to dysregulated TLR2 signaling and induction of antigen-specific colitis.
Immunity , 25 , 473-485  (2006)
原著論文13
Nakase H, Yoshino T, Chiba T, et al.
Importance of early detection of cytomegalovirus infection in refractory inflammatory bowel disease.
Inflamm Bowel Dis , 13 , 364-364  (2007)
原著論文14
Nakase H, Mikami S, Chiba T, et al.
Rescue therapy with Tacrolimus for a patient with severe ulcerative colitis refractory to combination leukocytapehresis and high-dose of corticosteroid therapy.
Int Med , 46 , 717-720  (2007)
原著論文15
Inoue S, Nakase H, Chiba T, et al.
Open label trial of Clarithromycin therapy in Japanese patients with Crohn's disease.
J Gastroenterol Hepatol , 22 , 984-988  (2007)
原著論文16
Kasahara K, Nakase H, Chiba T, et al.
Adminstration of PEG-interferon to a patient with UC and chronic hepatitis C correlated with reduced colonic inflammation and reversal of peripheral T cell Th1/Th2 ratios.
Case reports in Gastroenterol , 1 , 157-161  (2007)
原著論文17
Nochi T, Yuki Y, Kiyono H, et al.
A novel M cell-specific carbohydrate-targeted mucosal vaccine effectively induces antigen-specific immune responses.
J Exp Med , 204 , 2789-2796  (2007)
原著論文18
Kunisawa J, Kurashima Y, Kiyono H, et al.
Sphingosine 1-phosphate dependence in the regulation of lymphocyte trafficking to the gut epithelium.
J Exp Med , 204 , 2335-2348  (2007)
原著論文19
McGhee JR, Kunisawa J, Kiyono H.
Gut lymphocyte migration: we are halfway ‘home’.
Trends Immunol , 28 , 150-153  (2007)
原著論文20
Kunisawa J, Kurashima Y, Kiyono H, et al.
Sphingosine 1-phosphate regulates peritoneal B cell trafficking for subsequent intestinal IgA production.
Blood , 109 , 3749-3756  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-