中毒情報の自動収集、自動提供システムの構築とそのパイロットスタディ

文献情報

文献番号
199700306A
報告書区分
総括
研究課題名
中毒情報の自動収集、自動提供システムの構築とそのパイロットスタディ
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
吉岡 敏治(財団法人日本中毒情報センター常務理事、大阪府立病院)
研究分担者(所属機関)
  • 白川洋一(愛媛大学医学部救急医学教授)
  • 黒川顕(日本医大多摩永山病院救急医学教授)
  • 島津岳士(大阪大学医学部救急医学助教授)
  • 安部嘉男(大阪府立病院救急診療科医長)
  • 後藤京子(財団法人日本中毒情報センター次長)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 健康政策調査研究事業
研究開始年度
平成6(1994)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
中毒情報センターの2大業務である化学物質に関する毒性情報の収集と、事故が発生した際の情報提供を可能な限り自動化すること。またこの情報内容の質を高めること。
研究方法
平成9年9月3日、分担研究者に加え、屋敷幹雄(広島大学法医学教室)、富岡譲二(日医大多摩永山病院)の2協力研究者を加え、大阪府立病院会議室にてこれまでの研究結果と今後の研究分担を討議した。その結果、引き続いて以下の研究を進めることになった。
現在中毒情報センターが保有する化学物質の毒性情報を自動的に提供するシステムをインターネット上に構築し、パイロットスタディを実施する。また、このデータベースに収載されている臨床症状や異常臨床検査値、薬毒物や生体資料の色調等から、中毒起因物質が不確定な症例に対して、診断補助の情報が提供可能か否かを検討する。昨年構築した疫学調査や参考症例として情報提供に資するための臨床例の自動収集システムを全国の救命救急センターを対象に稼働させるとともに、自動Fax送信システムの利用状況を分析する。集団化学災害時に市民や救急隊員、マスメディア等が必要とする情報内容と提供方法を再検討し、その資料整備を行う。わが国では保険未収載で、まとまった研究のない薬毒物分析のあり方を検討する。
結果と考察
結果=
化合物名、商品名の前方一致での検索機能を有する中毒情報の自動提供システム(化合物辞書データベース、DDB)を構築し、化合物名10,363件、商品名12,755件を登録して試験稼働させた。DDBの特徴は化合物名辞書と商品名辞書からなり、その二つの辞書が成分含有状況により連結されていること、中毒情報センターの情報のみならず、インターネット上の他のデータベースへのリンク機能を有していることである。
急性中毒症例のオンライン登録は結果として救命救急センターからは皆無で、分担研究者の関連5病院で試行された。
昨年2月1日より発生頻度の高い90成分、1600品目の中毒情報を収載して自動Fax送信システムを構築した。このシステムから取り出された情報はおよそ1年間で965件で、ボタン型電池、サリチル酸系薬物、マムシ、アセトアミノフェンの頻度が高かった。日本中毒情報センターの会員を対象にしたアンケート調査では698名より回答を得たが、61名(8.7%)が自動Fax送信システムを利用しており、そのうちの46名(75%)がうまく利用できていた。なお、将来システムが完成すればインターネットのみを利用するとした会員はわずかに5%で、Faxのみ、Faxとインターネットの両方とした会員がそれぞれ33%、41%であった。
中毒起因物質が不確定な症例に対して最大14の用語を組み合わせて起因物質を複合検索できるシステム(診断補助データベース)を構築した。基本データは中毒情報センターの保有する成分名にして881件のオリジナルファイルで、商品名、別名では25,000件以上をカバーするものである。臨床(中毒)症状、異常臨床検査値、薬毒物の色・匂い、剤型、包装単位、尿や口腔粘膜の色、用途、さらには発生頻度を考慮して不確定な中毒起因物質をかなり絞り込むことができるようになった。
集団化学災害時の市民、救急隊員、マスメディア等に提供する情報内容をそれぞれ決定し、5種類の化学物質について各対象に提供する資料を試作した。
アンケートにより判明した薬毒物分析可能施設数と分析希望頻度から、都道府県別の施設あたりの推定分析件数は最大26.7件であった。
考察=
臨床医が中毒患者に遭遇した際に中毒情報の自動提供システムを実際にどのくらい利用できるかは不明であるが、中毒情報センターのホームページへのアプローチは極めて多く、利用者が受益者となる化合物辞書データベースは発展性が高い。新たに開発される商品や内容変更などに対応して商品名辞書は頻繁な更新が必要なため、化合物名辞書と切り離して構築し、成分含有状況により連結した。また、他機関の既存の中毒関連データベースを有効に活用するため、検索した化合物名から直接他のデータベースの内容を閲覧できるシステム目指した。ホームページの目次を繰る方法や、自動Fax送信システムでは数万種類を越える化学物質の膨大な情報にはなかなか到達できず、将来はこの化合物辞書データベースが自動提供の主体となることは確実であろう。
インターネットを利用して、症例をオンラインで登録するシステムと商品情報の自動収集システムを構築した。救命救急センターを対象にしたアンケート調査で、コンピューター通信による症例の登録について賛同の得られた46施設のうち、ただちに登録が可能であるという10施設を対象にパイロットスタディが計画された。しかし、登録症例数はなく、改めて協力を要請中である。毎年新規に販売される商品は膨大な数に達するが、少なくともその成分・組成等(商品情報)は商品が市場に登場すると同時に把握されるべきである。業界により対応が異なるものの、オンラインによる商品情報の収集も実現しなかった。情報交換に積極的な救命救急センターの症例を収集することすら困難で、これら自動情報収集システムは当面実用的なものとは成り得ないと思われる。
自動Fax送信システムは1対1の電話応答により文字情報を要求されたときもその検索番号を伝えることで中毒情報センターの省力化に役立っている。現状ではインターネットよりもFaxの方が利用しやすいようであり、次年度は収載要望の強い医薬品を中心として中毒起因物質50品目を追加する予定である。
診断補助データベースはどの程度までの正しい用語が検索に用いられるかにより診断の確実性が異なるが、実行に際しての最も大きな障害はデータベースに用いられている同意語の統一と類義語のグループ化である。現在約200の症状を表す用語に対して類義語のグループ化を進めており、過去10年間の問い合わせ件数(頻度)を入力すれば、実用に耐え得る診断補助データベースが構築できると考えている。
一般市民に対して詳細な治療情報は不要であるが、中毒症状、未然防止対策、避難法や簡単な応急処置の方法は欠くことができず、救急隊、警察等には現場での毒物取扱い法や処理方法、患者の重症度判別法、応急処置はぜひ必要な情報である。過去の集団化学災害事例、国連勧告やわが国の毒物劇物取締法で指定されている物質を考慮すると、集団化学災害を惹起する物質は84種類あり、今後はこれら全ての物質について医療機関用のデータだけではなく、異なった立場の人々が必要とするデータを前もって整備すべきである。
患者来院時に確定診断のために薬毒物分析を行えるのは限られた物質のみであり、種々の中毒情報データベースには服毒量や致死量に関する記述はあるが、血中濃度に関する記載はほとんどなく、血中濃度測定の有効性について根本から再検討すべきであろう。既存の分析可能施設がネットワークを形成すれば物理的には需要分の測定が可能であろうが、分析費用、標準品の入手方法、試料の搬送方法、その他問題が山積している。
結論
近年著しく発達したインターネットを利用して、中毒情報の自動収集、自動提供は可能であるが、情報の自動収集は時期早尚である。中毒情報の自動提供システム、診断補助システムはいずれも極めて有用である。ただし、システム自体は構築途上であるため不完全な面も多く、パイロットスタディを継続して改善を積み重ねる必要がある。

公開日・更新日

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