病院機能評価事業の医療現場への効果的普及と啓発に関わる研究

文献情報

文献番号
199700305A
報告書区分
総括
研究課題名
病院機能評価事業の医療現場への効果的普及と啓発に関わる研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
河北 博文((財)日本医療機能評価機構)
研究分担者(所属機関)
  • 吉田静雄((社)全日本病院協会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 健康政策調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
97年4月より開始された日本医療機能評価機構による病院機能評価事業は、病院組織を見直し、良質の医療提供へ向けての具体的取組を行うための機会を提供するものとして期待されている。評価は、その準備を適切に進めることと、結果を活用することにより、さらに実効性の高いものとなる。その一方で、評価事業に関する実践的な積上げは希少であり、その目的、評価の手順と内容、効果等について必ずしも適切に理解されておらず、そのために評価を受けることを決断できない病院も多いのが現状である。また、評価結果に基づく具体的な改善方策の提示に対する病院からの要請は多いが、現時点ではその対応体制ができていない。
本研究では、これらの状況を払拭し、病院が評価の機会を適切に活用できる環境を整えることを目的に、1)受審病院が準備を円滑に進めるためのマニュアルの作成を行うこと、2)受審結果に基づく改善の方策についてより具体性のあるものを改善指針としてまとめ、あわせて、これを用いた改善支援事業のあり方について検討することを行った。
研究方法
1)受審マニュアルの作成
全日本病院協会病院機能評価委員会を中心に以下の手順で行った。
?マニュアルの枠組設定
現状および問題点についての議論に基づき、マニュアルとしてまとめるべき内容を設定した。
?受審準備に関する情報の収集
評価機構による審査(運用調査を含む)を受審した7病院(全日病会員6病院、他1病院)病院代表者に対して、具体的な受審状況についての調査を行った。特に、受審の目的・いきさつ、準備の実際、受審決定から実際の受審までのスケジュール、受審準備~受審までに病院で見られた変化、受審準備および受審に要した費用、これから受審を考えている病院へアドバイスが明瞭となるよう配慮した。
?マニュアルの作成
調査結果を病院機能評価委員会がとりまとめ、最終的なマニュアルとした。
2)改善指針の作成
日本医療機能評価機構が用いている評価項目は例えば一般病院種別Bでは130項目あり、さらにそれが、370の小項目に細分化されている。本年度の研究では、評価機構において、これらからいくつかの項目を抽出して改善指針の作成を試みた。
?項目の選定
比較的多数の病院で改善を要すると思われる項目を選定するために、95~96年度の運用調査によって得られた「評価項目の評点の分布状況」のデータから「評点“2"以下の病院が全体の2割以上」という評価結果となった項目を抽出した。次に、これらの中から、設問自体が不適切(要求レベルが高すぎる等)と判断される項目を除外した。さらに、一般病院種別ABともに共通、あるいは重要な項目で、日常業務の中で比較的具体的な改善施策が得られると思われる項目を検討した。さらにそれらから分析および指針作成作業の定型化になじむと思われる10の事項を選定した。
?改善方策の収集
一定以上の審査経験を有する評価調査者を対象として、選定された10の評価項目についての改善方策収集調査を実施した。その際、審査結果報告書において実際に指摘された「達成されていない問題状況(5段階評価で評点2以下)」および、「特に適切に取り組まれている事例(評点5)」の所見を抜粋し、参考例として付した。そして、評価調査者自身の病院活動における経験や、評価調査活動を通じて見聞した優れた事例などを想定したうえで考えうる改善方策を所定の用紙に記入してもらい、郵送にて回収した。
?改善指針としての整理
回収された改善方策を整理し、改善指針とした。その際、記入・回収されたひとつひとつの方策を類似性、具体性、適切性、実現可能性などの観点からグルーピングし、様々な状況にできるだけ対応できるような複数の方策を提示した。明らかに不適切と思われる方策は削除した。また、個々の評価項目に対する具体的な改善指針だけではなく、総括的な解説が必要であると判断し、「基本的な考え方」として加筆した。このように、最高水準の到達目標を指針として提示するだけではなく、個々の病院の置かれている水準で改善の努力がなされるよう到達目標の水準を数段階設定するよう配慮した。
結果と考察
1)受審マニュアルの作成
適切な受審を進めるマニュアルとして以下の内容のものが作成された。本マニュアルは、評価機構が設定する4つの評価体系のうち、一般病院種別Aについてを中心に作成した。
?「1.本書の目的」では、本マニュアルの目的を説明した。
?「2.医療機能評価のねらいとしばしばみられる誤解」では、従来のアンケート結果に基づき、病院機能評価普及の妨げになっていると思われる誤解についてQ&A形式で説明を加えた。
?「3.受審の目的を明確に」、「4.評価方法と基本的な枠組み」、「5.評価項目の検討」、「6.書面審査の記入」、「7.訪問審査前の確認事項」、「8.訪問審査の実際」では、できるだけ具体的に病院機能評価が行われる過程と準備方法について説明した。
?「9.受審した病院から」では7病院の事例を取り挙げた。受審までの準備期間は中央値6ヵ月(4~15ヵ月)、準備~受審に要す総費用は種別A病院平均で277万円、種別B病院平均で470万円(平成9年度受審病院については評価料を含む)であった。全ての病院が病院機能評価について肯定的に評価し、今後も積極的に評価に取り組む方針をもっていることが確認された。
?「10.資料」として、評価に当って整備したい記録・資料等について一覧表を掲げた。
?本マニュアルは、病院の機能評価の円滑な受審を促進するために作成された。その内容の適切性や実効性については、さらに検討の必要があるが、広く病院に配布されることにより、評価事業についての理解が深まるものと期待される。
2)改善指針の作成
?より多くの病院における問題状況として、以下の10項目が抽出された。
・ 患者のプライバシーへの配慮
・ 広報活動
・ 診療情報の管理
・ 院内の安全体制
・ 輸血血液の管理
・ 医療廃棄物の処理
・ 院内書類の書式の適切性
・ インフォームド・コンセント
・ 調理室の衛生管理
・ 患者の意見の尊重
これらを一般性の高い要改善項目として、改善指針作成の対象とした。
?改善方策収集調査を29名の評価調査者に対して実施した。20名から回答があり(回収率69%)、第1次集計分の4項目に対し約550の方策が提案された。
?これらを集約整理し、改善指針案として検討・作成した。各項目ごとに、「基本的な考え方」「評価項目」「達成されていない状況」「改善のポイント」「その他の状況」という視点から取りまとめ、一覧性を配慮した書式で作成した。
?改善指針作成作業を通じて以下のような論点が出され、検討した。以下にその要旨を示す。
・医療関連法規との整合性:「広報活動」における、医療法の「広告」規制と「広報」の違いを明確にするために、広報の定義を明確にすべきである。同様に「患者のプライバシーへの配慮」において、診察室などが独立した区画であることを要求する場合、消防法上の制約のなかで、どのような改善ができるかを示すべきである。
・評価者の立場や置かれている状況によって価値が相反し、対立する場合の考え方:「患者のプライバシーへの配慮」において、プライバシーを守るために他人の視線を遮るような配慮が求められる一方で、医療従事者には安全監視の義務があるので、この場合どういう考え方をすべきか。
・数値的な仕様規程を示す場合の適切性:「診療録管理」において、必要人員数や保管年限などを示す場合、評価機構として何を根拠にしているのか明確にしておく必要がある。
・既存の報告書や先行研究の情報の取り込み:本研究ではおもに評価調査者から情報を収集しているが、例えば「インフォームド・コンセント」については「インフォームド・コンセントの在り方に関する検討会」の報告書が出されているので、その中の考え方を踏まえつつ、新しい情報・考え方を盛り込む必要がある。
・実現可能性の配慮:例えば施設的な改善を必要とする方策を示した場合、当然多大なコストや期間が必要となり、病院の置かれている状況によっては改善の指針になり得ない場合がある。そこで、当面の対応策と、長期的に検討すべき事項(改築等)を両方示すなど複数の指針を示したり、取り組むべき手順を示す必要がある。
・病院機能の配慮:比較的大規模で地域中核的な機能を有する病院(一般病院種別B)と、小規模な地域密着型の病院(一般病院種別A)とでは、組織基盤などの面で当然格差があり、採用すべき指針も違ってくることが予想される。そこで、それぞれの病院が置かれている状況によって適切な指針が選択できるような配慮が必要である。
以上のような配慮のもとで、病院の状況に応じた改善の段階設定について検討を進めることにより、より現実に即した有効な指針となると考える。病院機能評価の目的は各病院が自ら改善に取り組むことである。具体的な改善指針はそのためのツールとしておおいに活用されるべきものであり、その重要性はおおきい。今後はより多くの領域に対応すべく、内容の充実を図るとともに、医療環境の変化に応じた情報のタイムリーな更新が必要である。
結論
評価事業への適切な受審とその後の改善のためのツールの作成を行った。今後は、これらのツールを用いた具体的な支援を実現すること、継続的な情報の更新体制を確立することが必要である。

公開日・更新日

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