へき地・離島医療のシステム作りに関する調査研究

文献情報

文献番号
199700304A
報告書区分
総括
研究課題名
へき地・離島医療のシステム作りに関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
小濱 啓次(川崎医科大学救急医学)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴川正之(自治医科大学救急医学)
  • 谷口繁(岩手医科大学高次救急センター)
  • 寺本成美(国立長崎中央病院)
  • 江口弘久(自治医科大学公衆衛生学)
  • 小濱啓次(川崎医科大学救急医学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 健康政策調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
へき地・離島における医療は地元医師、自治医大もしくは大学からの医師を中心に行われているが、いまもって医師不足は解消されていない。このことは、へき地・離島を抱える都道府県だけの対応では不十分で、何らかの新しい医師供給システムを作らなければならないことを示している。また研修にしても、単なる卒後研修だけでは不十分でへき地・離島医療を考慮した何らかの新しい医師研修システムを作らなければならない。搬送システムにしても車だけでは対応は不十分で、ヘリコプターを用いた新しい搬送システムをへき地・離島医療に導入しなければならない。この研究では、これらのシステムを構築することを目的とし、今後のへき地・離島医療における医療の改善を図るものである。
研究方法
研究に当たっては、下記の通り研究課題を分担した。分担研究者鈴川正之は「へき地・離島に勤務する医師研修システムの研究」を、分担研究者谷口 繁は「へき地におけるヘリコプター搬送システムの研究」を、分担研究者寺本成美は「離島におけるヘリコプター搬送システムの研究」を、分担研究者江口弘久は「へき地・離島における適正な医師の需給に関する研究」を、分担研究者小濱啓次は「へき地・離島における医師供給システムの研究」をおのおの分担研究した。
結果と考察
研究においては、へき地・離島医療に関わる諸問題について意見交換、実績評価、アンケート調査、さらに現地調査を行い、以下の結果が得られた。1)医師の研修システムに関しては、へき地・離島の地域的な多様性、診療所設備の多様性、プライマリーケアや救急医療に関わる研修項目の設定や研修場所、さらに臨床医としての評価方法など様々な観点より構築することが必要であることがわかった。2)陸続きのへき地におけるヘリコプター搬送に関して、北日本(1道4県)のアンケート調査では医師、救急隊員、看護婦および住民の抵抗感は少なく、重症患者の搬送時間の短縮を求めてその必要性を感じていることがわかった。しかし複雑な諸手続きやヘリポートの設置場所が現状に即応していないことなどが問題点であった。3)離島におけるヘリコプター搬送に関しては定着しつつある。すでに定着している長崎県において、ヘリコプター搬送システムの構築には医師同士の信頼関係が最も重要であり、さらに画像伝送を用いた搬送患者の決定、さらに搬送中の患者監視システムの確立などが必要であった。そのためには医療専用の救急ヘリコプターが有用と思われた。4)へき地・離島における医師・供給に関しては自治体が独自に行っているのが現状であり、医師確保に困難を極めている。これは、おのおの県内では解決できない問題である。5)そこで、今後は大学病院からの医師の供給、小病院からの供給、自治体病院からの供給に加え、都道府県を越えた医師プールからの供給についても考慮し、複合的な方策を検討すべきと思われた。へき地・離島における医療は、厚生省や自治体等の関係機関の施策により、徐々にではあるが改善されつつある。しかし実際にへき地・離島における医療の現状を調査すると多くの地域においてまだ、医師不足、診療体制の不備、重症患者の長時間搬送があり、日常の医療はさておき、緊急性の高い重症救急患者の発生においても十分な対応ができておらず、高度医療機関を有する都市部の医療に比べるとその較差は大きい。この較差を少なくするためには、へき地・離島医療が有している問題点を捉え、従来の施策に加えて新たな角度からの医師研修システム、救急搬送シス
テム、医師供給システムの構築が必要である。医師研修システムに関しては、卒後これからへき地・離島に勤務する医師に必要なカリキュラム、また現在すでに勤務している医師にも必要なカリキュラムを検討すべきであると思われる。それにはへき地・離島の地域的な多様性、診療所の設備面等の多様性、研修項目の多様性、すなわちプライマリーケアや救急医療に関わるもの等、さらに、これらの研修をどこで行うかなど、様々の点から構築し、モデル的な研修システムを提言する必要があると思われる。搬送システムに関しては、救急患者の搬送時間を短縮する手段として、航空機搬送の活用が有効であることは言うまでもない。今回のアンケート調査においても、医療従事者および一般市民が重症救急患者の搬送にヘリコプターを使用する必要性を感じていることがわかった。このことから、へき地においても救急患者の搬送にもっと積極的にヘリコプターを導入すべきであると思われた。一方、離島へき地においては、救急搬送専用のヘリコプターを導入し、搬送中の患者モニターなどより安全な搬送体制を確立することが重要であると思われた。また、いずれの場合も、現状に即応したヘリポートの設置が望まれる。現在医師の供給は大学の医局が主として行っており、医師過剰時代といわれているものの、まだまだへき地中核病院や支援病院には医師が不足という状況であり、とてもへき地診療所の支援まで行えないという状況にある。そこで医師数の多い大学医局や自治体立の大病院からの派遣や金銭的援助を想定したへき地診療を主とした小病院の活用などを検討すべきである。加えて、全国の医師を対象にしたへき地診療所に関するリスト(場所、処遇等)を作成し、都道府県を越えた人材を派遣するシステムを検討すべきである。
結論
わが国におけるへき地・離島の多様性について解析し、総合的な医師の研修システム、患者の搬送システム、医師の供給システムを作成すると共に、おのおの都道府県単位に調整機関(地域医療支援センター)を設置し、独自の体制を構築していくことが重要であると考えられた。

公開日・更新日

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