遺伝子治療薬の生体内投与後の毒性発現機構解析に関する研究

文献情報

文献番号
200708012A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子治療薬の生体内投与後の毒性発現機構解析に関する研究
課題番号
H17-トキシコ-若手-012
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
水口 裕之(独立行政法人医薬基盤研究所基盤的研究部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(トキシコゲノミクス研究)
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
遺伝子治療臨床研究で汎用されているアデノウイルス(Ad)ベクターをマウスに全身投与後の遺伝子発現情報を網羅的に解析(トランスクリプトーム解析)し、毒性発現(自然免疫誘導)に至る遺伝子やタンパク質を同定し、遺伝子治療における安全性の向上や実用化に向けての基礎情報を得ることを目的とする。
研究方法
マウスに Ad ベクターを全身投与後のDNAマイクロアレイ解析により、サイトカインシグナルを負に制御する分子であるSOCS1(Suppressor of Cytokine Signaling-1)が発現上昇することを見出した。そこで、SOCS1を発現するAdベクター(Ad-SOCS1)を作製し、マウスに投与後の毒性発現(自然免疫応答)への影響について解析した。また、DNAマイクロアレイ解析により遺伝子XおよびYが発現上昇することを新たに見出したので、Adベクターにより惹起される自然免疫反応に及ぼすこられの遺伝子の関与について検討した。さらに、自然免疫応答に必須の転写因子であるNF-κBの活性を抑制するアプタマー(低分子RNA)を発現するAdベクター(Ad-eAp50-L3)を作製し、in vitroおよびin vivoにおける炎症反応の抑制効果について検討した。
結果と考察
目的遺伝子を発現するAdベクターとAd-SOCS1との共投与により、目的遺伝子の発現に影響を及ぼすことなくAdベクターによる炎症性サイトカインの産生量が著減し、Ad-SOCS1は毒性軽減に有効であることが示された。遺伝子XおよびYはAdベクターのみならず、LPS(リポポリサッカライド)によっても強く発現誘導され、両遺伝子の自然免疫応答への関与が強く示唆された。そこで、自然免疫応答に及ぼす遺伝子XおよびYの機能解析に着手した。NF-κBアプタマー搭載Adベクターはin vitro、in vivoにおいて炎症性サイトカインの産生を低下させ、毒性を軽減可能なツールとなり得ることが明らかとなった。
結論
1.Adベクターによる自然免疫応答に関与する新規遺伝子の有力な候補を見出した。
2.Ad-SOCS1およびAd-eAp50-L3はAdベクターによる毒性を軽減させるツールとなり得る。

公開日・更新日

公開日
2008-04-10
更新日
-

文献情報

文献番号
200708012B
報告書区分
総合
研究課題名
遺伝子治療薬の生体内投与後の毒性発現機構解析に関する研究
課題番号
H17-トキシコ-若手-012
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
水口 裕之(独立行政法人医薬基盤研究所基盤的研究部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(トキシコゲノミクス研究)
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
遺伝子治療臨床研究で汎用されているアデノウイルス(Ad)ベクターをマウスに全身投与後の遺伝子発現情報を網羅的に解析(トランスクリプトーム解析)し、毒性発現(自然免疫誘導)に至る遺伝子やタンパク質を同定し、遺伝子治療における安全性の向上や実用化に向けての基礎情報を得ることを目的とする。
研究方法
ウイルスベクター(Adベクター)と非ウイルスベクター(lipoplex)をマウスに全身投与後の遺伝子発現能や自然免疫誘導能を比較解析することで、有効性と安全性に関する検討を行った。また、Adベクターをマウスに投与後の各臓器を用いた DNAマイクロアレイ解析を行い、Adベクターに対する自然免疫応答に関与する組織・遺伝子の同定を試みた。ベクター改変技術と治療用遺伝子の両観点から、安全性の高いAdベクターの開発を行った。さらに、炎症性サイトカインの産生に重要な役割を果たす転写因子である NF-κBのデコイやアプタマーを用い、Adベクターによる毒性発現を軽減する技術開発を試みた。
結果と考察
Adベクター投与後の自然免疫誘導には脾臓の樹状細胞が重要な役割を担っていること、分子メカニズムは細胞種によって異なること等を明らかにし、その分子機構解明において大きな進展がみられた。また、NF-κBデコイ、ファイバー改変Adベクター、SOCS1発現Adベクター、NF-κBアプタマー等を開発することにより、毒性を軽減する技術の開発にも成功した。今後、DNAマイクロアレイ解析で得られたAdベクターによる自然免疫応答に関与することが予想される個々の遺伝子の機能を詳細に解析していくことにより、Adベクターによる毒性発現機構をさらに解明し、安全な遺伝子治療法の開発に繋げていきたいと考えている。
結論
1.非ウイルスベクターはAdベクター以上に自然免疫誘導能が高く注意を要することが明らかとなった。
2.Adベクターによる自然免疫応答に関与する新規遺伝子の有力な候補を見出した。
3.Adベクター投与後の自然免疫誘導には脾臓の樹状細胞が重要な役割を担っており、分子メカニズムは細胞種によって異なることを見出した。
4.F-κBデコイ、ファイバー改変Adベクター、SOCS1発現Adベクター、NF-κBアプタマーはAdベクターによる毒性を軽減するツールとなり得ることを実証した。

公開日・更新日

公開日
2008-04-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200708012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では遺伝子治療臨床研究で汎用されているアデノウイルス(Ad)ベクターをマウスに全身投与後の遺伝子発現情報を網羅的に解析(トランスクリプトーム解析)し、毒性発現(自然免疫誘導)に至る遺伝子やタンパク質の同定を目指したメカニズム解明や、毒性を軽減できる新規ベクターや遺伝子治療法の開発に成功し、遺伝子治療における安全性の向上や実用化に向けて極めて大きな成果を得た。
臨床的観点からの成果
Adベクターは遺伝子治療臨床研究で最も広く使用されているベクターであるが、1999年に米国におけて遺伝子治療臨床研究での死亡事故等が起こり、有効性や安全性を高めたベクターの開発や、安全性(毒性あるいは副作用)を評価する研究の進展が望まれている。本研究により、Adベクターによる毒性発現メカニズムの解明が大きく進展し、毒性発現を抑制する技術開発にも成功したことは今後のAdベクターを用いた安全な遺伝子治療の実現に向けて大きな意義を持つ。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
本研究により得られた成果は将来の遺伝子治療の実用化や治療対象の拡大の促進だけでなく、抗ウイルス療法のための新たなストラテジーを提供でき、ひいては保健医療の向上への貢献が期待される。従って、その社会的意義は極めて大きいと考えられる。
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
25件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Sakurai H., Tashiro K., Kawabata K., et al.
Adenoviral expression of suppressor of cytokine signaling-1 reduces adenovirus vector-induced innate immune response.
J. Immunol. , 189 , 4931-4938  (2008)
原著論文2
Koizumi N., Yamaguchi T., Kawabata K., et al.
Fiber-modified adenovirus vectors decrease liver toxicity through reduced interleukin 6 production.
J. Immunol. , 178 , 1767-1773  (2007)
原著論文3
Yamaguchi T., Kawabata K., Koizumi N., et al.
Involvement of MyD88 and TLR9 in the innate immune response elicited by replication-incompetent adenovirus vectors.
Hum. Gene Ther. , 18 , 753-762  (2007)
原著論文4
Sakurai H., Sakurai F., Kawabata K., et al.
Comparison of gene expression efficiency and innate immune response induced by Ad vector and lipoplex.
J. Control. Release. , 117 , 430-437  (2007)
原著論文5
Koizumi N., Kawabata K., Sakurai F., et al.
Modified adenovirus vectors with CAR-,αv integrin-, and heparan sulfate-binding ablation reduce in vivo tissue transduction and toxicity.
Hum. Gene Ther. , 17 , 264-279  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-