特異体質性薬物肝障害発症の機構解明と予測実験系の開発

文献情報

文献番号
200708010A
報告書区分
総括
研究課題名
特異体質性薬物肝障害発症の機構解明と予測実験系の開発
課題番号
H17-トキシコ-一般-010
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
横井 毅(金沢大学大学院医学系研究科 薬学部兼任)
研究分担者(所属機関)
  • 中島 美紀(金沢大学大学院医学系研究科 薬学部兼任 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(トキシコゲノミクス研究)
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
23,154,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬物誘導性肝障害の予測試験系の構築を目指して、種差を考慮した試験系の開発研究およびヒト特異的に発症する薬物誘導性肝障害の機構解明について、以下の5つの相互に関連した研究内容で研究を行った。(1)前年度に特許申請したグルタチオン合成酵素ノックダウンによる薬物誘導性肝障害試験系のラットモデルの更なる検討、(2)活性酸素の主たる解毒系酵素であるスーパーオキシドデスムターゼ2(SOD2)のノックダウン試験系の構築、(3)CYP3A4の代謝的活性化による細胞障害性に関するさらなる検討、(4)薬物誘導性肝障害に関与するマイクロRNAの検討、(5) CYP3A4について、マイクロRNAによる制御が個人差の原因であるかの解明、の5項目を中心に検討を進めた。
研究方法
shRNAの発現手法、 ヒトCYP3A4の発現ベクターの作成、および細胞への感染実験、ラットへの投与実験などは全て、昨年度までに確立した方法に従って行った。
結果と考察
(1) 前年度に確立したグルタチオン(GSH)合成をノックダウンしたラットin vivoにおいて、通常のラットでは肝障害をまったく発症しない投与量において、このモデルラットは顕著な肝障害を示し、その投与量の差異は5?10倍であった。(2) SOD2のノックダウン/アデノウイルス系を培養細胞レベルで構築することに成功した。この細胞を用いてダプソンおよびトログリタゾンによる細胞障害性を高感度に検出できることを示した。特許申請準備中である。さらにin vivo ラットモデルとしての検討をおこなっている。 (3) ヒトCYP3A4が反応性代謝物の生成に主たる要因であることを示した。 (4) 肝障害時にmiR-21の発現が増加することを見出した。(5) ヒトCYP3A4の発現と誘導に関わる核内受容体であるPXRがmiR-148aによって制御されていることを初めて明らかにした。細胞レベルでmiR-148aを強制発現させるとリファンピシンによる誘導も完全に阻害されること等を明らかにした。現在J Biol Chemに印刷中である。
結論
反応性代謝物に基因する薬物誘導性肝障害を予測する試験系の構築研究については、in vitroおよびrat in vivoの系の確立がかなり進行した。製薬会社での評価研究に価するものと成ってきたと考えている。

公開日・更新日

公開日
2008-04-14
更新日
-

文献情報

文献番号
200708010B
報告書区分
総合
研究課題名
特異体質性薬物肝障害発症の機構解明と予測実験系の開発
課題番号
H17-トキシコ-一般-010
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
横井 毅(金沢大学大学院医学系研究科 薬学部兼任)
研究分担者(所属機関)
  • 中島 美紀(金沢大学大学院医学系研究科 薬学部兼任)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(トキシコゲノミクス研究)
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
特異体質性薬物誘導性肝障害の予測試験系の構築とその評価を目的とした。特にヒト肝における反応性代謝物の生成系を考慮したin vitro細胞スクリーニング試験系と、in vivo試験ラットの作出と評価研究を主な目的とし、主に以下の9項目について、(1)グルタチオンノックダウンモデルラットを用いた薬物誘導性肝障害試験系の評価、(2)スーパーオキシドデスムターゼ2(SOD2)ノックダウンによる薬物誘導性肝障害試験系の構築、(3)アデノウイルスを用いたCYP3A4の発現と薬物誘導性細胞障害(4)トログリタゾン由来肝障害性関連蛋白質の同定と毒性発現、(5)薬物誘導性肝障害による薬物排泄能への影響、(6)CYP3A4による代謝的活性化に関する薬物誘導性肝障害試験系構築の研究、(7)肝障害化合物投与による網羅的RNA発現変動解析およびマイクロRNAの発現変動とその役割の検討、(8)CYP1B1のマイクロRNAによる発現制御と毒性、(9)マイクロRNAによるヒトPXRの発現制御とCYP3A4の個人差に関する検討、について概ね当初の予定どおりの成果を挙げることが出来た。
研究方法
発現ベクターの作成、および細胞への感染実験、ラットへの投与実験などは全て、常法に従って行った。
結果と考察
(1)2006年に特許申請を行ったGSH減少モデルラットが急性および亜急性の薬物誘導性肝障害を高感度に検出できることを明らかにした。(2)ラットSOD2遺伝子をノックダウンするアデノウイルスを作製した。薬物で細胞障害性を高感度に検出できた。(4)トログリタゾンのヒト肝細胞傷害性を指標にした検討により、肝障害のマーカーを同定した。(5)誘導性肝障害ラットにおいて薬物の尿中および糞中排泄率の変化を明らかにした。(6)多くの薬物でCYP3A4による代謝的活性化を明らかにした。(8)CYP1B1がmiR-27bによって転写後調節をされていることを見出した。(9)我々はmiR-148aがヒトPXRの発現を転写後調節しており、これによりヒト肝におけるCYP3A4の常在的および誘導的発現が制御されていることを見出した。
結論
反応性代謝物に基因する薬物誘導性肝障害を予測する試験系の構築研究については、当初の予定の基本的な立ち上げは終了した。今後、これらのin vitroおよびrat in vivoの系を用いて、評価研究を行い、医薬品開発の前臨床研究に寄与することが期待される。さらに、CYP3A4/PXRの転写後調節の解明研究を通して研究の糸口が見えてきた。

公開日・更新日

公開日
2008-04-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200708010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
培養細胞におけるヒトCYP3A4等の活性をヒト肝と同程度にすることに成功したために、ヒトにおける代謝と毒性(代謝的活性化反応)の予測性が高い試験系を確立できた。さらに、解毒系もsh-RNAの発現を用いたノックダウン手法によりヒト化できたことで、さらに予測性が高い試験系を作製できた。今後は製薬会社で評価試験を予定している。また、ヒトCYP3A4活性の個体差の原因としてマイクロRNAを発見できたことは今後の個人差の説明の糸口になると考えられる。
臨床的観点からの成果
前臨床試験における薬物誘導性肝障害の予測試験の確立手法を提供できたことは、前臨床試験によってより良い選択ができ、第1相臨床試験の成功の確率を高めることに貢献することが期待できる。また、これまで全く説明ができなかったヒトCYP3A4活性の大きな個人差の原因を発見したことは、今後の薬の体内動態予測および副作用発現の予測性を高めるために役立つことが期待される。
ガイドライン等の開発
直接は関係ないが、2008年2月にFDAから出された代謝物の安全性試験のガイドラインの主旨に添った研究内容であると考えている。
その他行政的観点からの成果
日本製薬業協会の主催講演会で、代謝物の安全性の取り組みについての講演会で招待講演を行った。ヒトにおける毒性発現を完全に予測できる系が望まれており、産官学で今後も取り組みが行われていくものと思われる。
その他のインパクト
多くの招聘講演を依頼されたことも特筆に値する。日本薬物動態学会、日本トキシコロジー学会学術年会、日本TDM学術大会、日本薬学会シンポジウムおよび英国トキシコロジー学会学術年会などで本研究内容でのシンポジウムや特別講演を14件行った(総合研究報告書に記載済)。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
21件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
21件
学会発表(国際学会等)
14件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
14件
学会等の招聘講演のなかで、本研究内容を紹介した場合をカウントしました。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Rawian Maniratanachote, Keiichi Minami, Tsuyoshi Yokoi, et al..
Chaperone proteins involved in troglitazone-induced toxicity in human hepatoma cell lines.
Toxicol Sci., , 83 (1) , 293-302  (2005)
原著論文2
Keiichi Minami, Toshiro Saito, Tsuyoshi Yokoi et al.,
Relationship between hepatic gene expression profiles and hepatotoxicity in five typical hepatotoxicant-administered rats.
Toxicol. Sci., , 87 (1) , 296-305  (2005)
原著論文3
Rawiwan Maniratanachote, Miki Nakajima, Tsuyoshi Yokoi, et al..
Detection of autoantibody to aldolase B in sera from patients with troglitazone-induced liver dysfunction.,
Toxicology , 216 (1) , 15-23  (2005)
原著論文4
Masuhiro Nishimura, Tsuyoshi Yokoi, et al
Induction of human CYP1A2 and CYP3A4 in primary culture of hepatocytes from chimeric mice with humanized liver.
Drug Metab. Pharmacokinet., , 20 (2) , 121-126  (2005)
原著論文5
Miki Katoh, Tomohito Matsui, Miki Nakajima, et al.,
In vivo induction of human cytochrome P450 enzymes expressed in chimeric mice with humanized liver.
Drug Metab. Dispos , 33 (6) , 754-763  (2005)
原著論文6
Miki Katoh, Tomohito Matsui, Tsuyoshi Yokoi et al.
Expression of human phase II enzymes in chimeric mice with humanized liver.
Drug Metab. Dispos , 33 (9) , 1333-1340  (2005)
原著論文7
Masuhiro Nishimura, Hiroki Yoshitsugu, Tsuyoshi Yokoi et al.
Evaluation of mRNA expression of human drug-metabolizing enzymes and transporters in chimeric mouse with humanized liver.
Xenobiotica, , 35 (9) , 877-890  (2005)
原著論文8
Miki Katoh, Misaki Watanabe, Tsuyoshi Yokoi, et al.
In vivo induction of human cytochrome P450 3A4 by rifabutin in chimeric mice with humanized liver.
Xenobiotica, , 35 (9) , 863-875  (2005)
原著論文9
Keiichi Minami, Rawiwan Maniratanachote, Tsuyoshi Yokoi et al.
Simultaneous measurement of gene expression for hepatotoxicity in thioacetamide-administered rats by DNA microarrays.
Mutat. Res., , 603 (1) , 64-73  (2006)
原著論文10
Yuki Tsuchiya, Miki Nakajima, Tsuyoshi Yokoi et al.,
Binding of steroidogenic factor-1 to the regulatory region might not be critical for transcriptional regulation of human CYP1B1 gene.
J. Biochem., , 139 (3) , 527-534  (2006)
原著論文11
Miki Katoh, Naoto Suzuyama, Tsuyoshi Yokoi, et al.
Kinetic analyses for species differences in P-glycoprotein-mediated drug transport.
J. Pharm. Sci. , 95 (12) , 2673-2683  (2006)
原著論文12
Rawiwan Maniratanachote, Miki Nakajima, Tsuyoshi Yokoi, et al.
Dephosphorylation of ribosomal protein P0 in response to troglitazone-induced cytotoxicity
Toxicol. Lett., , 166 (1) , 189-199  (2006)
原著論文13
Yuki Tsuchiya, Miki Nakajima,Tsuyoshi Yokoi et al.
MicroRNA regulates the expression of human cytochrome P450 1B1.
Cancer Res , 66 (18) , 9090-9098  (2006)
原著論文14
Naoto Suzuyama, Miki Katoh, Tsuyoshi Yokoi et al.
Species differences of inhibitory effects on P-glycoprotein-mediated drug transport.
J. Pharm. Sci., , 96 (6) , 1609-1618  (2006)
原著論文15
Miki Katoh, Tomohito Matsui, and Tsuyoshi Yokoi
Glucuronidation of antiallergic drug, tranilast: identification of human UDP-glucuronosyltransferase isoforms and effect of its phase I metabolite.
Drug Metab. Dispos., , 35 (4) , 583-589  (2007)
原著論文16
Sho Akai, Miki Nakajima, Tsuyoshi Yokoi et al.
Knock down of γ-glutamylcysteine synthetase in rat causes acetaminophen-induced hepatotoxicity.
J. Biol. Chem., , 282 (33) , 23996-24003  (2007)
原著論文17
Miki Katoh, Toshiro Sawada, Tsuyoshi Yokoi et al.,
In vivo drug interaction model for human cytochrome P450 enzyme using chimeric mice with humanized liver.
J. Pharm.Sci., , 96 (2) , 428-437  (2007)
原著論文18
Hirotoshi Okumura, Miki Nakajima, and Tsuyoshi Yokoi.
Change of drug excretory pathway by CCl4-induced liver dysfunction in rat.
Biochem. Pharmacol , 74 (4) , 488-495  (2007)
原著論文19
Hirotoshi Okumura, Miki Nakajima, Tsuyoshi Yokoi, et al.,
Humanization of excretory pathway in chimeric mice with humanized liver.
Toxicol. Sci., , 97 (2) , 533-538  (2007)
原著論文20
20. Shingo Takagi, Miki Nakajima, Tsuyoshi Yokoi
Post-transcriptional regulation of human pregnane X receptor by microRNA affects the expression of cytochrome P450 3A4.
J. Biol. Chem., in press  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-