遺伝子発現の網羅的解析によるワクチンの新しい安全評価に関する研究

文献情報

文献番号
200708009A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子発現の網羅的解析によるワクチンの新しい安全評価に関する研究
課題番号
H17-トキシコ-一般-009
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
山口 一成(国立感染症研究所血液・安全性研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 渡辺 慎哉(東京医科歯科大・大学院医歯学総合研究科・臨床インフォマティクス講座)
  • 野村 信夫(産業技術総合研究所・生物情報解析研究センター)
  • 浜口 功(国立感染症研究所血液・安全性研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(トキシコゲノミクス研究)
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
30,238,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本脳炎ワクチンは、マウス脳で増殖させたウイルスを原料として製造されてきた(JE)。一方、培養細胞で増殖させたウイルスを原料とした次世代ワクチン(TJE)は現行のものに比してよりリスクが低いことが期待されている。本研究では、従来の生化学的解析に加えてDNAマイクロアレイ解析を用いることで、開発段階にある培養細胞由来ワクチンと現行のマウス脳由来ワクチンの特性を詳細に検討することを目的とした。


研究方法
JE、TJE、および生理食塩水をラット腹腔内に5ml接種し、接種後1、2、3、4日目に血液を採取した。血液中の赤血球数、白血球数、血小板数など8項目について検査を行った。また接種後1、2、3、4日目に脳と肝臓を摘出し、計72臓器からpoly(A)+RNAを抽出し、Cyanine3およびCyanine5でラベルした後、11,468個の遺伝子特異的配列オリゴDNA(80mer)とハイブリダイゼーションさせた。各スポットの蛍光強度の比率(Cyanine5/Cyanine3)をスキャナーおよび解析ソフトで数値化することにより、共通リファレンスに対する各遺伝子の発現量比を検出した。
結果と考察
日本脳炎ワクチン接種ラットの接種後の体重推移を検討したが、JE、TJEとも体重減少を示すことはなく、体重増加率は生理食塩水接種群と同等であった。また、血液学的検査、血液化学的検査により、JEとTJEの間の差異を見出すことはできなかった。さらに、DNAマイクロアレイによる遺伝子発現プロファイルを基にしたクラスタ解析を行ったが、脳、肝臓共に投与群ごとのクラスタが形成されることはなかった。これらの結果はワクチン接種個体の脳、肝臓における遺伝子発現パターンが、接種サンプルによって特徴づけられてはいないことを示している。
結論
マウス脳由来、およびVero細胞由来日本脳炎ワクチンの特性を検証するため、ワクチン接種後のラットの体重測定、血液学的検査、血液化学的検査、および肝臓と脳における網羅的遺伝子発現解析を行った。その結果、接種後4日目までにJE、TJEの両者に大きな差を認めず、それらの特性は同等であると評価された。このように遺伝子発現を指標にした解析はこれまでの動物試験とも相関しており、今後新しいワクチンの安全性試験法の開発への応用が可能と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2008-04-11
更新日
-

文献情報

文献番号
200708009B
報告書区分
総合
研究課題名
遺伝子発現の網羅的解析によるワクチンの新しい安全評価に関する研究
課題番号
H17-トキシコ-一般-009
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
山口 一成(国立感染症研究所血液・安全性研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 渡辺 慎哉(東京医科歯科大・大学院医歯学総合研究科・臨床インフォマティクス講座)
  • 野村 信夫(産業技術総合研究所・生物情報解析研究センター)
  • 浜口 功(国立感染症研究所血液・安全性研究部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(トキシコゲノミクス研究)
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
これまでに国立感染症研究所では、動物にワクチン接種した後にみられる生体変化(体重、体温、病理)を指標にワクチンの安全性の評価を行ってきたが、一方で、ワクチンが生体に与える反応を分子レベルで解明し、安全性評価試験の開発に応用することは重要な課題である。ワクチン接種後に発現量が著しく変動する分子をワウチン毒性に関与する遺伝子群(バイオマーカー)として抽出する。さらにこれらバイオマーカーの発現量を簡便でかつ高精度に測定できる方法を確立し、新しいワクチンの安全性評価法の開発を行う。
研究方法
ワクチンの毒性に関連していると思われるバイオマーカーを遺伝子の網羅的発現解析より抽出し、定量PCRを用いて発現量を測定する。さらにこれらのバイオマーカーの測定にQuantiGene Plex法を導入する。本方法はワクチン接種ラットの肺から精製したRNA に蛍光ビーズでラベルされた複数個のRNAプローブを加え、ハイブリダイゼーションさせた後マイクロプレートルミノメーターにより蛍光強度を測定するもので、複数のバイオマーカーのRNA量を一括して定量的に測定する。
結果と考察
DNAマイクロアレイの手法を用いてワクチンの毒性に関与する遺伝子の抽出を行った。百日せきワクチン毒性関連遺伝子として13遺伝子、またインフルエンザ毒性関連遺伝として42遺伝子群を同定した(Vaccine誌に報告済み)。これらの遺伝子発現量は定量PCR法により定量し、マイクロアレイの結果と相関することを確認した。さらに安全性試験への応用を目的に、これらの遺伝子群を一括して測定できるQuantiGene Plex法によって解析し、百日せきワクチンのバイオマーカーである13個の遺伝子が定量的に測定可能であることが明らかとなった。
結論
遺伝子の網羅的発現解析から得られたバイオマーカーを定量PCR法およびQuantiGene Plex法を用いて解析したところ、QuantiGene Plex法が定量PCR法と同等に精度の高い定量が可能であり、遺伝子発現量の変化が、百日せきワクチン投与に伴う生物反応を迅速かつ鋭敏感知できることが明らかとなった。今後ワクチンの毒性に関連した遺伝子群をバイオマーカーとして、新しいワクチンの安全性検出システムの構築を、ワクチンメーカーおよび受託検査機関と共同で進め実用化を目指す。

公開日・更新日

公開日
2008-04-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200708009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ワクチンが生体に与える反応をDNAマイクロアレイの手法を用いて分子レベルで解明し、毒性に関与する遺伝子群の同定を行った。ワクチン接種動物での遺伝子発現変動はこれまでに検討を行ってきた接種動物における生体変化(体重、体温、病理)とほぼ一致しており、遺伝子発現量の変化が、ワクチン投与に伴う生物反応を迅速かつ鋭敏感知できることが明らかとなった。成果はワクチン誌に掲載され、また国際ワクチン学会でも新しい品質管理の試験法として反響を呼んだ。
臨床的観点からの成果
ワクチンの品質管理は副反応の発生とも密接に関連している。これまでワクチンの安全性試験に動物での生体反応を指標に判定を行ってきたが、新たにワクチンの毒性に関連するバイオマーカーを用いた試験法開発を行うことにより、新規ワクチンを含め、さらに高度な品質管理の実現が可能と考えられる。本研究により、ワクチンの毒性に関連するバイオマーカーの同定および測定法の確立が終了した。
ガイドライン等の開発
本研究課題ではガイドライン等の開発は行っていない。
その他行政的観点からの成果
これまでワクチンの安全性評価法として、接種後にみられる生体変化(体重、体温、病理)を指標に国家検定を行ってきたが、本研究で行ったワクチンの毒性に関連した遺伝子をバイオマーカーとした新しいワクチンの安全性検出システムの構築に関する成果は、新しい品質管理のための試験法確立への応用が可能である。今後ワクチンメーカーおよび受託検査機関と共同で実用化に関する基礎研究を進め、ワクチンの安全性管理のための新しい検査法の確立を推進する。
その他のインパクト
百日せきワクチンの安全性に関するバイオマーカーの同定を行い、特許の出願を行った。特願2006-020432:「百日咳毒素の検出方法」(2006.1.30)(加藤博史、浜口功、山口一成)

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
9件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hamaguchi I, Imai J-I, Momose H et al.
Two vaccine toxicity-related genes Agp and Hpx could prove useful for pertussis vaccine safety control
Vaccine , 25 , 3355-3364  (2007)
原著論文2
Naito S, Maeyama J, Mizukami T et al.
Transcutaneous immunization by merely prolonging the duration of antigen presence on the skin of mice induces a potent antigen-specific antibody response even in the absence of an adjuvant
Vaccine , 25 , 8762-8770  (2007)
原著論文3
Mizukami T, Imai J-I, Hamaguchi I et al.
Application of complementary DNA microarray technology to influenza A/Vietnam/1194/2004 (H5N1) vaccine safety evaluation
Vaccine  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-