救急医療に関する教育の質の向上に関する研究

文献情報

文献番号
199700302A
報告書区分
総括
研究課題名
救急医療に関する教育の質の向上に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
市来嵜 潔(国立病院東京医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 有賀徹(昭和大学医学部)
  • 相馬一亥(北里大学医学部)
  • 坂本哲也(公立昭和病院)
  • 菊野隆明(国立病院東京医療センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 健康政策調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 救急医療の質の向上のためには,医師,看護婦のみならず,病院前の治療に関与する救急救命士を含めたチームの向上がなければならないことは言うまでもない。従来から医師,看護婦などの個々の教育の質の向上に関する検討はなされて来ているが,それは教育のカリキュラムをどの様にするか,どの様なスタッフが何人必要か,どの様な教材を準備すべきかなどが中心であった。
我が国における救急医療を担っている医師の多くは若手の医師達で,彼らの努力なしには救急医療が成り立っていかないのが実情である。従って彼らの教育の充実が非常に大きな意味を持ってくる。多くの施設における研修医・レジデントの救命救急センター研修は比較的短く,救急患者に対する初療の様々な手技の取得に研修の主眼がおかれている傾向がある。
しかし救急患者の治療こそ経験的に行われるのではなく,より木目細かな,理論に裏付けられた治療すなわち evidence based medicine の考え方を導入し,より理論的に行うべきであり,その診療の姿勢を身に付けさせることが研修医・レジデントの教育にとって重要であると考えた。
より理論的な診療を実践していくためには,各疾患の診断治療に関する広範囲なデータベースを作成し,診療の場面場面での検討に有効に利用できるようにすることが大切である。すなわち,データベースを作成する目的は,救急疾患の診療上の問題点の解決のためにあらゆる情報(臨床症状,検査データ,画像情報など)を自由に組み合わせ,様々な角度からデータ分析を行えるようにすることである。
従来はデータベースを作成するために,まず検討すべき項目を抽出し,チェックリストを作成し,診療録を丹念に見返して必要な項目を記入する方法が採られてきた。その際最も問題となったことは,必ずしも対象症例の診療録に必要な項目の記載がなかったり,必要な検査項目が抜けていたりすることである。これらの問題点を解消するためには,予め疾患毎のに必要な項目を可能な限り多く選択しておき,prospecive に埋めていくことが最良の方法であるが,実際の救急診療に際しては時間的な余裕が少なく非常に大変な作業である。
そこで今回は,救急医療において evidence based medicine を実践していくための基礎として,どの様な工夫をすれば情報の収集が容易になるかの検討を行った。
研究方法
 1. 一般病院において,救急患者の入院前後の情報収集をどの様にしているか,またそれをデータベース化しているかの実情を把握する。 
2. 初療チームの一員が患者情報(入院前・後の症状など)をコンピュータに直接入力するためにはどの様な工夫が必要なのかの検討を行った。 
3. 入院後の救急患者のバイタルサイン,症状,検査データ等を連続的に,正確に入力・蓄積していくためにはどの様なことが必要かを検討した。
研究結果= 1. 病院前の情報は救急隊員に対する調査用紙によって収集し,同時に救急隊員にインタビューすることで補う方法が採られていた。入院後の情報は,研修医・看護婦による情報収集が大部分であった。これらの情報を必要に応じてパーソナルコンピュータを用いてデータベース化を行っていた。 
2. A病院において,実際に救命救急センターに入室してきた患者の,現病歴・入院時現症などの情報のコンピュータ入力を研修医に義務づけて,どの様な工夫をすればより正確にデータの直積が出来るかの検討を行った。その結果,コンピュータへの情報の入力は,入力したデータがカンファレンスなどに有効に利用できる(自分にメリットがある)と言うことが分かると,個人差はあるが数週間でかなり正確に行えるようになった。しかし情報の質および量に関しては,自由に入力させると入力者によりかなりのバラツキが生じることが分かった。情報のバラツキをなくすためには,対象疾患を想定して必要項目を予めコンピュータ上にセットするなど何らかの工夫を加えなければならないことが分かった。従って,診療チームのカンファレンスなどを通じて診療方針の徹底を図ると共に,必要な情報の項目をピックアップして収集を促す方法を考える必要がある。 
3. バイタルサイン,症状,検査データ等の経時的な蓄積小尾にバイタルサインの入力は,人力に頼っている限りどうしても限界があることが分かった。従って頻繁なデータ収集が必要となる重症患者のバイタルサインの測定・記録は可能な限り自動化する工夫が必要であろう。しかし入力の自動化は,それ自体非常に大きな問題を含んでおり,自動入力されたデータの質の管理に十分配慮しなければならない。症状の入力に関しては,コンピュータ入力したものが診療録として認められると言う前提があれば,コンピュータ端末の数を適正化し,ワープロ機能を充実することにより充分実現できるものと思われる。
結果と考察
救命救急センター内でのカルテの記載を見ると,多くの部分が研修医・レジデントによってなされており,その内容は各医師によってかなりのバラツキがあることが分かった。ことに研修医のカルテ記載(現病歴・現症)内容には極めて強い個人差があった。それは研修医個人の能力という側面もあるが,研修医のおかれている状況が多忙であると言うことから,異常所見以外は記載しないという習慣になっているのではないかと思われた。もちろん,上級医のチェックが厳しく行われているところもあるが,不充分な傾向があった。また,入院後の記載が,系統的に行われていないものが多く,retrospectiveに振り返ると治療方針,治療経過が一読して明確に理解できないものが見られた。これらの傾向は一般市中病院の方が多かった。その原因としては,マンパワーの不足が考えられ,何らかの対策を立てる必要があると思われた。
入院後のバイタルサイン等の自動入力に関しては,既に実現されている機器も存在するが,自動入力されたデータの質の問題があり必ずしも直ぐに記録として採用するのには問題があると思われた。今後どの様な方法が最も良いかの検討が必要であると考える。
A病院において重症脳神経外科患者にチェック項目をプリセットし,温度・頭蓋内圧などの自動記録しながら脳低温療法を行った際の経験から,患者情報をデータベース化することは実際の診療・研修に非常に有用であると考えられた。
結論
 救急領域の臨床上穂言うのデータベース化はその実現の方法を考えると,救命救急センターのおける診療,研修の質の向上に役立つと思われた。

公開日・更新日

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