小児救急医療のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
199700301A
報告書区分
総括
研究課題名
小児救急医療のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
田中 哲郎(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 市川光太郎(北九州市立八幡病院)
  • 山田至康(六甲アイランド病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 健康政策調査研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児科当直が連日できる施設は632施設中98施設の16.1%のみで、保護者の中には現在の小児救急医療体制は不安と訴えるものもみられ、現状は必ずしも満足しえる状態でなかった。以上のことより、より良き小児救急医療のあり方を検討することを目的として実態調査および検討を行った。 
研究方法
小児救急医療の実態や考え方を明らかにするために今年度は次の5項目の調査を行った。
1)全国の急患センターの実態調査、2)病院前小児救急医療に関する調査、3)小児救急医学教育に関する調査、4)小児病院における小児救急医療に関する調査、5)小児科医の小児救急に対する現状と考え方に関する調査
結果と考察
結果=1)全国の急患センターの実態調査
初期救急医療の実態を明かにするために全国470の急患センターに対して調査を依頼し253施設(回収率53.8%)より回答を得た。
稼働状況:平日に稼働している急患センターは100施設(39.5%)のみであった。土曜日稼動は132施設(52.1%)、日曜日は243施設(96.1%)であった。
診療時間帯:深夜帯に稼働しているのは253施設中の53施設(21.0%)のみであった。
平均受診者数:小児の受診者の平均人数は平日では10人以下が77施設、30人以下が89施設、休日は20人以下が148施設、30人以下が172施設であった。
検査の実施可能の有無:髄液検査は14施設、レントゲンは81施設、血液検査は96施設、検尿は215施設で可能であった。
治療行為:輸液のみを行うと回答した施設が140施設の55.3%であった。
2)病院前小児救急医療に関する調査
病院前の小児救急医療を知る目的で、全国消防長会内救急委員会所属の救急救命士を対象に調査を依頼し、590名より回答を得た。
CPA症例の経験:小児のCPA (Cardio-pulmonary arrest)の経験の有無については、CPA経験ありが374例(63.4%)で、主な症例としては不慮の事故126例、溺死64例、窒息26例、交通外傷20例などであった。
救急車の使用が不要な症例:救急車の使用が不要と思われる症例は50%以上あるとの答えが355名(60.2%)みられた。
3)小児救急医学教育に関する調査
小児救急医学教育の現状を知る目的で全国の医学部の教育担当者に対して調査を行い、73施設より回答を得た。
卒前教育:小児救急医学の系統講義を行っている大学は35大学(50%)で、その講義時間の平均は1.5時限(1-3時限:1時限90分)、行っていない大学が35大学であった。
4)小児病院における救急医療に関する現状調査
小児病院における小児救急医療の実態を知るために全国25施設に調査を依頼し、18施設より回答が寄せられた。
地域のニーズ:地域の救急ニーズについては、ある地域が17施設、余りない地域はわずか1施設であった。
時間外救急医療の有無:時間外救急診療について、行っている施設が14施設、行っていない施設が2施設であったが、その内容は必ずしも十分とはいえなかった。
5)小児科医の小児救急に対する現状と考え方に関する調査
小児科医の小児救急勤務の現状と考え方を知る目的で日本小児学科学会員(2,500名)に対して調査を依頼し、1,316名より回答(52.6%)を得た。
その内、救急に従事している1,011名を対象とした。病院当直を行っているものが510名(従事者名中50.4%)、夜間診療所に出務しているものが349名(34.5%)、在宅輪番をしているものが251名(24.8%)、その他が198名(19.5%)であった。その内容は初期救急医療が871名(86.2%)、二次救急医療が453名(44.8%)、三次救急医療が236名(23.3%)、不明1名(0.1%)であった。
当直が体力的にきついかどうかの問に対しての回答では、常に辛いと思うものは176名(17.4%)、時々辛い588名(58.2%)で、辛いものの合計は764名(75.6%)であった。あまり感じないもの227名(22.5%)、その他12名(1.2%)であった。また、救急業務にて体調を崩した経験のあるものは471名(46.6%)、そのような経験のないものは509名(50.3%)、その他・不明31名(3.1%)であった。
小児の救急医療は誰が行うべきかについては、地域の小児科医全員587名(58.1 %)、地域の医師会名346名(34.2%)、大学医局員272名(26.9%)、若い医師184名(18.2%)、その他187(18.5%)などであった。
考察=今回の調査の結果より、急患センターは全国に多く存在しているものの、稼働時間が短く、患者数もそれ程多くなく、治療内容にも限界があるように思われた。今後の検討のポイントは、施設数が適当であるか、診療内容、対費用効果および改善するならばどのような方法があるのかなど患者のことも配慮した上で考えるべきである。小児救急において救急車の使用が不要と思われるケースは成人例共に多かった。この原因の一つとして母親の育児不安を反映しているのではないかと思われる。保護者に対して、小児の疾患について教育、啓発を積極的に行う必要がある。また、効率的な運用を図るためには有料化も検討する時期にきていると考えられた。
医学教育の中で、小児救急の系統講義の時間が少なく、充実する必要があると思われた。また、全国の小児病院は多くの地域で救急のニーズがみられることより、限られた医療資源を有効に利用する点から積極的な小児救急医療への参加が必要と考えられた。
平成13年に開設が予定される国立小児病院を引き継ぐ成育センター(仮称)には是非、救急部門を設置し、全国の小児救急医学の研究および研修の場とすべきである。誰が救急業務を行うべきかについては、地域の小児科医全員をあげるものが多く、今後このための体制作りが必要と思われた。
結論
今回の調査より以下の結論が得られた。
1.小児救急医療の運営のための組織を県または二次医療圏ごとに置く。
2.小児救急医療は地域の小児科医が協力して行うための体制の確立。
3.規模の小さな急患センターは統廃合を検討する。但し、住民の受診に要する時間等  も配慮する。
4.小児病院の小児救急医療への積極的参加を計る。
5.育児支援の一環として、保護者への小児疾患の教育・啓発の積極的な実施。
小児救急医療は多くの課題を抱えており、この問題をこのまま放置すると、体制は破綻し、社会問題化することが明かになったことより、早期に対応すべきであると考えられた。

公開日・更新日

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