マイクロアレイ技術を用いたATLのゲノムワイドな解析による新規治療標的分子の探索

文献情報

文献番号
200707026A
報告書区分
総括
研究課題名
マイクロアレイ技術を用いたATLのゲノムワイドな解析による新規治療標的分子の探索
課題番号
H18-ゲノム-一般-004
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
渡邉 俊樹(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 山口 一成(国立感染症研究所 血液・安全性研究部)
  • 小川 誠司(東京大学大学院医学系研究科21世紀COE)
  • 長谷川 秀樹(国立感染症研究所 感染病理部)
  • 澤 洋文(北海道大学・人獣共通感染症リサーチセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
37,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国の人口の1%に上る120万人のHTLV-1キャリアから毎年1000人以上の患者が発生しているATLは、化学療法に抵抗性で1年以内に大多数の患者が死亡する。従って、厚生行政の立場からも、発症リスクの予測、発症予防法の開発、有効な分子標的治療法の開発が急務である。また、先進国中唯一のHTLV-1浸淫国である我が国がこの課題に先進的役割を果たすことが国際的にも期待されている。
ATL発症機構は多段階発癌であり、ウイルスがん遺伝子Taxによる感染Tリンパ球の不死化の後、ゲノム異常の蓄積によって癌化する。本研究は、最新のアレイ解析技術を利用してATL細胞のゲノム異常および発現プロファイル解析を行い、腫瘍化に関わる分子異常の実態を解明すると共に、全ゲノム関連解析により発症に関わる遺伝的背景の解明を試みる。これらの解析を通じて、発症高危険群の同定、発症予防法および分子標的療法の開発を目指す。
研究方法
本研究は、文部科学省科学研究費による全国的なHTLV-1の疫学調査/検体バンク組織(JSPFAD: http://htlv1.org/)を背景とし、ATLマウスモデルの解析を含めて、マイクロアレイ解析技術と全ゲノム関連解析の手法で、T細胞の不死化からATLの発症への分子機構を、先天的な遺伝的背景と後天的に不死化感染細胞に生ずる遺伝的変異の両者の観点から解明する。検体バンクのATL検体のうち、急性型、慢性型、リンパ腫型の総計171症例についてゲノムコピー数解析を行った。更に、一部については発現アレイ解析を行った。一方、ATLのモデルマウスを用いたがん細胞の多臓器への浸潤のメカニズムの解明を試みた。
結果と考察
ATLの特徴的ゲノムプロファイルが確認され、増幅・欠失の標的遺伝子候補が多数同定された。これらは、成熟T細胞の機能に関与、あるいは高発現があり機能的な重要性が推測されるものであった。ゲノムコピー数と遺伝子発現の間に明確な相関が確認され、ゲノムコピー数変化が遺伝子発現異常を介してATLの発症に関与することが示唆された。マウスモデル腫瘍細胞の組織浸潤へのSDF-1α-MEK-ERK経路の関与が示された。
結論
ATL細胞のゲノムプロファイルが解明され、増幅・欠失の標的候補遺伝子が多数同定された。MEKの阻害剤がATLの治療薬の候補となる可能性が示された。最終年度には、標的候補遺伝子の変異解析、および機能的・生物学的解析を通じて、ATLの分子診断技術の確立、ならびに、新規治療法の開発に向けた標的分子の同定が期待される。

公開日・更新日

公開日
2008-04-23
更新日
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