プレホスピタル・ケアの向上に関する研究

文献情報

文献番号
199700300A
報告書区分
総括
研究課題名
プレホスピタル・ケアの向上に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
山村 秀夫(財団法人日本救急医療研究・試験財団)
研究分担者(所属機関)
  • 美濃部嶢(財団法人日本救急医療研究・試験財団)
  • 山中郁男(聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院)
  • 杉山貢(横浜市立大学医学部附属浦舟病院)
  • 石井昇(神戸大学医学部)
  • 多治見公高(帝京大学医学部附属病院)
  • 岡田和夫(帝京大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 健康政策調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
プレホスピタル・ケアの向上を図るため、救急救命士制度、ドクターカー、救急蘇生法の教育・啓蒙・普及の3つの要素についての現状の分析と問題点につき検討した。同時に欧州連合で採用されるSAMU方式の救急医療体制での利点をわが国のプレホスピタル・ケアに一部導入することにより限られた救急医療資源の有効活用を図ることの可能性を検討することを目的とする。
研究方法
救急救命士制度導入による効果と評価方法について;国内外における蘇生率、救命率、社会復帰率の推移と救急行政の変化の調査、救急救命士に対するアンケート及び神奈川、横浜地区での救命指導医による救急救命士制度導入効果に関するワーキンググループを結成し実施した。
救急救命士の活動評価については、平成9年10月から平成10年2月迄の神戸市消防局管内で救急救命士が出動した276例において、救急救命士の活動状況を時間の関係、観察、処置内容等、救急救命士が判断した病名と病態、救急救命士が現時点で行える処置以外で必要と考えられた処置及び搬送先の病院での処置内容と診断及び救急救命士の実際の処置や必要と考えられた処置に対する評価により判定した。
救急救命士制度運用上でのMedical Controlのあり方では、全国135救命救急センター長及び928消防本部から抽出した150名の救急救命士にアンケートを送付し、CPA件数、救急救命士による搬送状況及び特定行為実施率、指示の発生源、指示制度のあり方等について、医師、救急救命士の両面から調査・分析を行った。
ドクターカー運用については、平成5年4月1日から平成9年3月31日までの4年間に船橋市においてドクターカーが出動したうちの院外CPA症例986件を対象としUtstein Styleに則って国際的基準となるデータベース作成を基にその効果の検討・分析を実施した。また重症喘息に対するドクターカーの有用性、救急救命士に対する臨床実地訓練の場としての効用についても検討した。
CPCRの教育・啓蒙・普及については、平成9年に東京都教育委員会主催講習会受講者600人に対して、3回に分けてCPR講習、実習、教師と生徒とに分かれてのCPRの模擬授業、止血法をコースとした講習会の終了直後にアンケートを行い、これを一般市民のCPRの受講者での同様の調査結果と比較した。
SAMU方式の導入の可能性については、SAMUのプレホスピタル・ケアについて救急医療要請の電話受信指令センターにおける救急医療に関する特別専門教育を受けたオペレーターであるPermanencierとSAMUの指令医であるRegulator Doctorの養成法、資格、機能を資料の収集により調査した。同時にわが国での災害救急情報センター等の現状についても調査し、わが国のプレホスピタル・ケアへの本制度の一部導入の可能性と有用性について検討した。
結果と考察
救急救命士制度導入による効果と評価方法;1996年における全国のCPA症例の救急隊による搬送例72,542例中救急救命士により処置・搬送され目撃者のあった症例は約18.4%で1か月後生存例は5.0%であった。医師による特定行為の指示は大都市ではよく実施されており気道確保の指示が最も多い。救急救命士資格取得者は各年齢層とも救急医療に対する意識の向上がみられた。現段階での本制度導入による効果の評価法と基準の確立は困難であり、今後さらなる分析と特定行為以外についての評価法についての検討が必要と思われる。
救急救命士の活動評価については救急救命士による観察、機器の使い方も正確であった。病態・病名の把握もCPA症例では困難な場合があったが、CPA症例以外ではよく把握されていた。特定行為についても適切に実施され、処置内容も向上して来ており、特定行為の拡大も可能であると考えられた。
救急救命士制度運用上でのMedical Controlのあり方については、現在全国の消防本部の約4,500隊のうち僅かに30%程度しか救急救命士運用が実施されていない。この原因は救急救命士の資格取得者が少ないことも一因だが、指示体制の不備が主因と考えられる。Medical controlは特定行為だけに限らず、救急救命士の救急搬送業務全体を支える助言であるべきで、組織だった指示制度構築に努力する必要がある。
船橋市における地域救急医療システムとドクターカーの運用では、従来の院外CPA症例についての調査は搬入された医療機関中心のため地域による疫学的調査が実施されていなかったのに比較し、今回は地域住民全体を対象とした調査が可能となった。今回Utstein Styleでの国際的なデータベース作成基準による分析で、先進諸外国との間で蘇生率、社会復帰率に遜色のないことが判明した。また、重症喘息症例に対する処置や救急救命士の臨床実地訓練に有効であった。
CPRの教育・啓蒙・普及に於ける問題点とその対策で、近年一般市民へのCPR普及に中学・高校での「応急処置」の教課が大きな要因となっている。指導する立場の教員を一般市民と比較すると、背景ですでにCPRに関する知識を持ち、人形で実習した率も高く、必要な状況下では率先して誰にでも実施する意欲が高いことがわかった。今後もこの教課を充実させることが必要である。
わが国におけるSAMU型プレホスピタル・ケアの可能性の検討では、SAMUにおける緊急要請受信指令センターでの受付指令員であるPermanencierと救急指導医であるRegulator Doctorの養成法と業務について調査し、これらの業務をわが国のプレホスピタル・ケア体制の中に取り入れることにより、救急要請があれば100%救急出場する体制から、症例や病態による重症度、緊急度に対応した措置の選択を行い、限られた救急医療資源の効果的な運用を実施することが望ましい。
結論
現段階での救急救命士制度導入による効果と評価方法と基準を確定するには未だデータが不十分である。制度導入効果の判定には数値的に評価しにくい特定行為以外での評価法についても加味する必要性を認めた。
救急救命士が搬送時にその事例に対して行った処置、行為を自己採点した結果と指導医の評価を比較、検討すると症例の観察救急救命士の評価能力は救命士の経験年数に比例する傾向が認められた。
救急救命士の活動評価では、救急救命士の観察や病態把握は正確で、処置内容も向上してきており、CPA症例に対する特定行為の実施も迅速に行われている。現在の特定行為以外の処置に対する救命士の積極性もうかがわれており、近い将来に、特定行為の拡大を行うことが可能であると考えられた。救急救命士の再研修制度の義務化等を含めた改善を行うことにより、救命率の向上が得られると考えられた。
救急救命士制度運用上でのMedical Controlのあり方では特定行為だけに限らず、救急救命士の救急搬送業務全体を支える助言であるべきで、われわれ医療機関は救急救命士養成に協力する事は勿論、さらに組織だった指示制度の構築に力を入れる努力が必要である。
船橋市における地域救急医療システムとドクターカーの運用については、ドクターカー運用は院外CPAの救命に有効である。従来の院外CPAの多くが、搬入された医療機関での調査対象となっていたのに比較し、地域住民全体を対象とした疫学的調査が可能となり、その実態を把握することができた。
ドクターカーシステムは重症喘息に対するドクターカー出動により、院外の喘息死の防止に対する有力な手段がえられた。また、救急救命士の臨床実地訓練に有効であった。
CPCRの教育・啓蒙・普及について;高校の保健・体育授業に「応急処置」の単元が新設され、CPRを人形を使って教育する事になった。これを担当する教員の講習会を5年間行ってきた。これに対する評価として、授業する時の指針になること、受講者自身のCPRへの取組が高いことが一般人のそれと比較し結論できた。
SAMU方式での導入について;SAMUでのPermanencierの教育・訓練と緊急要請の受信指令センターでのPermanencierとRegulator Doctorの役割について調査した。
現段階においても、SAMU方式の利点であるこれらの機能を取り入れられる所から実施して、限られた救急医療資源の有効活用を図るべきである。

公開日・更新日

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