ゲノム医学を用いた骨粗鬆症ならびに変形性関節症疾患遺伝子の同定・機能解析とその診断・治療への応用

文献情報

文献番号
200707003A
報告書区分
総括
研究課題名
ゲノム医学を用いた骨粗鬆症ならびに変形性関節症疾患遺伝子の同定・機能解析とその診断・治療への応用
課題番号
H17-ゲノム-一般-003
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
井上 聡(東京大学医学部附属病院 抗加齢医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤 茂明(東京大学分子細胞生物学研究所 核内情報研究分野)
  • 堺 隆一(国立がんセンター研究所 細胞増殖因子研究部)
  • 津久井 通(埼玉医科大学医学部ゲノム医学研究センター 実験動物施設)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
43,223,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
骨粗鬆症(OP)・変形性関節症(OA)は、腰背痛や骨折、運動障害等を伴い特に高齢者の健康を損なう症候群である。本研究は、独自の方法とゲノム医学の手法を活用し、骨と軟骨における遺伝子情報制御分子とその共役因子、標的因子群を網羅的に同定解析し、遺伝子改変動物とヒト遺伝学を用いて、生物個体レベルでそれらの分子機能と、骨関節疾患遺伝子としての意義を明らかにし、新しい診断、治療法への応用を計ることを目的とする。
研究方法
1)IGF1Rシグナル経路に関わる遺伝子のSNPとOPの関連を調べた。2)5万SNPを対象としたゲノムワイドスキャンによりOP・OA関連の疾患遺伝子を探索し、第二集団で検証した。3)骨芽細胞系におけるビタミンKのリン酸化を介する新しい作用を探索した。4)骨芽細胞系におけるステロイド標的遺伝子を解析した。5)破骨細胞におけるエストロゲン受容体(ER)の高次機能の解析を行った。6)骨軟骨におけるリン酸化蛋白質の解析を行った。7)ERに関連して軟骨細胞特異的遺伝子改変動物(cTg)の作製と解析を行った。
結果と考察
1)IGF1Rのイントロン1に存在するSNPがOAの指標と相関し、疾患遺伝子としての役割が注目された。2)全ゲノム解析によりOPと肥満に関して特にP値の低い有望な候補疾患遺伝子が得られ、第二集団で検証された。3)ビタミンK2がPKAのリン酸化を介し働く第3のシグナル伝達経路を解明した。4)骨芽細胞においてステロイド標的部位の受容体間での共通性と特異性を示した。5)破骨細胞におけるERの個体レベルでの新しい役割とその標的遺伝子FasL経路を解明した。6)骨でのリン酸化を介する新しいシグナル伝達経路と、新規メカニカルストレスセンサーを明らかにした。7)ERのcTgマウスを作製し骨軟骨の異常を認め、OA疾患モデルと治療薬の評価に有用と考えられた。
結論
本研究により、GDF15、PGCをはじめとする骨関節疾患遺伝子ならびに新しい治療標的分子とその役割を明らかにし、新しい疾患モデル動物を作製解析した。IGF1R等の骨量もしくは骨変形の指標、ならびに肥満に相関する新規遺伝子のSNPを複数同定し、遺伝子診断・テーラーメード医療への応用が期待され、ゲノム医学を用いた研究を推進した。

公開日・更新日

公開日
2008-04-10
更新日
-

文献情報

文献番号
200707003B
報告書区分
総合
研究課題名
ゲノム医学を用いた骨粗鬆症ならびに変形性関節症疾患遺伝子の同定・機能解析とその診断・治療への応用
課題番号
H17-ゲノム-一般-003
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
井上 聡(東京大学医学部附属病院 抗加齢医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤 茂明(東京大学分子細胞生物学研究所 遺伝子情報研究分野)
  • 堺 隆一(国立がんセンター研究所 細胞増殖因子研究部)
  • 津久井 通(埼玉医科大学医学部ゲノム医学研究センター 実験動物施設)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
骨粗鬆症(OP)・変形性関節症(OA)は、腰背痛や骨折、運動障害等を伴い特に高齢者の健康を損なう。本研究は、独自の方法とゲノム医学の手法を活用し、骨と軟骨における遺伝子情報制御分子とその共役因子、標的因子群を網羅的に同定解析し、遺伝子改変動物とヒト遺伝学を用いて、生物個体レベルでそれらの分子機能と、骨関節疾患遺伝子としての意義を明らかにし、新しい診断、治療法への応用を計ることを目的とする。
研究方法
1)NR1IサブファミリーとOPの関連を調べた。2)Wnt-LRP5経路とOP・OAとの関連を調べた。3)IGFシグナル経路のSNPとOAとの関連を調べた。4)全ゲノム5万SNPの解析を行った。5)骨芽細胞における新しいビタミンK応答遺伝子を探った。6)骨芽細胞におけるステロイド応答遺伝子の解析を行った。7)破骨細胞におけるエストロゲン受容体(ER)の高次機能の解析を行った。8)骨軟骨におけるリン酸化蛋白質の解析を行った。9)ビタミンK、ERに関連して組織特異的遺伝子改変動物(cTg)の作製と解析を行った。
結果と考察
1)SXR、CARのSNPがOPと相関した。2) LRP5、Wnt10B、WISP1のSNPとOP・OAの指標が相関した。3)IGF1RのSNPがOAの指標と相関し、疾患遺伝子として注目された。4)全ゲノム解析によりOPと肥満に関して特にP値の低い有望な候補疾患遺伝子が得られ、第二集団で検証された。5)骨芽細胞におけるSXR の新規標的TSKがビタミンKのコラーゲン蓄積作用を担うことを発見し、骨治療薬の作用点として注目され、またPKAリン酸化を介する新しいビタミンK作用シグナル経路を明らかにした。6)骨芽細胞で、新しいステロイド標的部位・遺伝子を同定した。7)破骨細胞でのエストロゲン受容体の新しい役割とシグナル経路を解明した。8)新規メカニカルストレスセンサーとリン酸化シグナルを明らかにした。9)ERとビタミンK関連cTgマウスを開発し骨軟骨の異常を認め、疾患モデルと治療薬の評価に有用と考えられた。
結論
本研究により、TSKをはじめとする骨関節疾患遺伝子、新しい治療標的分子とその役割を明らかにし、疾患モデル動物を開発した。IGF1R、WISP1等のOP・OA・肥満に相関する遺伝子のSNPを複数同定し、遺伝子診断・テーラーメード医療への応用が期待され、ゲノム医学を用いた研究を推進した。

公開日・更新日

公開日
2008-04-10
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2008-11-17
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200707003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は、骨粗鬆症、変形性関節症の疾患遺伝子とその分子機能をゲノム医学を応用して解明することを目的とする。本研究事業により、これら疾患に関連するSNPを、LRP5、IGF1Rをはじめとする複数の遺伝子に同定し、疾患遺伝子としての役割を解析した。骨代謝に深く関わるエストロゲン、ビタミンKで新規作用経路を明らかにした。特にビタミンKの核内ステロイドX受容体(SXR)を介する分子作用機構の解明は国内外の注目を浴び、J Biol Chemの表紙を飾るとともに、朝日新聞等で取り上げられた。
臨床的観点からの成果
骨粗鬆症、変形性関節症の診断・治療は未だ確立されておらず、本研究は、それら疾患遺伝子の同定と機能解明から、新しい診断・治療法へ役立てることを目的とする。研究成果として候補遺伝子ならびにゲノムワイドスキャンでそれら疾患の診断に有望な複数のSNPを明らかにし、テーラーメード医療への応用が期待された。骨治療薬であるエストロゲン、ビタミンKにおいて新規作用機構を解明し、治療の分子標的として注目された。特にビタミンKがコラーゲンを増やし、納豆や治療薬が有効なことは、毎日、朝日、読売新聞等で取り上げられた。
ガイドライン等の開発
ガイドラインの開発は行っていない。
その他行政的観点からの成果
高齢社会の進展とともに、1,000万人にも及ぶ罹患者をもつ骨粗鬆症、ならびに700万人以上といわれる変形性関節症に対する対策が急務となっている。これらの疾患は加齢にともなう骨量の減少、もしくは骨格系の変形・変性が病的に亢進し腰背痛や骨折、運動障害、寝たきりをひきおこす症候群で、特に高齢者の生活の質を低下させ、厚生労働行政上の課題となっている。本研究は、これら疾患にテーラーメード医療を導入するための基礎的研究として行われ、知的財産権の確保にも力を注いでいる。
その他のインパクト
本研究における、5万SNPゲノムワイドスキャンの成果により、複数のP値の低いSNPと骨粗鬆症、変形性関節症、関連疾患との有意な関連を遺伝学的に明らかにし、関連した特許を二件出願中であり、知的財産権の確保からテーラーメード医療への応用に向け道筋を開いた。第9回日本骨粗鬆症学会において「骨関節疾患の遺伝学」というシンポジウムや市民公開講座の企画に参画し、骨粗鬆症のゲノム医学に関連する内容を討議し、学会よりテーラーメード医療への応用を啓発した。また上記のように各紙新聞記事でも取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
114件
その他論文(和文)
25件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
144件
学会発表(国際学会等)
58件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
4件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Urano, T., Shiraki, M., Inoue, S., et al.
Association of a single nucleotide polymorphism in the lipoxygenase ALOX15 5'-flanking region (-5229G/A) with bone mineral density.
J Bone Miner Metab , 23 , 226-230  (2005)
原著論文2
Ogushi, T., Takahashi, S., Inoue, S., et al.
Estrogen receptor-binding fragment-associated antigen 9 is a tumor-promoting and prognostic factor for renal cell carcinoma
Cancer Res , 65 , 3700-3706  (2005)
原著論文3
Suzuki, T., Urano, T., Inoue, S., et al.
Estrogen-responsive finger protein as a new potential biomarker for breast cancer.
Clin Cancer Res , 11 , 1648-1654  (2005)
原著論文4
Asaoka, K., Ikeda, K., Inoue, S., et al.
A retrovirus restriction factor TRIM5 is transcriptionally regulated by interferons.
Biochem Biophys Res Commun , 338 , 1950-1956  (2005)
原著論文5
Horie-Inoue, K., Takayama, K., Inoue, S., et al.
Identification of novel steroid target genes through the combination of bioinformatics and functional analysis of hormone response elements.
Biochem Biophys Res Commun , 339 , 99-106  (2006)
原著論文6
Urata, Y., Inoue, S., Kondo, T., et al.
17-beta-Estradiol protects against oxidative stress-induced cell death through the glutathione/glutaredoxin- dependent redox regulation of Akt in myocardiac H9c2 cell.
J Biol Chem , 281 , 13092-13102  (2006)
原著論文7
Nakasato, N., Ikeda, K., Inoue, S., et al.
A ubiquitin E3 ligase Efp is up- regulated by interferons and conjugated with ISG15.
Biochem Biophys Res Commun , 351 , 540-546  (2006)
原著論文8
Ichikawa, T., Horie-Inoue, K., Inoue, S., et al.
Steroid and xenobiotic receptor SXR mediates vitamin K2-activated transcription of extracellular matrix-related genes and collagen accumulation in osteoblastic cells.
J Biol Chem , 281 , 16927-16934  (2006)
原著論文9
Ichikawa, T., Horie-Inoue, K., Inoue, S., et al.
Vitamin K2 induces phosphorylation of protein kinase A and expression of novel target genes in osteoblastic cells.
J Mol Endocrinol , 39 , 239-247  (2007)
原著論文10
Urano, T., Shiraki, M., Inoue, S., et al.
Q89R polymorphism in the LDL receptor- related protein 5 gene is associated with spinal osteoarthritis in postmenopausal Japanese women.
Spine , 32 , 25-29  (2007)
原著論文11
Urano, T., Narusawa, K., Inoue, S., et al.
Association of a single nucleotide polymorphism in the WISP1 gene with spinal osteoarthritis in postmenopausal Japanese women.
J Bone Miner Metab , 25 , 253-258  (2007)
原著論文12
Ezura, Y., Inoue, S., Emi, M., et al.
Association of a single-nucleotide variation (A1330V) in the low-density lipoprotein receptor-related protein 5 gene (LRP5) with bone mineral density in adult Japanese women.
Bone , 40 , 997-1005  (2007)
原著論文13
Usui, T., Urano, T., Inoue, S., et al.
Association of a single nucleotide polymorphism in Wnt10b gene with bone mineral density.
Geriatric Gerontol Int , 7 , 48-53  (2007)
原著論文14
Kinoshita, H., Nakagawa, K., Inoue, S., et al.
A functional single nucleotide polymorphism in the vitamin-K- dependent gamma-glutamyl carboxylase gene (Arg325Glu) is associated with bone mineral density in elderly Japanese women.
Bone , 40 , 451-456  (2007)
原著論文15
Takayama, K., Kaneshiro, K., Inoue, S., et al.
Identification of novel androgen response genes in prostate cancer cells by coupling chromatin immunoprecipitation and genomic microarray analysis.
Oncogene , 26 , 4453-4463  (2007)
原著論文16
Ijichi, N., Ikeda, K., Inoue, S., et al.
Estrogen-related receptor  modulates the expression of adipogenesis-related genes during adipocyte differentiation.
Biochem Biophys Res Commun , 358 , 813-818  (2007)
原著論文17
Kumagai, J., Fujimura, T., Inoue, S., et al.
Cytochrome P450 2B6 is a growth-inhibitory and prognostic factor for prostate cancer.
Prostate , 67 , 1029-1037  (2007)
原著論文18
Urano, T., Shiraki, M., Inoue, S., et al.
Association of a single nucleotide polymorphism in the steroid and xenobitic receptor (SXR) gene (IVS1-579A/G) with bone mineral density.
Geriatric Gerontol Int , 7 , 104-109  (2007)
原著論文19
Horie-Inoue, K., Inoue, S.
Steroid and zenobiotic receptor mediates a novel vitamin K2 signaling pathway in osteoblastic cells.
J Bone Miner Metab , 26 , 9-12  (2008)
原著論文20
Urano, T., Narusawa, K., Inoue, S., et al.
Association of a single nucleotide polymorphism in the insulin-like growth factor-1 receptor gene with spinal osteoarthritis in postmenopausal Japanese women.
Spine  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-