遺伝性脊髄小脳変性症(16q-ADCAIII)の分子病態解明

文献情報

文献番号
200707002A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝性脊髄小脳変性症(16q-ADCAIII)の分子病態解明
課題番号
H17-ゲノム-一般-002
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
石川 欽也(東京医科歯科大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 水澤 英洋(東京医科歯科大学大学院脳神経病態学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
20,924,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は、本邦に存在する原因不明の遺伝性脊髄小脳変性症の中で、最も頻度が高いと考えられる第16番染色体長腕に連鎖する常染色体優性遺伝性皮質性小脳萎縮症(16q-ADCAIII)の原因遺伝子を同定する研究を行った。平成19年度はその最終年度である。
研究方法
昨年度までに我々は、16q-ADCAIII の64家系を集積し、ヒト第16番染色体長腕16q22.1に存在する“puratrophin-1” (DKFZP434I216)の、翻訳開始直前16塩基の位置にあるシトシン(C)がチミン(T)に置換している変化(-16C>T puratrophin-1)がほとんどの症例で特異的に認められ、この遺伝子変化と多型性DNAマーカーGGAA05に挟まれる約900kbのゲノム領域に真の遺伝子変異が存在する可能性が高いことを突き止めた。最終年度はこの領域について、BAC cloneの連続による完全なcontigを構築し、「ショットガン」シークエンシングを行い、患者特有の遺伝子変化を網羅的に解明した。
結果と考察
その結果、ある新しい遺伝子「A」を見出した。この遺伝子について、脳内での遺伝子発現を確認し、患者脳内での遺伝子・蛋白発現の変化などを解析し、最終的にこの遺伝子変化が原因であることを見出し研究を終了できた。
結論
対象疾患である16q-ADCAIII の原因同定に成功した。

公開日・更新日

公開日
2008-06-25
更新日
-

文献情報

文献番号
200707002B
報告書区分
総合
研究課題名
遺伝性脊髄小脳変性症(16q-ADCAIII)の分子病態解明
課題番号
H17-ゲノム-一般-002
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
石川 欽也(東京医科歯科大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 水澤英洋(東京医科歯科大学 大学院 脳神経病態学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は、本邦に存在する原因不明の遺伝性脊髄小脳変性症の中では最も頻度が高いと考えられる、第16番染色体長腕に連鎖する常染色体優性遺伝性皮質性小脳萎縮症(16q-ADCAIII)の原因遺伝子を同定する研究を行った。
研究方法
家系の集積とともに、候補領域をハプロタイプ解析、遺伝子変異解析を進めた。遺伝子産物の解析はRNAレベルのRT-PCRや定量的RT-PCR、ノーザン解析、in situ hybridization法などを駆使して進め、蛋白レベルでは特異抗体の作製からウエスタンブロット、免疫組織化学などを行った。
結果と考察
平成17年度には、16q-ADCAIII の52家系を全国から集積し、その患者全員に共通するハプロタイプを示す領域に存在する21個の遺伝子について変異を探索したところ、構造・機能とも詳細が不明の遺伝子(DKFZP434I216)の、翻訳開始直前16塩基の位置にあるシトシン(C)がチミン(T)に、患者で特異的に置換していることを見出した(Am J Hum Genet 77: 380-396, 2005)。我々はこの遺伝子の構造や発現部位を解明し、新しく“puratrophin-1”と命名した。この遺伝子変化を有する家系は検索した全ての地方に分布し、頻度は本邦の優性遺伝性脊髄小脳変性症の15~20%を占めるほど高頻度であった。しかし公表後にこの遺伝子変化を有さず、ごく軽い運動失調を示す患者を1名見出したため、この領域付近に存在する別の遺伝子に真の変異がある可能性が出現した。このため、研究開始当初の予定を変更し、家系を増やす努力を続け候補領域を再度設定し直すこととした。その結果、マイクロサテライトマーカーの不安定性を示すマーカーが多数存在することが判明し、puratrophin-1遺伝子変化から動原体側900kbの領域が患者でハプロタイプが共通する真の領域であることが判明した(J Hum Genet 52: 643-649, 2007)。この領域について、平成18年度初頭からゲノム解析を行ったところ、患者に特有の遺伝子変化を複数認めた。また、患者の第16番染色体長腕16q22.1領域を人工染色体BAC cloneにクローニングし、contigの構築を目指して平成19年度に完成した。次にこのBAC contigのクローンについてショットガン・シークエンシングを行い、患者特有の遺伝子変化を網羅的に解明した。これらの検索の結果、ある新しい遺伝子「A」が原因遺伝子であることを見出し、本研究を終了できた。
結論
16q-ADCAIII の原因を最終的に同定できた。

公開日・更新日

公開日
2008-06-20
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200707002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究の成果は、人類遺伝学的観点から創始者効果が非常に強い疾患の原因を同定したという点で高く評価できる。創始者効果が強い場合、当該染色体領域内に存在する遺伝子変化は全て変異(すなわち、原因)の候補であるため、同定が困難である。本研究では、家系を多数集積し候補領域を出来る限り限定化した上、候補領域の全ゲノム塩基配列を解読し同定に至った。この研究手法は今後、様々な疾患の原因探索に応用されると期待できる。
臨床的観点からの成果
本邦に存在する原因不明の脊髄小脳変性症の半数以上を占め、全遺伝性脊髄小脳変性症の中でも第3位ほどの高頻度の疾患の原因を同定したという点で、成果を高く評価できる。この原因同定により、恩恵を受ける国民が、発症率から類推すると人口10万人中1?2人居ると推定できる。原因解明によって今後は根本的治療法開発に確実に繋がる基盤が出来たと評価できる。また、難聴や糖尿病など、本疾患に高率に合併すると言われる疾患の原因・病態解明にも重要であると考えられる。
ガイドライン等の開発
原因同定が公表されれば、脊髄小脳変性症の遺伝子診断に用いられる。また、本研究を通じて、本疾患の臨床的概念や神経病理学的特徴を確立してきたため、今回の原因同定によって疾患概念の確立を完成したことになり、その内容は教科書やガイドラインの作成の基準としても用いられると言える。米国の国立衛生研究所(NIH)系オンライン疾患データベース、OMIM(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez?db=OMIM)にも本成果が登録された(#117210)。
その他行政的観点からの成果
本疾患は厚生労働省が定める特定疾患「脊髄小脳変性症」に認定されている病型のひとつである。現在、該当する患者さんは、「7.その他 (1.純粋小脳失調型)」に該当するが、将来本研究の成果によって、従来からの箇所から分離し「16番染色体型」として新しく表記されると考えられる。原因同定によって、診断技術が飛躍的に向上し、医療経済的な効果が齎される。また将来の根本的治療法普及が実現される基礎になる成果と考えられる。
その他のインパクト
日本経済新聞社掲載(全国版2006年1月16日科学面21ページ)や、2007年2月開催シンポジウム(Tokyo Medical and Dental University 21st Century COE Program, The 3rd International Symposium: “The cerebellum – from Molecules to Pathogeneses”.)でも公開された。原因同定が公表されれば再度行う予定である。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
14件
その他論文(和文)
34件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
29件
学会発表(国際学会等)
11件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ishikawa K., Toru S., Tsunemi T., et al.
An autosomal dominant cerebellar ataxia linked to chromosome 16q22.1 is associated with a single-nucleotide substitution in the 5’ untranslated region of the gene encoding a protein with spectrin repeat and Rho GEF domains.
American Journal of Human Genetics , 77 (2) , 280-296  (2005)
原著論文2
Owada K., Ishikawa K., Toru S., et al.
A clinical, genetic, and neuropathologic study in a family with 16q-linked ADCA type III.
Neurology , 65 (4) , 629-632  (2005)
原著論文3
Ishikawa K., Mizusawa H.
On an autosomal dominant cerebellar ataxia (ADCA) other than polyglutamine diseases, with special reference to chromosome 16q22.1-linked ADCA.
Neuropathology , 26 (4) , 352-360  (2006)
原著論文4
Ouyang Y., Sakoe K., Shimazaki H., et al.
16q-linked autosomal dominant cerebellar ataxia: a clinical and genetic study.
Journal of the Neurological Sciences , 247 (2) , 180-186  (2006)
原著論文5
Ohata T., Yoshida K., Sakai H., et al.
A -16C>T substitution in the 5’-UTR of the puratrophin-1 gene is prevalent in autosomal dominant cerebellar ataxia in Nagano.
Journal of Human Genetics , 51 (5) , 461-466  (2006)
原著論文6
Amino T, Ishikawa K, Toru S, et al.
Redefining the disease locus of 16q22.1-linked autosomal dominant cerebellar ataxia.
Journal of Human Genetics , 52 (8) , 643-649  (2007)
原著論文7
Lin JX, Ishikawa K, Sakamoto M, et al.
Direct and accurate measurement of CAG repeat configuration in the ataxin-1 (ATXN-1) gene by “dual-fluorescence labeled PCR-restriction fragment length analysis”.
Journal of Human Genetics , 53 (4) , 287-295  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-