アトピー性疾患の疾患感受性遺伝子同定に関する研究

文献情報

文献番号
200707001A
報告書区分
総括
研究課題名
アトピー性疾患の疾患感受性遺伝子同定に関する研究
課題番号
H17-ゲノム-一般-001
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
有波 忠雄(筑波大学 人間総合科学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 野口恵美子(筑波大学大学院人間総合研究科社会環境医学専攻遺伝医学分野)
  • 玉利真由美(理化学研究所アレルギー体質関連遺伝子研究チーム)
  • 藤枝重治(福井大学医学部感覚運動医学講座・耳鼻咽喉科頭頸部外科学)
  • 内田和彦(筑波大学人間総合科学研究科生化学分野)
  • 斎藤 博久(国立成育医療センター研究所免疫アレルギー研究部)
  • 鈴木洋一(千葉大学大学院医学研究院環境医学講座公衆衛生学)
  • 大塚藤男(筑波大学人間総合科学研究科皮膚病態医学分野)
  • 柴崎正修(群馬大学小児生態防御学)
  • 荒川浩一(群馬大学小児生態防御学)
  • 前仲 勝実(九州大学生体防御医学研究所ワクチン開発構造生物学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
24,480,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アトピー性疾患は罹患者も多く、その病態の解明と治療法の開発は医療および経済的に急務の課題である。本研究ではアトピー性皮膚炎と花粉症の日本人の患者家系および症例対照サンプルを用いて、全ゲノム網羅的解析により疾患感受性遺伝子を同定することを目的とした。
研究方法
日本人アトピー性皮膚炎全ゲノム解析連鎖領域のデンスマッピングにより疾患発症と関連するSNPsを検出する。花粉症については症例対照サンプルを使用して全ゲノム関連解析を行い、得られた結果に対して独立したサンプルを使用して追認を行う。さらに疾患特異的な組織を用いた網羅的発現解析を加え疾患発症のパスウェイを同定する。
結果と考察
アトピー性皮膚炎: 15番染色体連鎖領域内のSMAD3遺伝子内のSNPとアトピー性皮膚炎との関連が家系、症例対照研究ともに認められた。また1番染色体連鎖領域近傍の有力候補遺伝子であるフィラグリンの機能喪失型変異とアトピー性皮膚炎発症との関連を確認した。特にフィラグリンの機能喪失型変異は、他にアトピー性疾患を合併しない皮膚炎のみの群で特に発症リスクが高まることを見出した
花粉症:スギ花粉症患者を対象にした全ゲノム関連解析により遺伝子Xとスギ花粉症との関連が認められた(P<0.001)。この遺伝子は補体関連遺伝子であり、さらにウイルスレセプターとしても機能していることが知られている。 タンパク質遺伝子発現解析については舌下免疫療法特異的タンパク質のうちの一つがヒト好塩基球におけるヒスタミン遊離抑制作用があることを確認した。末梢血単核球における網羅的遺伝子発現解析では、花粉暴露により変動する遺伝子群および舌下免疫療法関連遺伝子を同定した。特に花粉飛散時にスギ花粉症患者7割程度で著増・著減している遺伝子群を同定しており、花粉症患者において免疫反応の異なる群が存在することが示唆された。
結論
アトピー性皮膚炎についてはSNPによる全ゲノム連鎖解析により1番および15番染色体に連鎖領域を見いだし、15番染色体連鎖領域のSMAD3遺伝子とアトピー性皮膚炎との関連を同定した。  
スギ花粉症については全ゲノム解析により、補体関連遺伝子が花粉症発症と関連していることが見出された。また、花粉暴露および舌下免疫療法関連遺伝子・タンパク質を同定し、舌下免疫療法関連タンパク質の一つはヒスタミン遊離抑制機能があることが証明された。

公開日・更新日

公開日
2008-04-10
更新日
-

文献情報

文献番号
200707001B
報告書区分
総合
研究課題名
アトピー性疾患の疾患感受性遺伝子同定に関する研究
課題番号
H17-ゲノム-一般-001
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
有波 忠雄(筑波大学 人間総合科学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 野口恵美子(筑波大学 人間総合科学研究科)
  • 玉利真由美(理化学研究所 アレルギー体質関連遺伝子研究チーム)
  • 藤枝重治(福井大学医学部感覚運動医学講座・耳鼻咽喉科頭頸部外科学)
  • 内田和彦(筑波大学 人間総合科学研究科生化学分野)
  • 斎藤博久(国立成育医療センター研究所 免疫アレルギー研究部)
  • 鈴木洋一(千葉大学 大学院医学研究院環境医学講座公衆衛生学)
  • 大塚藤男(筑波大学 人間総合科学研究科皮膚病態医学分野)
  • 柴崎正修(筑波技術大学 小児科)
  • 荒川浩一(群馬大学 小児生態防御学)
  • 前仲勝実(九州大学 生体防御医学研究所ワクチン開発構造生物学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ゲノム解析により日本人アトピー性皮膚炎および花粉症発症に関与する遺伝子を同定することを目的とする。
研究方法
日本人アトピー性皮膚炎患者家系を用いて全ゲノム連鎖解析を行い、さらに連鎖領域のデンスマッピングにより疾患発症と関連するSNPsを検出する。花粉症については症例対照サンプルを使用して全ゲノム関連解析を行い、得られた結果に対して独立したサンプルを使用して追認を行う。さらに疾患特異的な組織を用いた網羅的発現解析を加え疾患発症のパスウェイを同定する。
結果と考察
アトピー性皮膚炎: 77家系111罹患同胞対287人の全ゲノム連鎖解析が終了し、1番および15番染色体に連鎖領域を見いだした。連鎖領域のデンスマッピングを111家系384人, さらに症例対照研究による三次解析を行い15番染色体連鎖領域のSMAD3遺伝子に存在するSNPとアトピー性皮膚炎との関連を見出した。 また1番染色体連鎖領域近傍の有力候補遺伝子であるフィラグリンの機能喪失型変異とアトピー性皮膚炎発症との関連を確認した。
花粉症:スギ花粉症患者を対象にした全ゲノム関連解析により遺伝子Xとスギ花粉症との関連が認められた(P<0.001)。この遺伝子は補体関連遺伝子であり、さらにウイルスレセプターとしても機能していることが知られている。 タンパク質遺伝子発現解析については血漿プロテオームにおいて花粉症暴露により変動する4タンパク質、舌下免疫療法により変動する2タンパク質を同定し、そのうちの一つについてはヒト好塩基球におけるヒスタミン遊離抑制作用があることを確認した。末梢血単核球における網羅的遺伝子発現解析では、花粉暴露により変動する遺伝子群および舌下免疫療法関連遺伝子を同定した。特に花粉飛散時にスギ花粉症患者7割程度で著増・著減している遺伝子群を同定しており、花粉症患者において免疫反応の異なる群が存在することが示唆された。
結論
アトピー性皮膚炎についてはSNPによる全ゲノム連鎖解析により1番および15番染色体に連鎖領域を見いだし、15番染色体連鎖領域のSMAD3遺伝子とアトピー性皮膚炎との関連を同定した。  
スギ花粉症については全ゲノム解析により、補体関連遺伝子が花粉症発症と関連していることが見出された。また、花粉暴露および舌下免疫療法関連遺伝子・タンパク質を同定し、舌下免疫療法関連タンパク質の一つはヒスタミン遊離抑制機能があることが証明された。

公開日・更新日

公開日
2008-04-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200707001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
アトピー性皮膚炎の全ゲノム連鎖解析は本研究がアジア人として初となる。さらに連鎖領域から疾患感受性遺伝子としてSMAD3遺伝子を同定した(論文投稿準備中)が、アトピー性皮膚炎ではこれまで全ゲノム連鎖解析から疾患感受性遺伝子を同定したとの報告はない。花粉症について全ゲノム関連解析から補体関連遺伝子を疾患感受性遺伝子として同定した。花粉症の全ゲノム関連解析は本研究が世界で初となる。また、本研究ではプロテオーム解析からも治療有効物質を同定したが、これもこれまで報告はない。
臨床的観点からの成果
アトピー性皮膚炎において関連が確認されたフィラグリン遺伝子については、機能喪失型変異が重要で日本人においてもsubmajor geneとしてアトピー性皮膚炎の易罹病性に大きく関わっていることを確認した。フィラグリンの機能喪失変異を有する個人の疾患発症リスクは有さない個人と比較すると2から5倍程度である。
花粉症患者の一部において花粉飛散時に共通して大きく変動する遺伝子群が同定されている。またプロテオーム解析からヒスタミン遊離抑制物質を同定しており、有力な花粉症治療薬候補と考えられる。
ガイドライン等の開発
ガイドラインの開発には現時点では直接関与していない。今後、フィラグリンの機能喪失変異を有する児に対して治療介入試験を計画しており、もし治療効果が認められればガイドライン等で反映されることが十分期待される。
その他行政的観点からの成果
行政施策に反映されたものは現時点ではない。
その他のインパクト
舌下免疫療法関連タンパク質に関する研究がMedical Tribune誌に掲載された。
特許出願を行った(アレルギー疾患の治療薬且つ治療効果のマーカー、特願2008-053768)

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
59件
その他論文(和文)
40件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
65件
学会発表(国際学会等)
8件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Enomoto H, Arinami T, Noguchi E et al
Filaggrin null mutations are associated with atopic dermatitis and elevated levels of IgE in the Japanese population, family and case-control study
J Hum Genet  (2008)
原著論文2
Enomoto H, Noguchi E, Arinami T
Single nucleotide polymorphism-based genome-wide linkage analysis in Japanese atopic dermatitis families
BMC Dermatol , 7  (2007)
原著論文3
Sugiyama M, Arakawa H, Ozawa K et al
Early-life risk factors for occurrence of atopic dermatitis during the first year.
Pediatrics , 119 , 716-723  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-