間葉系幹細胞に由来するヒト肝細胞の移植に関する基盤開発研究

文献情報

文献番号
200706016A
報告書区分
総括
研究課題名
間葉系幹細胞に由来するヒト肝細胞の移植に関する基盤開発研究
課題番号
H17-再生-一般-018
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
落谷 孝広(国立がんセンター研究所 がん転移研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 畑田 出穂(群馬大学 生体調節研究所 生体情報ゲノムリソースセンター 准教授)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療等研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
9,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 がん患者のヒト脂肪組織に由来する間葉系幹細胞,およびそれから分化誘導した肝細胞様細胞の機能評価と動物への移植による急性および長期観察による安全性試験,さらには肝疾患モデル動物への移植による肝機能修復機能を評価することで,間葉系幹細胞による肝再生医療の有用性を検討する。
研究方法
 平成19年度(最終年度)は安全性に関して,未分化および分化誘導したヒト肝細胞の正常マウス肝臓への移植や皮下への移植をすでに行ったマウス群に関して、長期観察による(1-2年)造腫瘍性の有無を検討した。各群20匹のマウスは、移植後すでに2年以上を経過しており,造腫瘍性や長期の毒性の出現を、組織レベル,血液の生化学的レベル、動物の行動等の観点から、その安全性に関する判定を行う。さらに分化した肝細胞の網羅的遺伝子発現解析やメチル化解析を評価し、解析を実施する。
結果と考察
 未分化及び肝細胞様に分化誘導した間葉系幹細胞のマウスへの移植は,急性,慢性の毒性や,造腫瘍などの副作用は認められなかった。さらに、生化学的,解剖学的、組織学的な検査によっても,明らかな毒性や,障害,炎症像等は認められなかったことから、ヒト脂肪組織に由来する間葉系幹細胞の安全性が動物個体レベルで明らかとなった。さらに肝細胞様細胞への分化は,多くの肝特異的遺伝子の発現誘導の他に,TWIST等の遺伝子のメチル化を伴うことから、上皮-間葉への分化転換を介することを明らかにした。
結論
 本研究の最重要課題である,移植細胞としての適合性の問題に関して,まずSCIDマウスへの細胞移植により、この細胞は宿主の肝臓組織へ問題なく組み込まれることが判明し、移植細胞として有用であることが推測でき、また移植されたマウスは重篤な副作用の発症や移植細胞による腫瘍化は観察されず,その安全性も証明した。またゲノムDNAメチル化の網羅的解析法であるMIAMI法による解析からTWISTなどの遺伝子のメチル化による上皮-間葉転換が間葉系幹細胞からの肝細胞分化の原因となっていることが示唆された。さらに、将来の肝疾患に対する再生医療実現に向けて,本研究の成果は有用であり,分化誘導した肝細胞はもちろん,ヒト間葉系幹細胞そのものに肝疾患治癒能力を見いだした点は,今後の応用研究に重要な知見である。

公開日・更新日

公開日
2008-04-11
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2008-11-17
更新日
-

文献情報

文献番号
200706016B
報告書区分
総合
研究課題名
間葉系幹細胞に由来するヒト肝細胞の移植に関する基盤開発研究
課題番号
H17-再生-一般-018
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
落谷 孝広(国立がんセンター研究所 がん転移研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 畑田 出穂(群馬大学 生体調節研究所 生体情報ゲノムリソースセンター 准教授)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療等研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 末期の肝不全に陥った患者を救う唯一の方法は肝移植であるが、慢性のドナー不足や高いコストなどの問題から、肝移植に代わる新たな治療法の開発が急務である。本研究の目的は、脂肪組織に由来するヒト間葉系幹細胞そのもの,あるいはそれから分化誘導したヒト肝細胞様細胞の再生医療への応用を目指して、この幹細胞の肝細胞としての能力と安全性をin vitroでの培養実験や、実験動物モデルにおける安全性などの観点から徹底的に検討することに重点を置く。
研究方法
 未分化な間葉系幹細胞や分化誘導したヒト肝細胞様細胞の正常SCIDマウス肝臓への移植や皮下への移植(5x106細胞を移植)を行ったマウス群に関して、長期観察による(1-2年)造腫瘍性の有無を検討した。各群20匹のマウスは、移植後2年近くまで観察し,解剖所見を整え,造腫瘍性の有無の安全性に関する判定を行った。さらに分化誘導した肝細胞様細胞の網羅的遺伝子発現解析やメチル化解析を実施した。
結果と考察
 間葉系幹細胞,分化誘導した肝細胞様細胞を移植した結果、移植細胞はマウスの肝臓内に生着し、急性毒性は認めなかった。また皮下に移植した群と併せて、長期間の観察での造腫瘍性も認められなかった。さらに、肝障害モデルマウスに、未分化なヒト間葉系幹細胞及び肝細胞様に分化誘導した細胞を、それぞれ5x106細胞個移植した結果,肝障害を回復する能力を確認した。また細胞分化におけるメチル化の網羅的解析法を用い.誘導分化された肝細胞のメチル化の検討をおこなった結果、上皮-間葉転換を制御するTWISTなどの遺伝子がメチル化されており、間葉-上皮転換が間葉系幹細胞からの肝細胞分化の原因となっていることを示した。
結論
 SCIDマウスへの細胞移植により、間葉系幹細胞や分化誘導した肝細胞は宿主の肝臓組織へ組み込まれ、重篤な副作用の発症や移植細胞による腫瘍化は観察されず,その安全性も証明した。また肝細胞への分化の過程では,上皮-間葉転換を制御するTWISTなどの遺伝子がメチル化されており、間葉-上皮転換がその原因となっていることが示唆された。さらに、将来の肝疾患に対する再生医療実現に向けて,分化誘導した肝細胞はもちろん,ヒト間葉系幹細胞そのものに肝疾患治癒能力を見いだした点は,今後の応用研究に重要な知見である。

公開日・更新日

公開日
2008-04-11
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2008-11-17
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200706016C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ヒト脂肪組織中に肝細胞様に分化する間葉系幹細胞が存在することを十分な科学的根拠を持って示したことは、体性幹細胞の可塑性を研究する上で大きな基礎情報を与えることに貢献した。この業績は、肝臓の国際雑誌HEPATOLOGYに発表し,また脂肪間葉系幹細胞の国際学会であるIFAT2007で講演し,学会賞を受賞した。さらに、動物個体への移植実験で,その有効性と安全性を確認出来た成果は,将来の再生医療の細胞ソースとして,脂肪組織中の間葉系幹細胞が有用な候補であることを示す貴重なデータである。
臨床的観点からの成果
本研究は,将来の肝不全治療に於ける再生医療のソースとして,ヒト脂肪組織中の間葉系幹細胞が持つポテンシャルを、動物個体への移植と長期観察に基づく安全性を検証し得た点で,臨床応用に直結する成果である。さらに、世界に先がけて、肝細胞への分化能力,機能を証明し,また未分化の幹細胞の持つ肝障害の修復能力を見いだした点は(Stem Cells, in press)、ヒト間葉系幹細胞の臨床応用の実現化に向けて,大きな希望となる成果である。
ガイドライン等の開発
本研究は該当しない。
その他行政的観点からの成果
末期の肝不全に陥った患者を救う唯一の方法は肝移植であるが、慢性のドナー不足や高いコストなどの問題から、肝移植に代わる新たな治療法の開発が急務である。本研究の目的は、移植医療に替わる、脂肪組織に由来するヒト間葉系幹細胞そのもの,あるいはそれから分化誘導したヒト肝細胞様細胞の再生医療への応用をめざすものである。そのための基盤研究として,本研究は,幹細胞の安全性の検証,肝細胞分化能力,動物の肝障害モデルへの移植と治療応用の基礎情報を十分提供する成果を挙げた。
その他のインパクト
本研究成果は,各マスメディアで取り上げられた:1)皮下脂肪から肝臓細胞を作製、国立がんセンターが成功 (読売新聞 平成19年1月6日);2)脂肪の幹細胞 肝臓病治療に応用・がんセンターなど臨床応用目指す(平成20年1月18日 日経新聞)。また、本研究内容は,国際学会IFAT2007(2007, USA)で学会賞を受賞した。平成19年度再生医療等研究事業成果発表会で講演した(平成20年3月11日)。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
25件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
41件
学会発表(国際学会等)
20件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takeuchi T, Ochiya T, Takezawa T.
Tissue array substratum composed of histological sections: a new platform for orienting differentiation of embryonic stem cells towards hepatic lineage.
Tissue Eng. , 14 (2) , 267-274  (2008)
原著論文2
Yamamoto Y, Banas A, Murata S, et al.
A comparative analysis of the transcriptome and signal pathways in hepatic differentiation of human adipose mesenchymal stem cells.
FEBS Journal , 275 (6) , 1260-1273  (2008)
原著論文3
Watanabe H, Ochiya T, Ueda S, et al.
Differentiation of a hepatic phenotype after heterotropic transplantation of heart, kidney, brain, and skin tissues into liver in F344 rats.
Biochem Biophys Res Commun , 354 , 841-845  (2007)
原著論文4
Morita S, Horii T, Kimura M, et al.
One Argonaute family member, Eif2c2 (Ago2), is essential for development and appears not to be involved in DNA methylation.
Genomics , 89 (6) , 687-696  (2007)
原著論文5
Banas A, Teratani T, Yamamoto Y, et al.
Adipose tissue-derived mesenchymal stem cells as a source of human hepatocytes.
Hepatology , 46 (1) , 219-228  (2007)
原著論文6
Banas A, Yamamoto Y, Teratani T, et al.
Stem cell plasticity: learning from hepatogenic differentiation strategies.
Developmental Dynamics , 236 , 3228-3241  (2007)
原著論文7
Yamamoto Y, Banas, A, Kato T, et al.
Plasticity of adult stem cells into liver.
Curr. Res. in Hepatol. , 1 , 1-18  (2007)
原著論文8
Horii T, Kimura M, Morita S, et al.
Loss of genomic imprinting in mouse parthenogenetic embryonic stem cells.
Stem Cells. , 26 , 79-88  (2008)
原著論文9
Hatada I., Morita S, Kimura M, et al.
Genome-wide demethylation during neural differentiation of P19 embryonal carcinoma cells.
J Hum Genet. , 53 , 185-191  (2008)
原著論文10
Ochiya T, Honma K, Takeshita F, et al.
Atelocollagen-mediated Drug Discovery Technology.
Expert Opin. Drug Discov. , 2 , 159-167  (2007)
原著論文11
Banas A, Quinn G, Yamamoto Y, et al.
Stem cells into liver-basic research and potential clinical applications.
Adv. Exp. Biol. Med. , 585 , 3-17  (2006)
原著論文12
Takeshita F, Kodama M, Yamamoto H, et al.
Streptozotocin-induced partial beta cell depletion in nude mice without hyperglycaemia induces pancreatic morphogenesis in transplanted embryonic stem cells.
Diabetologia , 49 , 2948-2958  (2006)
原著論文13
Fukasawa M, Morita S, Kimura M, et al.
Genomic imprinting in Dicer1-hypomorphic mouse.
Cytogenetic & Genome Res. , 131 , 138-143  (2006)
原著論文14
Fukasawa M, Kimura K, Morita S, et al.
Microarray analysis of promoter methylation in lung cancers.
J. Hum. Genet. , 51 , 368-374  (2006)
原著論文15
Katsumoto T, Aikawa Y, Iwama A, et al.
MOZ is essential for maintenance of hematopoietic stem cells.
Genes Development , 20 , 1321-1330  (2006)
原著論文16
Hatada I.
Emerging technologies for genome-wide DNA methylation profiling in cancer.
Critical Rev. Oncogenesis , 12 (3) , 205-223  (2006)
原著論文17
Hatada I, Fukasawa M, Kimura M, et al.
Genome-wide profiling of promoter methylation in human.
Oncogene , 25 (21) , 3059-3064  (2006)
原著論文18
Teratani T, Yamamoto H, Aoyagi K, et al.
Direct hepatic fate specification from embryonic stem cells.
Hepatology , 41 , 836-846  (2005)
原著論文19
Yamamoto Y, Teratani T, Quinn G, et al.
Recapitulation of in vivo gene expression during hepatic differentiation from embryonic stem cells.
Hepatology , 42 , 558-567  (2005)
原著論文20
Teratani T, Quinn G, Yamamoto Y, et al.
Long-term maintenance of liver-specific functions in cultured ES cell-derived hepatocytes with hyaluronan sponge.
Cell Transplant. , 14 , 629-635  (2005)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-