間葉系幹細胞を利用した造血幹細胞移植技術の高度化・安全性向上に関する研究

文献情報

文献番号
200706015A
報告書区分
総括
研究課題名
間葉系幹細胞を利用した造血幹細胞移植技術の高度化・安全性向上に関する研究
課題番号
H17-再生-一般-017
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
小澤 敬也(自治医科大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 久米 晃啓(自治医科大学医学部)
  • 花園  豊(自治医科大学医学部)
  • 長谷川 護(ディナベック株式会社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療等研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
20,597,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
造血幹細胞移植の高度化、安全化を図る目的で、以下の研究を実施した。1)間葉系幹細胞(MSC)による移植片対宿主病(GVHD)抑制の機序の解析、ならびにその臨床応用、2)MSCによる生着促進に関して、造血支持能の分子レベルでの解析、3)造血幹細胞移植モデル実験系(サル)におけるMSC共移植による生着促進効果の検討、4)造血幹細胞遺伝子治療のための選択的増幅遺伝子(SAG)に関する研究を進めた。
研究方法
1)初代培養マウス骨髄由来MSCを用い、MSCが免疫抑制物質のNO(nitric oxide)を産生する機序の解明を試みた。また、MSCを用いた臨床研究(課題名「造血幹細胞移植後に発症した難治性急性GVHDに対する血縁者由来間葉系幹細胞を用いた治療」)を実施した。2)造血支持能を持つMSC由来脂肪前駆細胞株と造血幹細胞との相互作用がもたらす遺伝子発現プロファイルを解析した。3)MSC共移植による生着促進に関しては、サルの造血幹細胞移植の系で、遺伝子マーキングの手法を用いて解析した。4)SAGをレンチウイルスベクターであるサル免疫不全ウイルス(SIV)ベクターに搭載し、解析した。
結果と考察
1)活性化Tリンパ球由来のインターフェロン-γともう一つの因子がMSCに作用すると、iNOSが誘導され、NOが産生されること示した。臨床研究では、重症GVHD患者1例でMSCを実際に投与した。MSC治療後に、GVHD症状の軽快傾向と大腸内視鏡所見の改善が認められた。副作用は認めなかった。2)造血幹細胞との共培養によって脂肪前駆細胞ではNotchリガンドなどの発現が上昇した。造血幹細胞側ではNotchやその下流遺伝子の発現が上昇し、両者の相互作用によるNotchシグナル系の活性化が示唆された。3)MSCと共に骨髄内移植した造血幹細胞由来の血球が、移植後の末梢血で優位であった。4)SAG搭載SIVベクターの基礎検討として、遺伝子導入後の挿入部位を調べた。
結論
1)MSCの免疫抑制メカニズムに関して、NOが産生される機序を明らかにした。また、難治性急性GVHDに対するMSC治療の安全性と有効性が示唆された。2)造血細胞と支持細胞の接着によりNotchシグナル系が活性化された。3)造血細胞と共にMSCを骨髄内移植すると、生着が促進された。4)SAG搭載SIVベクターを構築し、基礎データを得た。

公開日・更新日

公開日
2008-06-26
更新日
-

文献情報

文献番号
200706015B
報告書区分
総合
研究課題名
間葉系幹細胞を利用した造血幹細胞移植技術の高度化・安全性向上に関する研究
課題番号
H17-再生-一般-017
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
小澤 敬也(自治医科大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 久米 晃啓(自治医科大学医学部)
  • 花園  豊(自治医科大学医学部)
  • 長谷川 護(ディナベック株式会社 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療等研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
造血幹細胞移植の高度化、安全化を図る目的で、以下の研究を実施した。1)間葉系幹細胞(MSC)による移植片対宿主病(GVHD)抑制の機序の解析、ならびにその臨床応用、2)MSCによる生着促進に関して、造血支持能の分子レベルでの解析、3)造血幹細胞移植におけるMSC共移植の生着促進効果の検討、4)造血幹細胞遺伝子治療のための選択的増幅遺伝子(SAG)に関する研究を進めた。
研究方法
1)初代培養マウス骨髄由来MSCを用い、MSCによるTリンパ球の増殖抑制の機序の解明を試みた。また、MSCを用いた臨床研究(課題名「造血幹細胞移植後に発症した難治性急性GVHDに対する血縁者由来間葉系幹細胞を用いた治療」)を実施した。2)MSC由来脂肪前駆細胞株と造血幹細胞との相互作用がもたらす遺伝子発現を網羅的に解析した。3)MSC共移植による生着促進に関して、サル造血幹細胞移植の系ならびにヒツジ胎児への移植実験系で解析した。4)慢性肉芽腫症モデルマウスの系で臨床用SAGの有効性を調べた。また、SAGをレンチウイルスベクターであるサル免疫不全ウイルス(SIV)ベクターに搭載し、解析した。
結果と考察
1)MSCを活性化Tリンパ球と共培養するとiNOSが誘導され、NO(nitric oxide)が産生された。活性化Tリンパ球由来のインターフェロン-γともう一つの因子がMSCに作用したと考えられた。臨床研究では、重症GVHD患者1例でMSCを実際に投与した。MSC治療後に、GVHD症状の軽快傾向と大腸内視鏡所見の改善が認められた。副作用は認めなかった。2)造血幹細胞と脂肪前駆細胞の共培養によって、両者の相互作用によるNotchシグナル系の活性化が示唆された。3)MSCを共移植すると、造血幹細胞の生着が促進された。4)疾患モデルマウスでSAGの有効性が確認され、またSAG搭載SIVベクターの基礎検討では遺伝子導入後の挿入部位を調べた。
結論
1)MSCの免疫抑制メカニズムに関して、NOによるTリンパ球増殖抑制の機序を明らかにした。また、難治性急性GVHDに対するMSC治療の安全性と有効性が示唆された。2)造血細胞と支持細胞の接着によりNotchシグナル系が活性化された。3)造血細胞と共にMSCを骨髄内移植すると、生着が促進された。4)SAGの有効性を疾患モデルマウスで示した。

公開日・更新日

公開日
2008-04-21
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200706015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
間葉系幹細胞(MSC)を用いた重症急性GVHDの治療が有効であると考えられているが、その機序については一定の見解が得られていない。本研究で、MSCと活性化Tリンパ球を共培養するとNO(nitric oxide)が産生され、それがTリンパ球の増殖を抑制していることを明らかにした。MSCの造血支持能や造血幹細胞生着促進作用についても、分子レベルの基礎データならびに動物実験データが得られた。その他、造血幹細胞遺伝子治療のための選択的増幅遺伝子の開発を推進した。
臨床的観点からの成果
MSCによるGVHD治療の臨床研究(課題名「造血幹細胞移植後に発症した難治性急性GVHDに対する血縁者由来間葉系幹細胞を用いた治療」)では、重症GVHD患者1例でMSCを実際に投与した。MSC治療後に、GVHD症状の軽快傾向と大腸内視鏡所見の改善が認められ、副作用は特に出現しなかった。このケースではGVHDを完全に制御することはできなかったため、今後のMSC投与法を工夫していく上で参考となった。
ガイドライン等の開発
GVHD治療へのMSCの応用が将来的に進むことが予想されるが、そのためのガイドラインを開発する際にはMSCドナーの適格条件を明らかにしていく必要がある。そのための基礎データを固めていく上で本研究の成果は大きな価値を持っている。
その他行政的観点からの成果
MSCによる細胞治療で重症急性GVHDの制御が容易になれば、将来的には、ドナーとレシピエントのHLAを完全に一致させなくても比較的安全に移植を実施できるようになることが予想され、骨髄バンクのドナープール拡大の必要性が少なくなるものと思われる。また、MSC併用により造血幹細胞の生着が促進されることが明らかになれば、成人への臍帯血移植なども安心して行えるようになることが期待される。いずれの研究テーマも行政的観点から大きな意味を持っている。
その他のインパクト
MSCは細胞治療/再生医療への応用が脚光を浴びてきており、特に急性GVHDの治療が最も実用化に近づいているが、その他にも、MSCを造血幹細胞と共に共移植すると生着の促進がサルを用いた前臨床研究で示唆された。尚、共移植の場合は骨髄内移植の手法を採用したものである。また、造血幹細胞遺伝子治療のためのテクノロジーとして選択的増幅遺伝子の開発を進めたが、増殖シグナルのオン/オフを制御できるこの方法は安全性の観点からも重要なものになることが期待される。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
58件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
61件
学会発表(国際学会等)
28件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tanaka, Y., Nakamura, S., Shibata, H., et al.
Sustained macroscopic engraftment of cynomolgus embryonic stem cells in xenogeneic large animals after in utero transplantation.
Stem Cells Dev. , 17  (2008)
原著論文2
Liu, Y., Okada, T., Shimazaki, K., et al.
Protection against aminoglycoside-induced ototoxicity by regulated AAV vector-mediated GDNF gene transfer into the cochlea.
Mol. Ther. , 16 (3) , 474-480  (2008)
原著論文3
Sato, K., Ozaki, K., Oh, I., et al.
Nitric oxide plays a critical role in suppression of T cell proliferation by mesenchymal stem cells.
Blood , 109 , 228-234  (2007)
原著論文4
Oh, I., Ozaki, K., Sato, K., et al.
Interferon-gamma and NF-kappaB mediate nitric oxide production by mesenchymal stromal cells.
Biochem. Biophys. Res. Commun. , 355 , 956-962  (2007)
原著論文5
Ito, T., Okada, T., Miyashita, H., et al.
Interleukin-10 expression mediated by an adeno-associated virus vector prevents monocrotaline-induced pulmonary arterial hypertension in rats.
Circ. Res. , 101 , 734-741  (2007)
原著論文6
Ideno, J., Mizukami, H., Kakehashi, A., et al.
Prevention of diabetic retinopathy by intraocular soluble flt-1 gene transfer in a spontaneously diabetic rat model.
Int. J. Mol. Med. , 19 , 75-79  (2007)
原著論文7
Ito, T., Okada, T., Mimuro, J., et al.
Adenoassociated virus-mediated prostacyclin synthase expression prevents pulmonary arterial hypertension in rats.
Hypertension , 50 , 531-536  (2007)
原著論文8
Kanzaki, S., Shiotani, A., Inoue, M.,
Sendai virus vector-mediated transgene expression in the cochlea in vivo.
Audiol. Neurootol. , 12 , 119-126  (2007)
原著論文9
Mizukami, H., Mimuro, J., Ogura, T., et al.
Adipose tissue as a novel target for in vivo gene transfer by adeno-associated viral vectors.
Hum. Gene Ther. , 17 , 921-928  (2006)
原著論文10
Okada, T., Uchibori, R., Iwata-Okada, M., et al.
A histone deacetylase inhibitor enhances recombinant adeno-associated virus-mediated gene expression in tumor cells.
Mol. Ther. , 13 , 738-746  (2006)
原著論文11
Shibata, H., Ageyama, N., Tanaka, Y., et al.
Improved safety of hematopoietic transplantation with monkey ES cells in the allogeneic setting.
Stem Cells , 24 , 1450-1457  (2006)
原著論文12
Ageyama, N., Hanazono, Y., Shibata, H., et al.
Prevention of immune responses to human erythropoietin in cynomolgus monkeys (Macaca fascicularis).
J. Vet. Med. , 68 , 507-510  (2006)
原著論文13
Ogura, T., Mizukami, H., Mimuro, J., et al.
Utility of intraperitoneal administration as a route of AAV serotype 5 vector-mediated neonatal gene transfer.
J. Gene Med. , 8 , 990-997  (2006)
原著論文14
Ohmori, T., Mimuro, J., Takano, K., et al.
Efficient expression of a transgene in platelets using simian immunodeficiency virus-based vector harboring glycoprotein Iba promoter: in vivo model for platelet-targeting gene therapy.
FASEB J. , 20 , 769-779  (2006)
原著論文15
Fujita S, Eguchi A, Okabe, J., et al.
Sendai virus-mediated gene delivery into hepatocytes via isolated hepatic perfusion.
Biol. Pharm. Bull. , 29 , 1728-1734  (2006)
原著論文16
Ageyama. N., Hanazono, Y., Shibata, H., et al.
Safe and efficient collection of cytokine-mobilized peripheral blood cells from cynomolgus monkeys (Macaca fascicularis) with human newborn-equivalent body weights.
Exp. Anim. , 54 (5) , 421-428  (2005)
原著論文17
Okada, T., Nonaka-Sarukawa, M., Ito, T., et al.
Large-scale production of recombinant viruses by use of a large culture vessel with active gassing.
Hum. Gene. Ther. , 16 , 1212-1218  (2005)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
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