患者への医療情報提供に関する諸外国の取り組み状況に関する研究

文献情報

文献番号
199700295A
報告書区分
総括
研究課題名
患者への医療情報提供に関する諸外国の取り組み状況に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
川渕 孝一(国立医療・病院管理研究所医療経済研究部主任研究官)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 健康政策調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
インフォームド・コンセント(以下、ICとする)や患者の権利についての法制化・施策づくりに資するため、諸外国での取り組み状況をまとめた基礎資料を作成する。
研究方法
 欧米16カ国におけるICや患者の権利の法制化の状況について、次の3つの方法によって調査・研究を行った。
(1)国内・海外文献やインターネット等を活用して資料収集を行う。
(2)各国の政府や医師会、研究者に協力を依頼して、それぞれの医療制度の詳細や現状に関するアンケート調査を行う。(3)研究協力者を交えて、諸外国の医療制度について検討・分析を行い、わが国との違いや諸外国と同様の制度を導入した場合の問題点について考察する。
結果と考察
結果= 患者への医療情報提供に関する主要な6カ国の取り組みを要約すると、次のようになる。
(a)アメリカ
法制化の状況は各州政府によって異なるが、連邦条例には「プライバシー法や情報の自由法に従い、必要な場合は患者に情報を開示しなければならない」といった規定がある。患者には基本的に、?知る権利と、?患者が理解・決定できない場合に代理人を立てる権利があるとされる。各州ではたとえば、ミネソタ州法令では、「拘束されない権利」や「患者自身の個人的な医療情報にアクセスできる権利」などが保障されている。
また現場の医療機関は、ICに関する内規を各々で制定している。加えてアメリカ医師会では、「医療倫理綱領」のなかにICに関する規定を設けている。
(b)イギリス
1991年に政府により「患者憲章」が打ち出された。そのなかでは、「家庭医の診療対象として登録される権利」など10の権利と10の国家基準が述べられている。しかし、この患者の権利について保健省は「患者が期待できるサービス水準の一つ」と定義しており、法廷で主張できるような患者個人の法的な権利までは規定していない。近年、家庭医や病院、地域の保健当局などによる独自の患者憲章が作られるようになってきている。
このほか、医療記録の入手については「医療記録アクセス法」、苦情申し立てについては「病院苦情手続法」といった法律が制定されている。
(c)フランス
患者は医療契約の際、?的確・妥当で現状において最も科学的かつ正当性のある治療を受ける権利、?治療の結果ではなく行為を受ける権利、?情報開示請求権の3つの権利が保障されている。
また、「医師倫理法」には、「医師はすべての医療行為と、疾病に関する情報を、患者・家族が理解できるよう説明する義務がある」と、ICが明確に法文化されている。同法では、患者への情報開示義務、医師の守秘義務などについても規定されている。
(d)ドイツ
ドイツ医師会によって議決された「ドイツ医師のための職業規則」が、各州監督官庁の承認を経て実質的な法的効力を持つとされている。同規則には「医師の説明義務」「守秘義務」「診療の実施」など、医師が守るべき基本的な規則や倫理について規定されている。
また患者の権利は、憲法および疾病保険法にその基本的概念が求められる。加えて、社会法典に基づき、患者には「医師を選択する権利」が保障されている。一般開業医の診察を受けるか、専門医の診察を受けるかは患者自身が決定する。このほか、患者には個人的な医療情報を知る権利が保障されており、医師の守秘義務については刑法によっても厳しく規定されている。
(e)オランダ
1995年に患者の法的地位向上を目的とした「医療契約法」が施行された。同法ではIC、患者の自治権、情報を知る権利、治療を拒否する権利、病院の医療責任など、患者の基本的な権利が規定されている。また、同年施行された「患者苦情法」では、「医療提供者と患者との間に起きた紛争をその場で解決すること」を原則としている。さらに現在、各医療専門職の職業上の能力、医療上の規律について規定した「個別医療専門職法」の法案が国会に提出されており、1998年には成立・施行される見通しである。 また国内には、200万人以上の消費者を代表する強い消費者組織があり、患者連合や王立オランダ医師会などの組織とともに、患者の権利向上に重要な役割を果たしている。
(f)フィンランド
1993年にヨーロッパで初めて患者の権利向上を目的とした「患者の権利と地位に関する法令」が制定された。同法では、良質の医療を受ける権利、治療について情報を提供され選択する権利などのほか、患者オンブズマン制度の規定を設けている。
なお、1986年には「患者傷害法」が制定され、医療によって傷害が起きた場合、患者側に過失立証責任はないとする「被過失保険規定」が設けられた。
考察= 今回調査を行った16カ国について、次の2点から考察を加えた(詳細は別添資料参照)。
(1)ICや患者の権利の法制化
まず、総論として「患者の権利」を法制化しているか否かという点から16カ国を類型化したところ、次の3つのタイプに分けることができた。
?ICや患者の権利を明確に法制化している国…オランダ、フィンランド、フランス(ICのみ)
?ICや患者の権利を明確に規定した法律について国会で審議するなど、法制化の準備をしている国…ベルギー、デンマーク、ギリシャ、ハンガリー、アイスランド、リトアニア、ノルウェー、ロシア、スウェーデン
?ICや患者の権利を法制化していないが、州・地域ごとの法制度や病院ごとの内規や患者憲章、あるいは医師会の「職業規則」などが実質的に効力を持っている国…アメリカ、イギリス、ドイツ、ポルトガル
今のところわが国には、ICや患者の権利についての一定の法律がないため、?もしくは?のタイプに属するものと思われる。
(2)患者の個別の権利の法制化
次に、各論として「患者の権利」について、?医療を受ける権利、?身体的安全が確保される権利、?選択の自由を有する権利、?情報を得る権利、?プライバシーが守られる権利、?苦情を申し立てる権利という6点について、各国の法制化状況を調べたところ、?から?のすべての権利について明確な法的根拠を持つのはフィンランドとオランダの2カ国であることが分かった。フィンランドの「患者の権利と地位に関する法令(1993年)」は?から?まですべてについての規定を設けており、ほかに?については「公的医療法」、?については「患者傷害法」も存する。一方、オランダでは「医療契約法(1995年)」が????を保障しており、?は「憲法」、?は「患者苦情法」が保障している。
わが国の法制化を考えるうえで、上記2カ国の取り組みは大いに参考になるものと考えられる。
結論
 欧米16カ国におけるICまたは患者の権利の制度化への取り組みを調べたところ、3カ国で明確な法制化がなされており、また12カ国で法案作成など法制化に向けた準備が進められていることが分かった。こうした各国の取り組みからわが国が学ぶべき点として、次の2点が考えられる。
(1)「医師の倫理規定」の制定
ドイツ医師会の「職業規則」やフランスの「医師倫理法」、オランダの「個別医療専門職法(成立予定)」のように、医師の職業上の裁量や義務について、医師法あるいは医療法上に明確に規定することが必要である。またその際、たとえば「医師は患者に必要な情報を提供し、治療等について患者に選択させ、同意を得る義務がある」といったように、医師にICを行う義務があることを明文化すべきと考える。
(2)患者の具体的な権利の法制化
欧米16カ国においては、患者の個別の権利の保障した法律が目立った。たとえば、オランダの「患者苦情法」やフィンランドの「患者傷害法」、イギリスの「医療記録アクセス法」「病院苦情手続き法」などが挙げられる。これらはそれぞれ、「苦情を申し立てる権利」や「情報を得る権利」を保障するという、具体的なものである。
今後わが国においても、保障すべき患者の具体的な権利について検討したうえで、「患者への情報公開法」制定に向けたインフラを整備していく必要があると考える。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)