ES細胞からの腎臓細胞誘導法の開発

文献情報

文献番号
200706003A
報告書区分
総括
研究課題名
ES細胞からの腎臓細胞誘導法の開発
課題番号
H17-再生-一般-004
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
西中村 隆一(熊本大学発生医学研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 小林 千余子(熊本大学発生医学研究センター )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療等研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本で腎不全により人工透析を受ける人は26万人を超え、この10年で2倍となった。その社会的負担も大きいにもかかわらず、腎機能を回復させる画期的な治療法はいまだ存在しない。腎臓の再生研究に決定的に欠けているもの、それは腎臓前駆細胞を検定する系である。そこで本計画は、発生期腎臓から前駆細胞を同定する系を確立し、これを基盤として、胚性幹(ES)細胞から腎臓前駆細胞を誘導することを目的とした。
研究方法
ESの分化系として、2次元に展開する方法と胚様体形成法を使用した。それを表面抗原を使ってFACSで分画し、前年度までに確立した腎臓前駆細胞同定系に投入した。Sall1-GFPあるいはその他の腎臓発生関連転写因子の遺伝子座にGFPを組み込んだES細胞をノックインの手法で作成し、分化誘導を行った。さらにこれらのES細胞からマウスを作成し、腎臓前駆細胞集団が蛍光発色するかを検討した。
結果と考察
腎臓前駆細胞を同定するコロニーアッセイを基盤にして、ES細胞からの腎臓前駆細胞誘導を試みたが、どの分画からもコロニーは形成されなかった。この原因としては、誘導される前駆細胞の頻度がまだ少ない、あるいはコロニーを作れる段階まで誘導できていないことが考えられる。そこで腎臓発生期転写因子の遺伝子座にGFPを組み込んだES細胞を作成した。これをアクチビンとレチノイン酸で分化させることで、効率よくGFP陽性細胞を誘導できることを見出した。またマウスにおいても前駆細胞集団である後腎間葉が蛍光発色することを確認し、マイクロアレイ解析においてもSall1-GFPマウスより優れていることが示唆された。
結論
ES細胞をアクチビンとレチノイン酸で処理し、腎臓前駆細胞で発現する遺伝子を指標にすることによって、その候補集団の単離が可能になった。マウスから採取されるin vivoでの腎臓前駆細胞との類似性を確認しつつ、誘導効率の改善を図りたい。

公開日・更新日

公開日
2008-04-11
更新日
-

文献情報

文献番号
200706003B
報告書区分
総合
研究課題名
ES細胞からの腎臓細胞誘導法の開発
課題番号
H17-再生-一般-004
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
西中村 隆一(熊本大学発生医学研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 小林 千余子(熊本大学発生医学研究センター )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療等研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本で腎不全により人工透析を受ける人は26万人を超え、この10年で2倍となった。その社会的負担も大きいにもかかわらず、腎機能を回復させる画期的な治療法はいまだ存在しない。腎臓の再生研究に決定的に欠けているもの、それは腎臓前駆細胞を検定する系である。そこで本計画は、発生期腎臓から前駆細胞を同定する系を確立し、これを基盤として、胚性幹(ES)細胞から腎臓前駆細胞を誘導することを目的とした。
研究方法
我々が単離した核内因子Sall1は、腎臓前駆細胞を含むと考えられる後腎間葉に発現し、そのノックアウトマウスは腎臓を欠損する。この遺伝子座にGFPを導入したマウスの後腎間葉から、GFPが高発現する細胞を FACS で選別し、Wnt4を発現するフィーダー上で培養することで、前駆細胞の同定系の確立を目指した。そしてSall1-GFPあるいはその他の腎臓発生関連転写因子の遺伝子座にGFPを組み込んだES細胞を作成し、分化誘導を行った。
結果と考察
後腎間葉の1個の細胞からコロニーが形成され、糸球体、近位尿細管、遠位尿細管という多系統へ分化することを見いだした。またSall1-GFP高発現の後腎間葉細胞を再凝集させ器官培養すると、5日間で3次元構造を再構築でき、その中には糸球体様構造や尿細管様構造が認められた。よってSall1を高発現する後腎間葉中に腎臓前駆細胞が存在し、これは3次元立体構造を再構築できることを証明した。さらに腎臓発生期転写因子の遺伝子座にGFPを組み込んだES細胞を、アクチビンとレチノイン酸で分化させることで、効率よくGFP陽性細胞を誘導できた。またマウスにおいても後腎間葉が蛍光発色することを確認した。
結論
発生期腎臓から前駆細胞を同定する系を確立した。さらにES細胞をアクチビンとレチノイン酸で処理し、腎臓前駆細胞で発現する遺伝子を指標にすることによって、その候補集団の単離が可能になった。マウスから採取されるin vivoでの腎臓前駆細胞との類似性を確認しつつ、誘導効率の改善を図りたい。

公開日・更新日

公開日
2008-04-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200706003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
発生期腎臓の後腎間葉中の細胞をWnt4で刺激することによって、1個の細胞からコロニーが形成され多系統に分化することを示した。これは後腎間葉中に多能性の腎臓前駆細胞が存在することを意味し、またこの方法は腎臓前駆細胞を同定する系として使用できる。さらにES細胞をアクチビンとレチノイン酸で処理し、腎臓前駆細胞で発現する遺伝子を蛍光で指標にすることによって、その候補集団の単離が可能になった。
臨床的観点からの成果
日本で腎不全により人工透析を受ける人は26万人を超え、この10年で2倍となった。その社会的負担も大きいにもかかわらず、腎機能を回復させる画期的な治療法はいまだ存在しない。腎臓細胞誘導を目指す際、前駆細胞を同定でき、かつその頻度まで算定できる確実で信頼できる系がなければならない。よって今回、発生期腎臓から前駆細胞を同定する系を確立したことは重要である。さらにこれを基盤として、胚性幹(ES)細胞から腎臓前駆細胞を誘導しつつある。
ガイドライン等の開発
今回の成果は基礎研究の段階であり、臨床応用を目指したガイドライン等の開発には直結していない。
その他行政的観点からの成果
今回の成果は基礎研究の段階であり、臨床応用を目指した行政施策には直結していない。但しヒトiPS細胞の開発に伴い、今回の成果を応用することによって、ヒト腎臓再生への道が大きく開けることが期待される。
その他のインパクト
今回開発した腎臓前駆細胞同定系の研究成果は Development 誌の巻頭でも紹介され、ハンガリーでの国際発生腎臓学ワークショップにおいて、唯一の日本人演者として招待講演を行った。またES細胞自体の機能解明についても、Development 誌の巻頭で紹介され、既に一流国際誌11個の論文に引用されている。これらの成果は地元紙でも取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
14件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
19件
学会発表(国際学会等)
9件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nishinakamura R and Takasato M.
Essential roles of Sall1 in kidney development
Kidney Int. , 68 (5) , 1948-1950  (2005)
原著論文2
Osafune K, Takasato M, Kispert A et al.
Identification of multipotent progenitors in the embryonic mouse kidney by a novel colony-forming assay
Development , 133 (1) , 151-161  (2006)
原著論文3
Ogawa K, Nishinakamura R, Iwamatsu Y et al.
Synergistic action of Wnt and LIF in maintaining pluripotency of mouse ES cells
Biochem. Biophys. Res. Commun. , 343 (1) , 159-166  (2006)
原著論文4
Sakaki-Yumoto M, Kobayashi C, Sato A et al.
The murine homolog of Sall4, a causative gene in Okihiro syndrome, is essential for embryonic stem cell proliferation, and cooperates with Sall1 in anorectal, heart, brain and kidney development
Development , 133 (15) , 3005-3013  (2006)
原著論文5
Nishinakamura R and Osafune K
Essential roles of Sall family genes in kidney development
J. Physiol Sci. , 56 (2) , 131-136  (2006)
原著論文6
Yamashita K, Sato A, Asashima M et al.
Mouse homolog of SALL1, a causative gene for Townes-Brocks syndrome, binds to A/T-rich sequences in pericentric heterochromatin via its C-terminal zinc finger domains
Genes Cells , 12 (2) , 171-182  (2007)
原著論文7
Kobayashi H, Kawakami K, Asashima M et al.
Six1 and Six4 are essential for Gdnf expression in the metanephric mesenchyme and ureteric bud formation, while Six1 deficiency alone causes mesonephric tubule defects
Mech. Dev. , 124 (4) , 290-303  (2007)
原著論文8
Nishinakamura R
Stem cells in the embryonic kidney
Kidney Int. (Epub ahead of print)  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-