成体脳に内在する神経幹細胞の賦活化に関する開発的研究

文献情報

文献番号
200706001A
報告書区分
総括
研究課題名
成体脳に内在する神経幹細胞の賦活化に関する開発的研究
課題番号
H17-再生-一般-002
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
高坂 新一(国立精神・神経センター神経研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 湯浅 茂樹(国立精神・神経センター神経研究所)
  • 和田 圭司(国立精神・神経センター神経研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療等研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
17,951,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
成体脳に内在する神経幹細胞を用いて、変性脱落した神経細胞を代償し新たな神経回路網を構築させる再生医療のコンセプトに基づいた治療手段として、より効率的かつ安全性の高い内在性神経幹細胞を賦活化させる低分子化合物の薬剤を開発することを目的とする。
研究方法
(1)NMDA受容体阻害剤による成体神経幹細胞賦活化の検討 
NMDA受容体阻害剤であるメマンチンをマウスに投与し3日後、BrdUを用いて増殖細胞を標識した。一定期間飼育後海馬歯状回顆粒細胞下層におけるBrdU陽性細胞数を計測した。また、ニューロンマーカー抗体を用いた免疫組織染色から新生細胞のニューロンへの分化を検討した。 
(2)成体脳神経幹細胞の分化増殖を制御するG蛋白質共役型受容体(GPCR)リガンドの探索
偏側大脳皮質損傷モデル動物を作製後、薬剤候補となるGPCRリガンドを脳室へ7日間持続投与した。2週間後神経幹細胞マーカー抗体を用いた免疫組織染色により脳内空間における新生細胞の局在ならびに偏在性の変化を解析した。
 動物実験は国立精神・神経センター神経研究所小型動物実験倫理問題検討委員会の承認を得て行った。
結果と考察
(1)NMDA受容体阻害剤による成体神経幹細胞賦活化の検討 
12週齢の若齢マウスにおいて、メマンチン投与によりBrdU投与後1日目、7日目、28日目の海馬歯状回顆粒細胞下層のBrdU陽性細胞数が対照群と比べ2.3倍、3.4倍、6.8倍増加した。また、これらのBrdU陽性細胞は正常にニューロンに分化していることが判明した。さらに、12ヶ月齢の高齢マウスにおいても、メマンチン投与によりBrdU投与後1日目のBrdU陽性細胞数が3.7倍増加した。
(2)成体脳神経幹細胞の分化増殖を制御するG蛋白質共役型受容体リガンドの探索
大脳皮質左側一次運動野に損傷を与えたマウスにおいて、エンドセリンB型受容体のブロッカーであるBQ788を投与することで損傷側の脳室周囲における神経幹細胞数ならびに新生細胞の移動距離が有意に増加した。
結論
メマンチン投与により、海馬歯状回顆粒細胞下層における内在性の成体神経幹/前駆細胞の神経新生が亢進することを明らかにした。また、BQ788投与により、脳損傷後に脳室周囲の神経幹細胞の増殖、移動が促進されることを明らかにした。

公開日・更新日

公開日
2008-04-10
更新日
-

文献情報

文献番号
200706001B
報告書区分
総合
研究課題名
成体脳に内在する神経幹細胞の賦活化に関する開発的研究
課題番号
H17-再生-一般-002
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
高坂 新一(国立精神・神経センター神経研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 湯浅 茂樹(国立精神・神経センター神経研究所)
  • 和田 圭司(国立精神・神経センター神経研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療等研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
成体脳に内在する神経幹細胞を用いて、変性脱落した神経細胞を代償し新たな神経回路網を構築させる再生医療のコンセプトに基づいた治療手段として、より効率的かつ安全性の高い内在性神経幹細胞を賦活化させる低分子化合物の薬剤を開発することを目的とする。
研究方法
(1)NMDA受容体阻害剤による成体神経幹細胞賦活化の検討 
NMDA受容体阻害剤であるメマンチンをマウスに投与し3日後、BrdUを用いて増殖細胞を標識した。一定期間飼育後海馬歯状回顆粒細胞下層におけるBrdU陽性細胞数を計測した。また、ニューロンマーカー抗体を用いた免疫組織染色から新生細胞のニューロンへの分化を検討した。 
(2)成体脳神経幹細胞の分化増殖を制御するG蛋白質共役型受容体(GPCR)リガンドの探索
培養成体神経幹細胞において、定量的PCR法を用いてGPCR遺伝子の発現を解析した。偏側大脳皮質損傷モデル動物を作製後、薬剤候補となるGPCRリガンドを脳室へ7日間持続投与した。2週間後神経幹細胞マーカー抗体を用いた免疫組織染色により脳内空間における新生細胞の局在ならびに偏在性の変化を解析した。
 動物実験は国立精神・神経センター神経研究所小型動物実験倫理問題検討委員会の承認を得て行った。
結果と考察
(1)NMDA受容体阻害剤による成体神経幹細胞賦活化の検討 
メマンチン投与により、BrdU投与後1日目、7日目、28日目の海馬歯状回顆粒細胞下層のBrdU陽性細胞数が対照群と比べ2.3倍、3.4倍、6.8倍増加した。さらに、これらのBrdU陽性細胞は正常にニューロンに分化していることがわかった。
(2)成体脳神経幹細胞の分化増殖を制御するG蛋白質共役型受容体リガンドの探索
神経幹細胞で高発現のGPCRとして、細胞間接着性制御に関わるエンドセリンB型受容体(ETB-R)を同定した。大脳皮質左側一次運動野に損傷を与えたマウスにおいて、ETB-RのブロッカーであるBQ788を投与することで損傷側の脳室周囲における神経幹細胞数ならびに新生細胞の移動距離が有意に増加した。
結論
メマンチン投与により、海馬歯状回顆粒細胞下層における内在性の成体神経幹/前駆細胞の神経新生が亢進することを明らかにした。また、BQ788投与により、脳損傷後に脳室周囲の神経幹細胞の増殖、移動が促進されることを明らかにした。

公開日・更新日

公開日
2008-04-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200706001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
NMDA受容体阻害剤であるメマンチンを成体マウスに投与することで、海馬歯状回顆粒細胞下層における内在性の神経幹/前駆細胞の増殖が亢進すること、さらに、新生細胞が成熟神経細胞へと正常に分化することを明らかにした。また、エンドセリンB型受容体のブロッカーであるBQ788を成体マウスの脳室内に持続的に投与することで、脳損傷時脳室周囲に存在する神経幹細の増殖、移動・分散が促進されることを明らかにした。以上の成果は、低分子化合物による内在性神経幹細胞の賦活化を支持する非常に重要な知見と考えられる。
臨床的観点からの成果
成体脳に内在する神経幹細胞を賦活化させることで神経変性疾患や脳損傷により脱落した神経回路網を修復・再構築させる本研究の再生医療のコンセプトは、高次脳機能障害を呈するはば広い脳疾患に適応できる可能性を有している。現在、欧米でアルツハイマー型認知症の治療薬として使用されているメマンチンを用いて内在性神経幹細胞の賦活化を実証した本研究は、将来の神経新生促進剤の開発を実現できることを示したものであり、極めて有意義な成果であると考えられる。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
特許取得
【名称】マクロファージ系細胞の活性化抑制物質のスクリーニング方法
【国際出願日】2005年2月21日
【国際公開日】2005年9月29日
【国際公開番号】WO 2005/090561 A1
【出願人】 (財)ヒューマンサイエンス振興財団
【発明者】 高坂 新一

「再生医療はどこまで進んだか? さらに発展させるためには何が必要か?」、「パーキンソン病の再生医療による治療の試み」等々、シンポジウムにて講演を行った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
28件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
17件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
特許取得 名称:マクロファージ系細胞の活性化抑制物質のスクリーニング方法 国際公開番号:WO 2005/090561 A1 出願人:(財)ヒューマンサイエンス振興財団 発明者:高坂 新一
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
5件
熊本大学特別講演、先端医学研究等普及啓発セミナー、東京医科歯科大学大学院歯学総合研究科特別講演、等。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kamitori, K., Okuno-Hirasawa, T., Kohsaka, S., et al.
Receptor related to tyrosine kinase RYK regulates cell migration during cortical development.
Biochem. Biophys. Res. Commun. , 330 , 446-453  (2005)
原著論文2
Ohsawa, K., Uchino, S., Kohsaka, S., et al.
Visualization of microglia in living tissues by using Iba1-EGFP transgenic mice.
J. Neurosci. Res. , 81 , 357-362  (2005)
原著論文3
Yogosawa, S., Kohsaka, S., Akazawa, C., et al.
Ubiquitylation and degradation of serum-inducible kinase by hVPS18, a RING-H2 type ubiquitin ligase.
J. Biol. Chem. , 280 , 41619-41627  (2005)
原著論文4
Uchino, S., Kohsaka, S., Yuasa, S., et al.
Fyn is required for haloperidol-induced catalepsy in mice.
J. Biol. Chem. , 281 , 7129-7135  (2006)
原著論文5
Uchino, S., Hirasawa, T., Kohsaka, S., et al.
Direct interaction of PDZ domain-containing synaptic molecule Shank3 with GluR1 AMPA receptor.
J. Neurochem. , 97 , 1203-1214  (2006)
原著論文6
Sekiguchi, M., Aoki, S., Wada, K., et al.
Ubiquitin C-terminal hydrolase L1 regulates the morphology of neural progenitor cells and modulates their differentiation.
J. Cell Sci. , 119 , 162-171  (2006)
原著論文7
Fukazawa, N., Wada, K., Aoki, S., et al.
Identiofication and functional characterization of mouse TPO1 as a myelin membrane protein.
Brain Res. , 1070 , 1-14  (2006)
原著論文8
Kudo, Y., Wada, K., Aoki, S., et al.
Solo/Trio8, a membr, ane-associated short isoform of Trio, modulates endosome dynamics and neurite elongation.
Mol. Cell. Biol. , 26 , 6923-6935  (2006)
原著論文9
Tomita, S., Sekiguchi, M., Wada, K., et al.
Stargazin controls the pharmacology of AMPA receptor potentiators.
Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. , 103 , 10064-10067  (2006)
原著論文10
Ohsawa, K., Inoue, K., Kohsaka, S., et al.
Involvement of P2X4 and P2Y12 receptors in ATP-induced microglia chemotaxis.
Glia , 55 , 604-616  (2007)
原著論文11
Yamakawa, H, Kohsaka, S., Ishiura, S., et al.
Neuroligins 3 and 4X interact with syntrophin-γ2, and the interactions are affected by autism-related mutations.
Biochem. Biophys. Res. Commun. , 355 , 41-46  (2007)
原著論文12
Koizumi, S., Kohsaka, S., Inoue, K., et al.
UDP acting at P2Y6 receptors is a mediator of microglial phagocytosis.
Nature , 446 , 1091-1095  (2007)
原著論文13
Okamoto, N., Kohsaka, S., Uchino, S., et al.
22q13 microduplication in two patients with common clinical manifestations A recognizable syndrome?
Am. J. Med. Genet. A. , 143 , 2804-2809  (2007)
原著論文14
Setsuie, R, Aoki, S., Wada, K., et al.
Dopaminergic neuronal loss in transgenic mice expressing the Parkinson’s disease-associated UCH-L1 I93M mutant.
Neurochem. Int. , 50 , 119-129  (2007)
原著論文15
Nishimoto, M., Aoki, S., Wada, K., et al.
PACAP/PAC1 autocrine system promotes proliferation and astrogenesis in neural progenitor cells.
Glia , 55 , 317-327  (2007)
原著論文16
Ohashi, H., Aoki, S., Wada, K., et al.
Alpha 1-adrenoceptor agonists protect against stress-induced death of neural progenitor cells.
Eur. J. Pharmacol. , 573 , 20-28  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-