精神医療に関わるコメディカルのあり方に関する研究

文献情報

文献番号
199700293A
報告書区分
総括
研究課題名
精神医療に関わるコメディカルのあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
藤崎 清道(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 杉原素子(国際医療福祉大学)
  • 武井麻子(日本赤十字看護大学)
  • 三村孝一(医療法人信和会城ヶ崎病院)
  • 藤野ヤヨイ(財団法人井之頭病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 精神保健医療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
19,450,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
精神医療を必要とする患者のニーズは、疾患の診断・治療、社会復帰の準備、入院生活上の利便と多岐にわたり、その充足には身体疾患と異なる固有の環境整備が必要である。特に時代の要請となっている社会復帰、人権の保護、Quality of Life の維持・向上を実現するためには、本領域におけるコメディカルの役割が重要となる。
精神医療に関わるコメディカルについて、その特質及び近年の動向を探り、併せて個別職種についての具体的な機能・役割を検討することによって、本分野における新たな国家資格制度の創設を含む、行政的な対応を検討する基礎資料を提供することを本研究の目的とする。
研究方法
精神医療に関わるコメディカルの特質と近年の動向に関する研究(研究1)、精神科作業療法の今後の方向性に関する研究(研究2)、精神科看護の新たな原理と方法の開発に関する研究(研究3)、臨床心理技術者の資格のあり方に関する研究(研究4)、精神医療における看護体制に関する研究(研究5)を行った。
〔研究1〕需要、養成・供給、就業状況などに関する既存の資料に基づいて近年の動向を纏めた。そのうえで特質を活かした役割と今後の課題を、看護職、作業療法士、精神医学ソーシャルワーカー(精神保健福祉士)について個別に検討した。また、米国・カリフォルニア州、カナダ・ブリティシュコロンビア州の状況について、現地での参加観察およびインタビューを行った。
〔研究2〕(社)日本作業療法士協会会員が勤務する精神科作業療法実施病院を対象に郵送自記式による実態調査と訪問調査を実施した。調査内容は、施設状況に関する事項と作業療法プログラムと実施形態、取り扱い人数など精神科作業療法に関する事項。
〔研究3〕サービス提供において比較的高い評価を得ている精神病院の実地調査を実施した。また、身体的合併症、知的発達障害、高齢痴呆、思春期、性的同一性障害、衝動的な暴力行為など、固有の精神障害に加えて身体的、家族的、社会的に複合した問題を抱えている事例について、精神科看護婦(士)および同分野の研究者による研究会を行った。
〔研究4〕臨床心理技術者、精神科医、小児科医および精神保健福祉行政担当者による検討会を行った。内容は、保健医療福祉領域における臨床心理技術者の業務の諸相、文部省および労働省の施策に関連して行われているカウンセリングの実態、小児科臨床の場における心理行為、臨床心理技術者が関係する場より提供された症例である。
〔研究5〕研究文献および関係資料の収集と分析、精神病院における経営情報の分析と看護管理体制の関係についての調査、精神病院における看護管理者の面接調査および病棟運営に関しての参与観察を行った。
結果と考察
〔研究1〕看護職は、本来の職域である療養上の世話、個別生活援助、医療・生活相談の他に、医師の補佐、生活療法部門の援助、医療チーム間の連絡・調整など入院患者に関する医療のすべてに関与する。医師の指示や他職種からの依頼による療法や活動を引き受ける場面も多い。さらに近年では、地域・在宅ケアへの進出や大病院でのリエゾン・コンサルテーションの要請などと活動の場が拡がってきている。
昭和40年の「理学療法士及び作業療法士法」によって誕生した作業療法士は、平均年齢は31歳と低く、8割以上が医療施設に勤務する。全体の約2割が精神医療保健領域で勤務するが、特に保健領域の需要数は現状の約2倍と見積もられている。早期リハビリテーションから地域における生活支援まで一貫してかかわるという特質を有することから、ケアマネージメントやリハビリテーションチームの要となることも期待できる。現在は大半の作業療法士が医療施設に勤務している状況だが、精神保健領域への進出が望まれる。
精神医学ソーシャルワーカーは、福祉的視点に基づくクライエントと社会との間の調整が業務の特徴である。他職種ではできないような特殊な業務内容ではないことから、他職種がやらない(あるいは、やりたがらない)問題を便利屋的に請け負っているという一面もある。精神保健福祉士法によって身分法の確立はなったものの、実際に専門性をいかに発揮していくかが、これからの重要な課題である。
両国の事例とも、医療機関においては各専門職の役割が明確に定義され、時間と特定した内容にしたがってプログラムが展開されている。しかもそれはチームミーティングなどチーム体制を基盤とするものであり、役割もその枠組みのなかで位置づけられている。米国・カリフォルニア州の事例では、各専門職がそれぞれの見地から意見を交わし、チームによる治療・看護の方針および計画を策定する。チームを纏める役割のチームリーダーは、医師とは限らない。これに対してカナダ・ブリティシュコロンビア州の事例では、チーム全体を医師が率いる体制である。
地域で生活する精神障害者では、病状も安定しており、専門的介入を要する度合いは低下する。そのためサービスを提供するスタッフは、本人が受けてきた専門的訓練の背景に関わりなく同一の職称(たとえば、ケース・マネージャーなど)で、職務内容もほぼ同じとなっている。
〔研究2〕190施設から郵送による回答を得て(回答率50.0%)、このうち8施設に対して訪問調査を実施した。対象疾患は精神分裂病圏が最多で、回答施設の97%。対象者平均年齢は52.1歳(SD=6.7)、平均在院期間は7.0年(SD=4.8)、作業療法を開始してからの平均期間は2.6年(SD=2.9)。対象者の状態像は、院内適応レベルでの現状維持的対応を主たる目標とする者が74.7%。作業療法の目標では、臥床傾向などの改善を目標とする日常生活リズムの活性化が42%。作業療法士1人当たりの実施単位は2単位/日が78%、平均取り扱い患者数は16.2名/単位(SD=7.2)。関連職種による定期的カンファレンスを実施している施設は45%。
〔研究3〕個別看護の基盤となる対人関係を理解するための知識、集団と組織のダイナミクスについての知識、患者と治療的に関わり合うための具体的な専門的技術や方法論の確立、看護者への訓練やサポートシステムの確立の必要性が明らかにされた。そのためには、向精神薬の看護的な位置づけや他職種との連携について現実的な検討を重ねなければならない。
〔研究4〕定形的精神(心理)療法、心理査定のみならず、日常的生活行動の援助を行う専門職チームの一員としての業務も盛んである。学校における指導困難性増加傾向の対策としてスクールカウンセラー、職場の健康づくり施策に関連する「心理相談員担当者」がある。小児科臨床対象者の過半数は心と体を病む者であり、心身両面を考慮した対応が不可欠である。症例検討では日本臨床心理士会、全国保健医療福祉心理職能協会、全国児童相談所心理判定員協議会それぞれの立場から症例が提供され、医行為との関係やこれに絡んで業務責任の担保として国家資格必要性が論じられた。
〔研究5〕一般科と同様に、入院期間の短縮、短期入院に着目した看護業務の見直しによるベッドサイドケアの拡充、患者の医療参加を図るための説明と同意などの取り組みが進んでいることが明らかになった。
結論
生活部面に関する精神医療の今日的課題対応のため、チームによる関連職種間の連携体制の確立が望まれる。海外の状況も参考にしつつ、わが国の歴史、文化や医療保健福祉制度など社会的構造に適合する具体的な手法・方策の開発が、今後の課題である。

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