環境中の疾病要因の検索とその作用機構の解明に関する研究

文献情報

文献番号
200704006A
報告書区分
総括
研究課題名
環境中の疾病要因の検索とその作用機構の解明に関する研究
課題番号
H19-国医-指定-006
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
若林 敬二(国立がんセンター研究所がん予防基礎研究プロジェクト)
研究分担者(所属機関)
  • 中釜 斉(国立がんセンター研究所 生化学部)
  • 牛島 俊和(国立がんセンター研究所発がん研究部)
  • 鈴木 孝昌(国立医薬品食品衛生研究所 分子診断部)
  • 高野 裕久(国立環境研究所 環境健康研究領域)
  • 島 正之(兵庫医家大学 公衆衛生学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 社会保障国際協力推進研究(国際医学協力研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
14,827,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がん発生には喫煙、食事性要因及び感染症が大きな役割を果たしている。ま た、最近ではナノ製品の有害性も注目されている。これらの要因に加えて、 遺伝的背景もがん等の疾病発生に多大な影響を及ぼしている。本研究におい ては、環境中の変異原や発がん物質を明らかにすると供にヒトのがんやその 他の疾病発生要因及び感受性要因を総合的に把握し、最終的にはヒトのがん の第一次予防推進のための基礎的研究成果をあげることを目的とする。

研究方法
がんやその他の疾病発生の外的要因の検索として、表層土壌、大気粉塵及び ナノマテリアルの変異原性や免疫への影響について解析した。内的要因の検索としては、PhIPにより誘発されるラット大腸がんモデルを用い、翻訳抑制機構の発がんにおける役割や、アレイCGH法によるがん細胞における遺伝子増幅のメカニズムに ついても検討した。また、H. pylori 感染によりDNAメチル化異常が誘発される遺伝子に特異性があるかを検討した。
結果と考察
強変異原性物質3,6-ジニトロベンゾ[e]ピレン(DNBeP) の分布状況を三大都市圏(関東、東海、近畿)において採取した大気粉じん 及び表層土壌について分析した結果、すべての試料から3,6-DNBePが検出さ れ、環境中に広く分布していることが示唆された。大気中浮遊粒子状物質へ の短期的な曝露によって、炎症の指標である血清CRP値の上昇が認められた 。また、気道炎症同様、気道過敏性を含む肺機能を、ナノ粒子が増悪しうる ことを、高性能呼吸解析システムを用いた詳細な検討により明らかとした。 PhIPにより誘発されるラット大腸がんにおいて、翻訳抑制因子SND1およびmi croRNAを介する翻訳制御機構が、がんの発生・成立に重要な役割を果たして いることを明らかとした。アレイCGH法による増殖部位の解析を行った結果、がん種およびがん細胞ごとに異なったDouble Minute (DM)染色体上のc-myc増幅様式の存在が明らかとなった。H. pylori 感染により容易にメチル化される遺伝子と、メチル化に抵抗性の遺伝子とがあることが明らかになった。
結論
本研究は、ヒトのがんやその他の疾病発生要因及び感受性要因を総合的に把 握することを目的として、変異原物質の分析や大気粉塵やナノマテリアルの 疾病要因としての重要性を明らかにした。更に、実験動物を用いた新規の発 がん分子機構の解析やヒトにおける細菌感染とメチル化の解析等により、発 がん感受性要因を見い出した。以上の成果は、がんを含む疾病予防対策を講ずる上に有用な基礎的研究資料になるものと確信する。
 

公開日・更新日

公開日
2008-06-03
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200704006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
研究は、環境中の変異原や発がん物質を明らかにすると共にがん発生要因 及び感受性要因を総合的に把握し、がんの第一次予防推進を目的とする。本 年度は、環境中の変異原・がん原物質の分析や変異機構の解明、ナノマテリ アルの生体への影響、胃がん、大腸がんの発生に対する新規の発がん分子機構の解析等を行い、重要な基礎的資料を得たものと確信する。

臨床的観点からの成果
pylori 感染によりDNAメチル化異常が誘発される遺伝子に特異性があることが明らかになった。さらに、その特異性は、H. pylori感染時の遺伝子発現が低いことと極めて強い相関があった。発がん因子毎に組織が示す反応が異なることを考えると、発がん因子特異的に DNAメチル化のパターンが形成される可能性が高い。今後、各個人の胃粘膜の DNAメチル化パターンを解析することで、例え血清抗体が消失していても、過去の感染歴を判定できるようになる可能性を示す重要な知見である 。

ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
がんの第一次予防推進のための基礎的研究成果をあげることは、我が国の保健医療の向上に役立つものと考えられる。

その他のインパクト
中国、韓国等のアジア諸国と我が国におけるがんの発生要因及び感受性要因 の共通性と差異を明確にすることにより、がん予防に関する有効な情報をアジア諸国に発信できる

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
17件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
16件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Wakabayashi, K.
Mutagenicity of Surface Soil from Residential Areas in Kyoto City, Japan, and Identification of Major Mutagens.
Mutation Research , 649 , 201-212  (2008)
原著論文2
Wang R, Dashwood WM, Lohr CV, Fischer KA, Pereira CB, Louderback M, Nakagama H,
Protective versus promotional effects of white tea and caffeine on PhIP-induced tumorigenesis and b-catenin expression in the rat.
Carcinogenesis , 29 , 834-839  (2008)
原著論文3
Tazawa H, Tsuchiya N, Izumiya M and Nakagama H.
Tumor suppressive miR-34a induces senescence-like growth arrest through modulation of E2F pathway in human colon cancer cells.
Proc Natl Acad Sci USA , 104 , 15472-15477  (2007)
原著論文4
Tsuchiya N, Ochiai M, Nakashima K, Ubagai T, Sugimura T and Nakagama H.
SND1, a component of RNA-induced silencing complex, is up-regulated in human colon cancers and implicated in early stage colon carcinogenesis.
Cancer Res , 67 , 9568-9576  (2007)
原著論文5
5. Nakanishi M, Tazawa H, Sugimura T, Tanaka T and Nakagama H.
Mouse strain differences in chronic-phase inflammatory responses in colonic mucosa induced by dextran sulfate sodium cause differential susceptibility to PhIP-induced large bowel carcinogenesis
Cancer Sci. , 98 , 1157-1163  (2007)
原著論文6
Abe Y, S.,Nakagama H.
Life style-related diseases of the digestive system: colorectal cancer as a life style-related disease: from carcinogenesis to medical treatment.
J Pharmacol Sci. , 105 , 129-132  (2007)
原著論文7
Watanabe T, Tobe K, Nakachi Y, Kondoh Y, Nakajima M, Hamada S, Namiki C, Suzuki T,
Differential Gene Expression Induced by Two Genotoxic N-nitroso Carcinogens, Phenobarbital and Ethanol in Mouse Liver Examined with Oligonucleotide Microarray and Quantitative Real-time PCR.
Genes and Environment , 29 , 115-127  (2007)
原著論文8
Luan Y, Suzuki T, Palanisamy R, Takashima Y,
predominantly causes large deletions, but not GC>TA transversion in human cells.
Mutat Res , 619 , 113-123  (2007)
原著論文9
9. Kanayasu-Toyoda T, Ishii-Watabe A, Suzuki T, Oshizawa T, Yamaguchi T
A new role of thrombopoietin enhancing ex vivo expansion of endothelial precursor cells derived from AC133-positive cells.
J Biol Chem. , 282 , 33507-33514  (2007)
原著論文10
Sanda T, Okamoto T, Uchida Y, Nakagawa H, Iida S, Kayukawa S, Suzuki T,
Proteome analyses of the growth inhibitory effects of NCH-51, a novel histone deacetylase inhibitor, on lymphoid malignant cells.
Leukemia , 21 , 2344-2353  (2007)
原著論文11
Kanayasu-Toyoda, T., Suzuki, T., Oshizawa, T., Uchida,
Granulocyte colony-stimulating factor promotes the translocation of protein kinase Ci in neutrophilic differentiation cells.
J. Cell Physiol. , 211 , 189-196  (2007)
原著論文12
延山嘉眞, 牛島俊和
エピジェネティクスと発がん
臨床化学 , 36 , 288-295  (2007)
原著論文13
榎本祥太郎, 牛島俊和
発癌リスク診断へのエピジェネティクスの応用
実験医学 , 25 , 2686-2692  (2007)
原著論文14
牛島俊和
エピジェネティクスの診断への応用と癌細胞の鋭敏な検出
実験医学 , 25 , 2670-2677  (2007)
原著論文15
牛島俊和
DNAメチル化による生命現象・疾患とその解析
実験医学 , 25 , 287-293  (2007)
原著論文16
牛島俊和, 延山嘉眞
ゲノムで進むがん研究 がんのエピゲノム
最新医学 , 62 , 2087-2098  (2007)
原著論文17
17. Shima, M
Air pollution and serum C-reactive protein concentration in children.
J Epidemiol , 17 , 169-176  (2007)
原著論文18
18. Ando, M. and Shima M.
The relationship between serum IL-12, IL-18, and IgE concentrations and allergic symptoms in Japanese schoolchildren.
J Invest Allergol Clin Immunol , 17 , 14-19  (2007)
原著論文19
20. Inoue K, Takano H, Yanagisawa R, Sakurai M,
Effects of nanoparticles on lung physiology in the presence or absence of antigen.
Int J Immunopathol Pharmacol  (2008)
原著論文20
21. Koike E, Takano H, Inoue K, Yanagisawa R,
Pulmonary exposure to carbon black nanoparticles increases the number of antigen-presenting cells in murine lung.
Int J Immunopathol Pharmacol  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-