文献情報
文献番号
199700289A
報告書区分
総括
研究課題名
精神医療の機能分化に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
浅井 昌弘(慶應義塾大学医学部精神神経科学教室)
研究分担者(所属機関)
- 河口豊(国立医療・病院研究所)
- 黒澤尚(日本医科大学精神医学教室)
- 計見一雄(千葉県精神科医療センター)
- 小池清廉(京都府立洛南病院)
- 中島節夫(北里大学医学部精神科学教室)
- 守屋裕文(埼玉県立精神保健総合センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 精神保健医療研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
26,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年の精神医療技術の発展により精神医療は広がりを見せ、精神科救急医療の社会的な役割の重要性も増してきている。そこで本研究では、まず「精神科救急医療システム整備事業」の各都道府県における実施状況を調査し、地域に応じた精神科救急システムのあるべき姿について提言を行うことにした。
さらに、入院から1年後の病状、治療形態、社会的機能水準、通算入院期間に相関する因子の同定を行った。こうした成果は、精神科急性期治療病棟を適切に配置し、有効に運用するための政策立案に必要不可欠な基礎データとなる。
また、精神科救急医療は治療施設の充実を抜きにして語ることはできない。そこで、これから改築や増築を行う精神病院が、十分にその機能を発揮できることに資するために「救急期を指向する精神病院のための建築ガイドライン(仮称)」を作成することにした。
さらに、総合病院における精神科救急医療について検討するために、総合病院の精神科以外の診療科での精神障害者の身体合併症への対応の現状と問題点を調査し、わが国の総合病院における精神障害者に対する合併症医療システムのあるべき姿を提示した。それと同時に、総合病院精神科の役割を明確にし、その適正配置についても提言を行い、コンサルテーション・リエゾン・モデルとMPU(Medical Psychiatry Unit)モデルの比較検討も行った。
さらに、国公立病院が担うべき機能について調査し、そのガイドラインと達成度の評価表の提示を行った。
さらに、入院から1年後の病状、治療形態、社会的機能水準、通算入院期間に相関する因子の同定を行った。こうした成果は、精神科急性期治療病棟を適切に配置し、有効に運用するための政策立案に必要不可欠な基礎データとなる。
また、精神科救急医療は治療施設の充実を抜きにして語ることはできない。そこで、これから改築や増築を行う精神病院が、十分にその機能を発揮できることに資するために「救急期を指向する精神病院のための建築ガイドライン(仮称)」を作成することにした。
さらに、総合病院における精神科救急医療について検討するために、総合病院の精神科以外の診療科での精神障害者の身体合併症への対応の現状と問題点を調査し、わが国の総合病院における精神障害者に対する合併症医療システムのあるべき姿を提示した。それと同時に、総合病院精神科の役割を明確にし、その適正配置についても提言を行い、コンサルテーション・リエゾン・モデルとMPU(Medical Psychiatry Unit)モデルの比較検討も行った。
さらに、国公立病院が担うべき機能について調査し、そのガイドラインと達成度の評価表の提示を行った。
研究方法
(A)(A-1)守屋裕文を中心とした研究グループが、1) 平成8年度の精神科救急医療事業の実績調査、2) 都道府県精神保健担当課に対するアンケート調査、3) 全国精神科医療機関に対するアンケート調査、4) 選定した15自治体に対する聞き取り調査、5) 都立墨東病院精神科の昭和62年度(1987)と平成7年度(1995)の精神科救急医療受診者の比較、を行った。
(A-2)計見一雄を中心とした研究グループは、「急性期精神病入院医療における医療資源の適正基準及び予後予測因子に関する研究」を行うための標準化された調査票を作成し、患者特性、入院時の重症度、急性期の身体管理度、必要な回復期間及び医療資源につき調査を開始した。
(A-3)河口豊を中心とした研究グループは、「急性期医療を指向する精神病院の建築基準に関する研究」を行い、急性期を指向する精神病院のための建築ガイドライン(仮称)の作成を目的として、急性期病棟における適正な空間構成の開発と、治療促進のための各室の要件の解明のための調査研究を行った。
(B)(B-1)中島節夫を中心とした研究グループが「総合病院における精神障害者の身体合併症対応に関する研究」を行い、総合病院の身体疾患診療各科における精神障害者の身体合併症への対応の現状と問題点を調査した。またMPU(Medical Psychiatric Unit)モデルで行われている合併症医療の現状も調査した。
(B-2)黒澤尚を中心とした研究グループは「総合病院における精神科の役割に関する研究」を行い、ラウンドテーブル・デイスカッションならびに総合病院精神医学会会員に対するアンケート調査、二次医療圏における消防署及び警察署調査、全国の臨床研修指定病院へのアンケート調査、医療経済的側面からの調査を行った。
(B-3)小池清廉を中心とした研究グループは「公的病院の機能に関する研究」を行い、基礎資料の分析と事例報告に基づいた2方向の分析を行った。
(A-2)計見一雄を中心とした研究グループは、「急性期精神病入院医療における医療資源の適正基準及び予後予測因子に関する研究」を行うための標準化された調査票を作成し、患者特性、入院時の重症度、急性期の身体管理度、必要な回復期間及び医療資源につき調査を開始した。
(A-3)河口豊を中心とした研究グループは、「急性期医療を指向する精神病院の建築基準に関する研究」を行い、急性期を指向する精神病院のための建築ガイドライン(仮称)の作成を目的として、急性期病棟における適正な空間構成の開発と、治療促進のための各室の要件の解明のための調査研究を行った。
(B)(B-1)中島節夫を中心とした研究グループが「総合病院における精神障害者の身体合併症対応に関する研究」を行い、総合病院の身体疾患診療各科における精神障害者の身体合併症への対応の現状と問題点を調査した。またMPU(Medical Psychiatric Unit)モデルで行われている合併症医療の現状も調査した。
(B-2)黒澤尚を中心とした研究グループは「総合病院における精神科の役割に関する研究」を行い、ラウンドテーブル・デイスカッションならびに総合病院精神医学会会員に対するアンケート調査、二次医療圏における消防署及び警察署調査、全国の臨床研修指定病院へのアンケート調査、医療経済的側面からの調査を行った。
(B-3)小池清廉を中心とした研究グループは「公的病院の機能に関する研究」を行い、基礎資料の分析と事例報告に基づいた2方向の分析を行った。
結果と考察
(A)精神科救急医療に関して
(A-1)「精神科救急医療システム整備事業」(分担研究者:守屋裕文)では、現在事業未施行の自治体が抱える問題のうち、「輪番を構成する医療機関が確保できないこと」が自治体の医療特性と統計的に有意に関連し、分割した医療圏の一部地域で事業化するか、全県一圏域等の広域医療圏を設定して事業化することが現実的であることが示唆された。この他、1) 「精神科救急医療システム整備整備事業」が一日も早く全47都道府県で行われるための援助、2)大都市を中心とした包括的な「精神科救急医療ネットワーク」の構築が重要であることが明らかになった。
(A-2)「急性期精神病入院医療における医療資源の適正基準及び予後予測因子に関する研究」(分担研究者:計見一雄)では、計見ら(1997年)の調査に基づく定義試案を一部修正して使用した。なお、老年期の痴呆は別途に検討すべきものとした。また、回復に必要な治療手段および労働力に関する標準的基準を検討すべきであると考えられた。
(A-3)「急性期医療を指向する精神病院の建築基準に関する研究」(分担研究員:河口豊)では、精神病院側の意見では精神科救急を含んだ急性期治療病棟の必要性が強く出されていた。また、多様な空間が必要であることが示唆された。さらに、急性期治療病棟・隔離室の試案を作成し、広さや設備、要件について基本的検討を行った。
(B)総合病院における精神科医療について
(B-1)「総合病院における精神障害者の身体合併症対応に関する研究」(分担研究者:中島節夫)では、精神障害者の身体合併症の定義を行い、臨床的かつ医療経済的検討を行った。
(B-2)「総合病院における精神科の役割に関する研究」(分担研究者:黒澤尚)からは、総合病院の役割としてはリエゾン(他科への診療協力)を含む合併症医療と精神科救急が重要であることが明らかになった。また,救急医療の現場では総合病院精神科に対するニーズが高いことが確認された。さらに、約4分の3の施設で精神科研修がまったく行われていないことがわかった。臨床研修の目的を十分に達し、かつ地域医療支援病院が有効に機能するためには、精神科病床が必要であることが明らかとなった。医療経済的調査からは,総合病院が新たに精神科を開設する際には常勤体制から開始したほうが望ましく、また,精神科を開設することにより「安心感」「教育的関与」といったスタッフへの副次的効果が大きいことが明らかになった。
(B-3)「公的病院の機能に関する研究」(分担研究者:小池清廉)からは、1)通常医療機能、救急・急性期機能、高度専門領域対応機能、身体合併症治療機能、教育・研修機能、地域精神保健活動機能の6機能を抽出し、5群の施設類型ごとに6機能を取捨選択するためのガイドラインが作成され、2)都会型と地方型の医療需要の差を検討して、都会型は特定の専門機能型施設として機能する客観的条件があるのに対し、地方型はオールラウンド型としての機能を求められる傾向があることが明らかになり、3)常勤精神科医の週間基本仕事量、施設類型ごとの個室・保護室数、6機能の分析等により、各機能を十分に担うことができる条件が明らかになった。
(A-1)「精神科救急医療システム整備事業」(分担研究者:守屋裕文)では、現在事業未施行の自治体が抱える問題のうち、「輪番を構成する医療機関が確保できないこと」が自治体の医療特性と統計的に有意に関連し、分割した医療圏の一部地域で事業化するか、全県一圏域等の広域医療圏を設定して事業化することが現実的であることが示唆された。この他、1) 「精神科救急医療システム整備整備事業」が一日も早く全47都道府県で行われるための援助、2)大都市を中心とした包括的な「精神科救急医療ネットワーク」の構築が重要であることが明らかになった。
(A-2)「急性期精神病入院医療における医療資源の適正基準及び予後予測因子に関する研究」(分担研究者:計見一雄)では、計見ら(1997年)の調査に基づく定義試案を一部修正して使用した。なお、老年期の痴呆は別途に検討すべきものとした。また、回復に必要な治療手段および労働力に関する標準的基準を検討すべきであると考えられた。
(A-3)「急性期医療を指向する精神病院の建築基準に関する研究」(分担研究員:河口豊)では、精神病院側の意見では精神科救急を含んだ急性期治療病棟の必要性が強く出されていた。また、多様な空間が必要であることが示唆された。さらに、急性期治療病棟・隔離室の試案を作成し、広さや設備、要件について基本的検討を行った。
(B)総合病院における精神科医療について
(B-1)「総合病院における精神障害者の身体合併症対応に関する研究」(分担研究者:中島節夫)では、精神障害者の身体合併症の定義を行い、臨床的かつ医療経済的検討を行った。
(B-2)「総合病院における精神科の役割に関する研究」(分担研究者:黒澤尚)からは、総合病院の役割としてはリエゾン(他科への診療協力)を含む合併症医療と精神科救急が重要であることが明らかになった。また,救急医療の現場では総合病院精神科に対するニーズが高いことが確認された。さらに、約4分の3の施設で精神科研修がまったく行われていないことがわかった。臨床研修の目的を十分に達し、かつ地域医療支援病院が有効に機能するためには、精神科病床が必要であることが明らかとなった。医療経済的調査からは,総合病院が新たに精神科を開設する際には常勤体制から開始したほうが望ましく、また,精神科を開設することにより「安心感」「教育的関与」といったスタッフへの副次的効果が大きいことが明らかになった。
(B-3)「公的病院の機能に関する研究」(分担研究者:小池清廉)からは、1)通常医療機能、救急・急性期機能、高度専門領域対応機能、身体合併症治療機能、教育・研修機能、地域精神保健活動機能の6機能を抽出し、5群の施設類型ごとに6機能を取捨選択するためのガイドラインが作成され、2)都会型と地方型の医療需要の差を検討して、都会型は特定の専門機能型施設として機能する客観的条件があるのに対し、地方型はオールラウンド型としての機能を求められる傾向があることが明らかになり、3)常勤精神科医の週間基本仕事量、施設類型ごとの個室・保護室数、6機能の分析等により、各機能を十分に担うことができる条件が明らかになった。
結論
1) 「精神科救急医療システム整備事業」が一日も早く全47都道府県で行われるように、必要に応じて実施困難な自治体を援助すること、および、大都市を中心により包括的な「精神科救急医療ネットワーク」の構築に向けた取り組みを鋭意行うことが重要である。
2)精神病急性期治療に実績のある19病院により、精神病急性期の入院治療に関する多施設協同研究を開始した。エントリー期間の3分の1に達した時点での症例数は150であった。「精神病急性期病状評価スケール」については信頼性試験を行い、信頼性の低い項目については、改訂版が作成され使用されることになった。
3)急性期治療病棟・隔離室の試案を作成し、広さや設備、要件について基本的検討を行ったが、今後はこの試案について、広く急性期治療病棟を運営している職員の意見を求め、多様な変化系を作成することによって、精神病院のより良きあり方に役立つ急性期治療病棟の指針が作成できると考えられる。
4)総合病院における精神障害者の身体合併症対応に関して、今後は、人的配置の基準の問題や対応する医療スタッフの基本的な知識(minimum requirement)、後方病棟のあり方、病棟の装備などの分析が必要であり、さらに他科診療への精神科の協力(リエゾンモデル)と精神科病棟における身体合併症診療(MPUモデル)に関する各科連携の現状とあり方などをさらに調査分析する必要性がある。
5)総合病院の役割としては合併症医療(他科連携〔リエゾン〕を含む)ならびに精神科救急が特に重要である。
6)国公立病院の医療機能について、昨年度行った類型ごとの個別調査を行い、地域特性を踏まえた機能の方向性と整備の条件を提示し、さらに達成度評価試案を作成した。なお、国公立総合病院の合併症医療機能を高めるためには、総合病院有床精神科および救命救急を有する施設にMPU(精神ー身体総合治療のための精神科病床群)を設置すること、そして総合病院無床精神科に病床を設置することが必要である。行政レベルで行われる身体合併症治療のための病床確保事業も重要であろう。国立は臨床研究部を設置することができるが、そうした部門を充実させることによって研修・教育機能を高めることも可能である。
2)精神病急性期治療に実績のある19病院により、精神病急性期の入院治療に関する多施設協同研究を開始した。エントリー期間の3分の1に達した時点での症例数は150であった。「精神病急性期病状評価スケール」については信頼性試験を行い、信頼性の低い項目については、改訂版が作成され使用されることになった。
3)急性期治療病棟・隔離室の試案を作成し、広さや設備、要件について基本的検討を行ったが、今後はこの試案について、広く急性期治療病棟を運営している職員の意見を求め、多様な変化系を作成することによって、精神病院のより良きあり方に役立つ急性期治療病棟の指針が作成できると考えられる。
4)総合病院における精神障害者の身体合併症対応に関して、今後は、人的配置の基準の問題や対応する医療スタッフの基本的な知識(minimum requirement)、後方病棟のあり方、病棟の装備などの分析が必要であり、さらに他科診療への精神科の協力(リエゾンモデル)と精神科病棟における身体合併症診療(MPUモデル)に関する各科連携の現状とあり方などをさらに調査分析する必要性がある。
5)総合病院の役割としては合併症医療(他科連携〔リエゾン〕を含む)ならびに精神科救急が特に重要である。
6)国公立病院の医療機能について、昨年度行った類型ごとの個別調査を行い、地域特性を踏まえた機能の方向性と整備の条件を提示し、さらに達成度評価試案を作成した。なお、国公立総合病院の合併症医療機能を高めるためには、総合病院有床精神科および救命救急を有する施設にMPU(精神ー身体総合治療のための精神科病床群)を設置すること、そして総合病院無床精神科に病床を設置することが必要である。行政レベルで行われる身体合併症治療のための病床確保事業も重要であろう。国立は臨床研究部を設置することができるが、そうした部門を充実させることによって研修・教育機能を高めることも可能である。
公開日・更新日
公開日
-
更新日
-