身体・知的・精神障害者に対するサービス提供に関する研究

文献情報

文献番号
199700287A
報告書区分
総括
研究課題名
身体・知的・精神障害者に対するサービス提供に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
皆川 邦直(財団法人東京都精神医学総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 皆川邦直(財団法人東京都精神医学総合研究所)
  • 手塚直樹(静岡県立大学短期大学部)
  • 河村宏(財団法人日本障害者リハビリテーション協会)
  • 白澤政和(大阪市立大学生活科学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 障害者等保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
19,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、ノーマライゼーション理念のもとでの障害者福祉の充実をはかるために、各障害における現実の施策的課題につながる問題を取り上げ、各種調査を通して検討を行うものである。
「障害者及び障害者家族におけるホームヘルプニーズに関する研究」では、精神障害者を対象とした在宅生活援助サービスとしてのホームヘルプサービスの今後の展開をはかる上での基礎的資料とするために、サービス需要を予測し、ならびにサービス提供のあり方を検討する。「精神薄弱者施設における援助技術の体系化に関する研究」では、精神薄弱者が自身のニーズを満たし、可能性を最大限に発揮して豊かな生活を築くための援助プログラムを作成するための資料として、全国の精神薄弱者施設における援助の実情と、各施設で援助効果が認められた事例を収集し分析する。「情報障害の支援方策に関する研究」では、情報弱者とも称される視聴覚障害者に対する高度情報通信社会における情報支援のあり方を研究し、誰もが情報通信の高度化の便益を安心して享受できる社会の実現の具体的方策を提言する。「障害者のケアマネジメントの評価に関する研究」では、身体障害者を対象としたケアマネジメントにおいて、ケアマネジメントの考え方から研修すべき内容を検討し、さらに研修後のケアマネジャーとしての研修効果を明示する枠組みを作成する。
研究方法
精神障害者ホームヘルプニーズについては、そのサービスの需要を予測するために、都内において保健婦、精神障害者本人及び家族を対象とした自記式質問紙調査を実施した。また同じく都内において、精神障害者への援助経験をもつヘルパーのヒアリング調査を実施した。
精神薄弱者施設における援助技術の体系化については、知的障害者が自身の潜在力を最大限に発揮してQOL課題改善を目指す援助プログラムを開発することを目的として、課題改善のあった、あるいは地域生活に移行できた事例を収集した。その結果46施設から、課題改善事例307、地域生活移行事例48計355事例を得た。
視聴覚障害者の情報障害の支援方策については、国内外の視聴覚障害者情報提供施設において実施されている情報の提供方法および利用者のニーズについて、インターネットを含む文献調査、聞き取り、およびデータベースの分析により実態を把握した。それに基づいて、Universal Designを基調としたマルチメディアの活用に着目し、Digital Audio-based Information System(DAISY)とSynchronized Multimedial Integration Language(SMIL)を活用した情報障害の支援方策を研究し、わが国の実態を踏まえた具体的提言をまとめた。
身体障害者のケアマネジメントの評価については、身体障害者に対するケアマネジメントの実践経験に優れたケアマネジャーと研究者、計11名により、研修内容、ならびに研修前後でのケアマネジャーと障害者双方の変化に関する評価法の枠組みを作成した。
結果と考察
精神障害者のホームヘルプニーズに関する調査の結果では、保健婦がかかわる在宅精神障害者のうち、「定期的にホームヘルパーの訪問が必要」と判断された者の割合は6%であり、「一時的にホームヘルプの援助が必要」と判断された者の割合は28%であった。また定期的に必要とする者のうちでは50歳台が42%ともっとも多く、診断は精神分裂病が62%と多数を占めた。一方、ヘルパー派遣制度の利用を希望する者の割合は、精神障害者本人調査の結果では31%、家族調査の結果では36%であった。
今回の調査の範囲では、ヘルパー派遣ニーズと障害手帳の等級にはっきりとした関係は認めなかった。またヘルパー派遣の回数は、週1~2回がもっとも多く、3回以上は比較的まれであった。
精神障害者ホームヘルプサービスにおいて、高齢者や他の障害と異なり、ヘルパーがことに困難を生じやすいところは、障害者本人との人間関係構築、病状および病状変化への理解と対応、介護と自立援助との兼ね合いなどの点である。また日常的に接触するヘルパーには、医療的介護や生活相談に関する問題をもちこまれることも多く、ヘルパーがその対処に困難を覚えることもしばしばあることがわかった。
精神薄弱者施設における援助技術に関する調査の結果では、施設入所者の改善事例のうち生理上のニーズに対応したのは8.1%であった。生活上のニーズに対応した事例は30.6%であった。安全のニーズに対応した事例は29.1%であった。また人間関係・自己実現のニーズに対応した事例は32.2%であった。地域生活移行事例は、グループホームへの移行56.3%、家庭への移行8.3%、アパートへの移行8.3%、通勤寮への移行6.3%、その他8.3%であった。また日中の活動の場は企業への就労が79.2%、作業所等の福祉的就労10.4%、福祉工場2.1%であった。
視聴覚障害者の情報障害の支援方策に関する研究の結果では、視聴覚障害者の情報ハンディキャップは、情報支援システムの立場で整理すると、蓄積して効率的なネットワークで情報資源を共有することが可能な部分と、その場で即時に必要とする支援とに整理できることが確認できた。高度通信情報社会においては、放送とインターネット技術が市民生活のより広い領域をカバーし、最終的には従来情報ハンディキャップがあった領域を再編成するものと考えられてきたが、動向調査の結果もそれを裏付けた。今後、聴覚障害者支援用機器開発が聴覚障害者のコミュニケーションにもたらすインパクトと、DAISYとSMILが学習障害者および知的障害者の利用も考慮したマルチメディアとしてどのような効果を挙げるかを確認する必要がある。
身体障害者のケアマネジメントの評価に関する研究の結果では、障害者のケアマネジメントの評価に関する研究について、ケアマネジメントを展開するには、担当者へのケアマネジメント研修が不可欠である。本研究では、研修内容についての検討、障害者ケアマネジメント研修の基礎資料を作成することを目的として、ケアマネジメント研修の大枠を作成した。具体的には、?ケアマネジメントの考え方および障害の捉え方を理解する、?ケアマネジメントに関連する概念を理解する、?ケアマネジメントの具体的な進め方を理解する、?ケアマネジメントから地域での施策化の進め方を理解する、?各現場でのケアマネジメント事例を検討する、といった項目が考えられた。
結論
保健婦がかかわる在宅精神障害者のうち、定期的および一時的ににホームヘルパーの訪問を必要と判断された者の割合はそれぞれ6%と28%であった。一方、精神障害者本人及び家族でヘルパー派遣制度の利用を希望する者の割合はそれぞれ31%と36%であった。精神障害者ホームヘルプサービスにおける困難をに適切かつ有効に対処するためには、チーム方式によるサービス運営が望まれるだけでなく、現場のヘルパーを支援するシステムとして、他の専門職や、より経験のあるヘルパーに、日常的に相談したり専門的意見を聞くことができる連携の場が確保されていることが必要である。
精神薄弱者施設における援助技術に関する事例報告では、ややもすると従来の指導の枠組みに入所者を合わせていく傾向がまだ根強く残っていたり、援助者側の発想や、行動の転換が必要になっている状況が存在している中にあって、援助を行うに際しては、その対象者との信頼関係を築くためのコミュニケーションと援助者側の意識の変革の重要性に触れたものが多かった。ノーマライゼーション理念の具体化には、施設入所者個々のニーズを尊重し、そのニーズに応じた個別的援助を行うことが基本的に重要であることを指摘した。
視聴覚障害者の情報支援については、視聴覚情報支援システムをインターネット上に構築し、それを通じたユニバーサル・デザインの普及の取り組みが必要である。そため障害者情報ネットと障害保健福祉研究情報ネットを拡充し、DAISYとSMILの導入を含む視聴覚障害者向けマルチメディア情報サービスネットワークの構築と提言した。
身体障害者のケアマネジメントでは今後障害者ケアマネジメントの研修を実施していく基礎づくりができた。

公開日・更新日

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