年金制度と引退プロセス・受益者の生活水準の相互関係に関する研究

文献情報

文献番号
200701027A
報告書区分
総括
研究課題名
年金制度と引退プロセス・受益者の生活水準の相互関係に関する研究
課題番号
H19-政策-一般-003
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
北村 行伸(一橋大学 経済研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 高山 憲之(一橋大学 経済研究所)
  • 小塩 隆士(神戸大学 大学院経済学研究科)
  • 清水谷 諭(世界平和研究所主任研究員)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
5,678,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、年金制度が労働市場や個人消費に与える影響を評価する上で欠かせない主観的意識の対人間比較を可能にする方法を経済学の分野で日本で初めて取り入れて、その有効性を検証することにある。
研究方法
日本でも多く用いられている単純な意識調査は、たとえば「あなたは健康だと思いますか」と質問して、いくつかの選択肢(非常にそう思う・かなりそう思う・まあそう思う・少しそう思う・そう思わない、など)の中から回答者に選んでもらう形式のものがほとんどすべてといってよい。しかしこうした質問では、そもそも悲観的な回答者と楽観的な回答者の回答の違いには、回答者の属性の影響が大きく反映するため、単純に比較できない。政策評価も影響を与えるこうした主観的な意識調査は、暗黙のうちに対人間の単純比較が可能であることを前提にしているが、非現実的な仮定といわざるを得ない。こうした問題を克服するために、欧米では、主観的意識を質問した後で、共通のシナリオを示し、その評価を用いて主観的意識のスケールを調整する方法(VIGNETTと呼ばれる)が広く用いられてきている。本研究ではそれを日本の経済学の分野で初めてあてはめ、バイアスを評価し、より精緻な政策評価を可能にする。

結果と考察
 健康、満足度、政治的発言力、医療機関への評価といった分野について、すでに欧米で用いられている調査票を用いて、インターネットでサンプルを回収し、解析作業を行った。その結果、例えば「肉体的な苦痛」の程度について、自己評価では、年齢が高いほど苦痛があると答える割合はむしろやや減少し、男女別には、どの年代も女性の方が「苦痛がある」とする割合は高い。しかし共通のシナリオについての評価では、自己評価と対照的に、年齢が高いほど苦痛があると答える割合は増加し、どの年代も男性の方が「苦痛がある」とする割合は高いことがわかった。これはそもそも性別や年代でかなり異なった尺度を持って回答していることを示している。
自己評価と仮想的なシナリオの比較では、多くの項目で、かなりのずれがみられる。これは、主観的意識の回答を単純に用いることは、大きなバイアスを生むことを示している。今後パラメトリック・ノンパラメトリック両方の手法を使い、ずれを定量化する。

結論
日本で初めて当てはめたVIGNETTの手法により、主観的意識をそのまま検証に用いることが大きなバイアスを招くことが明らかになった。今後はこの手法をさらに精緻化するとともに、他の項目についても有効な質問の作成などにより、主観的意識のバイアスを調整していくことが重要になるであろう。

公開日・更新日

公開日
2008-07-02
更新日
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