地域における障害者の生活支援に関する研究

文献情報

文献番号
199700284A
報告書区分
総括
研究課題名
地域における障害者の生活支援に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
杉橋 研一(清湖園)
研究分担者(所属機関)
  • 牛谷正人(甲賀郡障害者生活支援センター)
  • 金子秀明(さわらび作業所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 障害者等保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
障害をもつ人の地域生活を支えるうえで「障害者プラン」で示された障害種 別ごとの「障害者生活支援センター」の役割が重要となってきている。しかし、その運 営は地域によってまちまちであり、まだ試行錯誤の状態であるといえる。この研究では、 障害者生活支援センターの活動を核とした障害をもつ人の地域生活支援について、その あり方を調査・研究することを目的とする。
研究方法
地域生活支援サービスの現状把握のため、障害者生活支援センターなど支援 サービスを実施しているところの活動の実態を現地調査により明らかにする。また地域 生活支援システムの構築に向けてアンケートによる生活実態調査およびニーズ調査を行 い、必要なサービスについて検討を深めるととも公開シンポジウムを開催し、あり方に ついて検証を行う。
結果と考察
(1)研究の概要
国際障害者年以降、ノーマライゼーションの理念に基づき障害をもつ人の生活のあり 方は施設による「保護」から地域生活を基本とした「支援」に移ってきた。つまり「障 害」を重視するのではなく、障害をハンディとしないための「環境整備と支援」の重要 性が求められるようになってきたのである。ここに「生活支援」の必要性が明らかにな り、福祉がサービスとして問われるようになってきた。
障害をもつ人の支援とは、地域おける生活者としての本人が障害によって抱える「生 活のしづらさ」に対して提供される相談や生活・余暇等の支援サービスであり、その目 的は地域における障害をもつ本人の自立生活である。ただし「生活モデル」として捉え られる障害者の生活は、地域格差も大きく、また障害種別によって特性に応じた支援が 必要とされる。個々の障害者にとって安心して地域での生活が送れるような支援体制と 支援サービスが整備される必要がある。
(2)知的障害者の生活支援について
知的障害をもつ人の生活支援には、他の障害と比べいくつかの特性がある。外見では 判断しかねる障害であるということも手伝って、周囲からその特性は理解しがたい。そ れは身体障害を併せもったり、明かに全面介助を必要とするような場合を除くと、どこ に援助が必要とされているのかが見えづらいという特徴である。そのため知的障害者に 対する介助の多くは「見守り介助」といえる。しかし身体的にせよ、見守りにせよ、そ こに日常的に関わっているのが介護者である家族であり、その負担は計り知れないもの がある。知的障害者の生活支援では本人の自立支援とともに家族の介助支援を合わせて 整備する必要がある。
知的障害をもつ人の地域生活を支援する場合、「どのような援助があれば、本人及び その家族の望む生活が可能となるか」という「援助の視点」を軸に支援を組み立てるこ とが大切である。そのために生活に必要な緊急対応や不定期対応が可能な弾力的に使え る介護支援サービスや生活支援サービスを身近な地域に整えることが必要である。また 安心して地域生活が送れるために地域支援システムの構築が必要不可欠である。このこ とは、幅広い対象者のニーズを一個人や一つの機関で支えるのではなく、エリアで支え あうことで障害者とその家族の「生活支援」や「介護負担」という課題を地域全体で共 有し地域の福祉計画に反映することを可能とする。
知的障害者や家族のニーズを完全に把握することは難しい。しかし、知的障害者本人 とその家族に信頼される相談機能と整備されたきめ細かなサービスが地域に整備されれ ば障害のある人たちの暮らしが具体的に「地域」の中に位置づけられる。
(3)身体障害者の生活支援について
身体障害者とは、一般に身体障害者手帳保有者をさす。しかし、この等級等はもっぱ ら補装具や補助器具・各種公共サービスの申請や減免には有効であるが、障害年金にも 反映されない。さらに本人の日常生活能力あるいは社会生活を送る上での困り具合(生 活のしづらさ)を反映できる基準にはなっていない。つまり、手帳による障害の認定は 障害者を「医療・判定モデル」として見ているにすぎないのである。また身体障害者の 範疇は幅広く、例えばガイドヘルプサービスの提供も視覚障害者と全身性障害者ではま ったく違った援助を要求されることになる。
このように一口に身体障害者の生活支援といっても、その「生活のしづらさ」は障害 の内容により多種多様であり、さらに本人や家族の人生観に基づく生活感が重なるため 支援のあり方を規定することは難しい。このことは特に日常生活のほとんどを他者の援 助を受けなければならない重度の障害者で、自立意欲の高い人では場合によっては援助 者との相互の無理解・無認識や利害対立となることさえある。一方で、日常的に長期間 家族や他者の世話を受け続けることによって自立心が阻害されたり依存が習慣化し、日 常の細事に渡るまで本人が決定あるいは意志表示すらできない状態に陥ってしまってい ることもよくある。これらのことは障害による意志疎通の困難さからくる問題ばかりで なく、当事者の社会経験の不足からくる対人関係の拙さ、さらには障害受容の程度とも 関係している。
このため支援にあたっては、身体障害者にとって必要なホームヘルプサービスや移動 サービス等の生活支援メニューの整備ばかりでなく、本人や家族との信頼に基づく充分 な意志疎通を土台にした家族を含む当事者の社会生活技能や自己確立を促す取り組み  (ピアカウンセリング等)を行うとともに、地域や関係資源を巻き込んだ「自立支援シ ステム」の構築が必要である。
(4)精神障害者の生活支援について 
精神障害者の特性を生活支援の視点からとらえると、精神的な疾病や長期の入院によ って社会経験の不足から社会性の欠如・就労による経済自立の困難・住居確保の困難性 等の「生活のしづらさ」という生活障害を抱える者といえる。その精神障害者の生活は 長期に渡り医療・保健の範疇においてのみ支えられてきた。しかし、精神保険法施行以 降、地域生活のための社会復帰施設づくりが全国各地で進められ、さらに障害者基本法 に精神障害者の福祉が盛り込まれることでやっと「地域生活者」としてとらえられはじ めてきた。
精神障害者の生活支援の特徴は、病状や生活習慣の変化によりその状態像が急変する 事である。当然、支援・援助も同一者でありながら変化する。この点が他の障害者の生 活支援と大きく異なる部分である。また精神障害への福祉的アプローチは歴史が浅く、 地域で暮らすための資源がほとんどない中でどのようなサービスとシステムを構築する か模索状態であるといえる。
精神障害者の生活に視点をおいた相談や支援サービス等支援機能を生活支援センター を核にして位置づけ保健所や病院を含む地域ケアシステムの早期実現が必要である。
結論

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研究報告書(紙媒体)