雇用と年金の接続に係わる研究

文献情報

文献番号
200701006A
報告書区分
総括
研究課題名
雇用と年金の接続に係わる研究
課題番号
H17-政策-一般-016
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
高木 朋代(敬愛大学経済学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
1,891,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究は、本来的な勤労観の違いが、働き続けるのか(労働供給)、引退するのか(年金受給)の選択決定に与える影響を、ドイツ等他国との比較によって明らかにし、企業の人的資源管理の観点から、雇用と年金の接続の議論における新たな視座を提供することを目的とする。
研究方法
 本年度は日独を代表する企業の事例分析を行い、またドイツ企業従業員へのサーベイ調査を実施した。
結果と考察
 ドイツ等他国企業では、新たな産業や製品を独自で生み出していく、差別化戦略と新規事業への進出を重視する経営手法がとられてきた。そうした産業社会においては、人材の内部育成よりも中途採用が重視され、従業員自身も転職志向が強く、職務関連的技能の形成と個人的成長に主眼を置いたキャリア形成が主流となっていく。企業のマネジメントも、他社でも通用する汎用性の高い能力の習得や、仕事の完遂を職場の人間関係よりも重視し奨励する人的資源管理へと傾斜していくこととなる。これに対し日本の場合、他国とは異なる形で経済成長を遂げた。すなわち他国によって生み出され拡大していく市場の中で、多くの企業が濫立する厳しい同質競争を戦い抜くことが、日本の経済発展のプロセスであった。そうした産業社会では、人的資源への強い依存と心理的契約に基づく雇用関係を軸に、組織関連的技能の形成および組織コミットメントの重要性を強調する人的資源管理が暗黙的に行われてきた。つまり標準的な日本の従業員は、労働参加過程から徐々に意図的・計画的に組織コミットメントを強調する企業の人事管理システムの中に巻き込まれていき、その結果、引退年齢を迎えてもなお「企業メンバーとして自分」のイメージを持ち続けることになる。そのため就業か引退かの選択決定において、年金受給額や引退後の生活に必要な資金を確認することよりも先に、まず現組織との関係維持を考えることになる。そのことが高齢期になっても衰えない、日本の高年齢者の従来企業での強い就業意欲となってあらわれていると推察される。
結論
 日本の高年齢者の場合には、年金制度や企業の高年齢者雇用制度のあり方によって、必ずしも就業・引退行動が一律に決定付けられるのではなく、日本企業の人的資源管理の成果として個々の従業員の中に醸成された特有の勤労観が媒介変数となり、就業か引退かの選択決定が左右されているものと考えられる。したがって今後日本において雇用と年金の接続が円滑に進むためには、高年齢者雇用促進のための法整備や年金および雇用制度の設計を行うことも重要だが、その際に、他国に比して極めて高い従来企業での継続就業意欲と日本人特有の勤労観を念頭に入れる必要があると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2008-04-16
更新日
-

文献情報

文献番号
200701006B
報告書区分
総合
研究課題名
雇用と年金の接続に係わる研究
課題番号
H17-政策-一般-016
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
高木 朋代(敬愛大学経済学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本来的な勤労観の違いが、働き続けるのか(労働供給)、引退するのか(年金受給)の選択決定に与える影響を、ドイツ等他国との比較によって明らかにし、企業の人的資源管理の観点から雇用と年金の接続の議論における新たな視座を提供する。
研究方法
 初年度は、日独の高年齢者雇用政策と年金制度及び従業員の就業意識に関する文献調査とヒアリング調査を行った。2年目と3年目は、前年度研究より得られた仮説を軸として、日本及びドイツ企業の中高年層を対象にサーベイ調査を実施し、また日独を代表する企業の事例研究を行った。
結果と考察
 日本の高年齢者はドイツ他と比して従来企業での就業意欲が強い。しかし引退後の経済的状況を具体的に把握した上で就業選択に至っているわけではない。日本の高年齢者の強い就業意欲について考えた場合、それが本来的な勤労観によるものであると推論できる。たとえばドイツ等他国企業では、差別化戦略と新規事業への進出を重視する経営手法がとられてきた。その場合、人材の内部育成よりも中途採用が重視され、従業員自身も転職志向が強く、職務関連的技能の形成と個人的成長に主眼を置いたキャリア形成が主流となっていく。企業のマネジメントも、汎用性の高い能力の習得や、職務の完遂を職場の人間関係よりも重視し奨励する人的資源管理へと傾斜していくこととなる。これに対し日本の場合には、他国によって生み出され拡大していく市場の中で、多くの企業が濫立する厳しい同質競争を戦い抜くことが、経済発展プロセスそのものであった。その場合、人的資源への強い依存と心理的契約に基づく雇用関係を軸に、組織関連的技能の形成および組織コミットメントを重視する人的資源管理が暗黙的に行われることになる。つまり標準的な日本の従業員は、労働参加過程から徐々に意図的・計画的に組織コミットメントを強調する企業の人的資源管理システムの中に巻き込まれていき、その結果、引退年齢を迎えてもなお「企業メンバーとして自分」のイメージを持ち続ける。そのために日本の高年齢者の場合には、年金制度や企業の高年齢者雇用制度のあり方によって、必ずしも就業・引退行動が一律に決定付けられるのではなく、日本企業の人的資源管理の成果として個々の従業員の中に醸成された特有の勤労観が媒体変数になり、就業か引退かの選択決定が左右されているものと考えられる。
結論
 今後日本において雇用と年金の接続が円滑に進むためには、高年齢者雇用促進のための法整備や年金・雇用制度の設計を更に進めていくことも重要であるが、しかしその際に、他国に比して極めて高い雇用継続意欲と日本人特有の勤労観を念頭に入れる必要があると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2008-04-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200701006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 雇用と年金の接続問題は、これまでその経済的空白期間が問題視されてきた。そのためこれを是正すべく、労働供給行動に影響を持つ要因の解明が日本でも多く行われてきた。しかし高年齢期の就業意欲には、当該者が持つ経済的・職務的諸条件のみならず、働くことに関する本来的な意識が重要な影響を持つものと予想される。そのため本研究では、高年齢者が所持する勤労観が形成されていくプロセスと、就業・引退行動に与える影響について検討した。研究成果は主要学術誌にて発表され、また近刊予定の書籍にも反映されている。
臨床的観点からの成果
 該当なし
ガイドライン等の開発
 該当なし
その他行政的観点からの成果
 省庁関係研究会等での議論において、本研究から得られた知見が活かされている。またその報告書及び論文執筆において、本研究成果が反映されている。
その他のインパクト
 厚生労働科学研究・政策科学推進研究事業公開シンポジウム「私たちの働き方と社会保障」において、研究成果報告(報告課題「日本人の勤労観と定年後の就業・引退行動」)を行った。また業界誌への寄稿の依頼と業界新聞の取材依頼を受けた。

発表件数

原著論文(和文)
6件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
6件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
高木 朋代
高年齢者雇用のマネジメント
日本経済新聞出版社  (2008)
原著論文2
高木 朋代
高年齢者の雇用と引退のマネジメント
組織科学  (2007)
原著論文3
Takagi,Tomoyo
Structural Reform of the Workforce in Ageing Society: In What Type of Career Have Elderly Workers in Japan Been Employed?
Reforms of Economic Institutions and Public Attitudes in Japan and Germany  (2007)
原著論文4
高木 朋代
人事管理の変化と高年齢者雇用
季刊 家計経済研究  (2006)
原著論文5
高木 朋代
年齢差別と高年齢者雇用
日本労働社会学会年報  (2006)
原著論文6
高木 朋代
高年齢者と転職―成功者のキャリア特性分析
敬愛大学研究論集  (2006)
原著論文7
高木 朋代
企業の人的資源管理における年齢基準
エイジフリー社会の実現に向けて  (2006)

公開日・更新日

公開日
2014-05-21
更新日
-