医療保険、医療費抑制、医療技術、医療の質の研究-医薬品価格規制と研究開発

文献情報

文献番号
200701002A
報告書区分
総括
研究課題名
医療保険、医療費抑制、医療技術、医療の質の研究-医薬品価格規制と研究開発
課題番号
H17-政策-一般-011
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
姉川 知史(慶應義塾大学大学院経営管理研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
2,499,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 医療保険の維持,医療費抑制,医療技術の促進,医療の質の確保の4つを相互に矛盾する可能性のある政策目的として捉え,日本の医薬品を題材として検証する研究の最終年度の研究を行った。

研究方法
 追加個別研究では,薬価改定とりわけ薬価低下政策が,医薬品企業の企業業績と企業価値のどのように影響したかを検討した。そこでは個別医薬品企業の株式収益率を被説明変数とし,市場収益率を説明変数とする財務理論の「Market Model」を日次データを用いて推定して分析を行った。
 総合研究では,過去3年の予備的研究と個別研究を総合して,医療保険,医療費,医療技術,医療の質の4つの政策課題の関係について検討した。
結果と考察
 追加個別研究で次のことがわかった。第1に,医薬品企業の株式収益率の上記モデルは処方薬販売を中心とする大規模医薬品企業には当てはまるが,中規模医薬品企業,OTC医薬品企業は説明できなかった。1980年代初頭の大きな薬価引き下げは,株式収益率を大きく低下させた。しかし,1990年代後半の薬価改定は直ちには株式収益率を低下させなかった。また,大規模医薬品企業に対する薬価改定の負の効果は減少した。それらの企業の海外依存度が高くなったためと解釈される。
 総合研究では次のことが判明した。医療保険は医薬品需要を創造したが,価格規制が需要や供給,研究開発を歪めた。1990年代後半にその効果に構造変化が生じた。薬価低下政策によって医薬品市場規模が停滞し,国内市場依存度の大きい企業の業績が低下した。薬価差の医薬品の需要量に対する価格要因の影響は減少し,次第に医薬品需要は個別属性に基づくようになった。医療費抑制と薬価低下政策は研究開発を抑制し,薬価規制に伴う相対価格の変化が研究開発の方向を誘導した。日本市場での販売の利益率が低い場合にdrug lagが生じた。
結論
 A:公的医療保険の維持,B: 医療費抑制,C: 技術革新の促進,D:医療の質の確保の政策目的のうち,日本政府は,これまで政策目的A,Bを重視し,最近に至ってCを重視するようになった。薬価低下政策あるいはジェネリック製品の使用促進政策はBの実現を目指している。しかし,医療費抑制,薬価低下政策が,医薬品の技術革新を阻害する可能性が生じている。技術革新に報いるような仕組みの薬価設定を実現するか,医療保険以外の手段で,医療費をファイナンスするか,また,より安価で効率的研究開発を可能とする社会的資本を整備するという解決方法が必要である。

公開日・更新日

公開日
2008-04-10
更新日
-

文献情報

文献番号
200701002B
報告書区分
総合
研究課題名
医療保険、医療費抑制、医療技術、医療の質の研究-医薬品価格規制と研究開発
課題番号
H17-政策-一般-011
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
姉川 知史(慶應義塾大学大学院経営管理研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 医療保険,医療費,医療技術,医療の質の4つの政策目的が相互に矛盾する可能性がある。本研究ではこの問題を日本の医薬品,とりわけ価格規制,医療費,研究開発を題材として検証した。
研究方法
 第1の予備的研究として,医薬品産業の公共政策,歴史に注目して,経済学の枠組みを用いた医薬品産業分析を行った。第2の予備的研究では,医療費の地域格差の長期分析を行なった。第1の個別研究では,医療保険制度における薬価決定要因分析を行った。第2の個別研究では,医薬品需要量の決定分析を行った。第3の個別研究では,医療保険制度が医薬品企業の研究開発の方向と程度にどのように影響するかを分析した。第4の個別研究では,医療保険制度が外国で開発された医薬品の日本における承認にどのような影響を与えたかについて分析した。最終年度の総合研究では,医療保険,医療費,医療技術,医療の質の4つの要因をめぐる政策課題について検討した。

結果と考察
 日本の医薬品産業が一連の公共政策の遅れと,医薬品企業自身の対応の遅れとによって,国際的な競争力を失う可能性を示した。医療費の地域格差は医師数,看護師数,病床数等の社会資本蓄積の地域格差によって決定されたが,政策的誘導によって,収斂しつつあることを示した。個別医薬品の薬価差比率が医薬品の各種属性によって影響された。医薬品需要に対して薬価差比率が正の値で有意に働き,それは1990年代後半に薬価差が低下しても同様であった。薬価低下政策が長期的には技術革新を抑制する可能性が示された。しかし,1990年代中期以降の薬価低下政策は必ずしも企業価値を直ちに低下させず,技術革新の抑制傾向は明らかではなかった。薬価低下政策によって研究開発が十分な利益をもたらさないときに,医薬品企業が当該医薬品を日本市場に導入せずにdrug lagの現象が生じる可能性が示された。
結論
 医療保険は安定した医薬品需要を創造したが,価格規制が医薬品の需要や供給,研究開発を歪めた。1990年代後半にその効果に構造変化が生じた。薬価低下政策によって医薬品市場規模が停滞し,外国市場依存度の大きい企業と,国内市場依存度の大きい企業との間の業績格差が拡大した。医療費抑制,薬価低下政策が,医薬品の技術革新を阻害する可能性が生じている。このとき,技術革新に報いるような仕組みの薬価設定を実現するか,あるいは医療保険以外の手段で,医療費をファイナンスするか,また,より安価で効率的研究開発を可能とする社会的資本を整備するという3つの解決方法が考えられる。これらの3つを実現する政策の組み合わせを取るべきである。

公開日・更新日

公開日
2008-04-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200701002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 日本の医薬品産業が公共政策の失敗によって国際的な競争力を持つことができない可能性を示した。医療費の地域格差は医師数,看護師数,病床数等の社会資本蓄積の地域格差によって影響されたが,収斂しつつある。個別医薬品の薬価差比率は競争,剤型,力価,包装単位等によって影響された。薬価差比率は医薬品需要に正の影響を持った。1990年代以降の薬価低下政策は企業価値を直ちには低下させず,大規模企業の研究開発費抑制も示されなかった。他方,研究開発が利益をもたらさないという理由で,drug lagの現象が生じた。
臨床的観点からの成果
該当せず。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
 医療保険は安定した医薬品需要を創造したが,価格規制が医薬品の需要や供給,研究開発を歪めた。1990年代後半には薬価低下政策によって医薬品市場規模が停滞し,国内市場依存度の相違による業績格差が拡大した。医療費抑制,薬価低下政策が,医薬品の技術革新を阻害する可能性が生じている。技術革新に報いるような薬価設定の仕組みを実現するか,医療保険以外の手段で,医療費をファイナンスするか,また,より安価な研究開発を可能とする社会的資本を整備することが必要である。
その他のインパクト
なし

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
姉川知史
日本の医薬品産業
世界の医薬品産業 , 221-282  (2007)

公開日・更新日

公開日
2014-05-21
更新日
-