「精神障害者の退院準備プログラム(日本語版)」の作成とその退院促進効果に関する研究

文献情報

文献番号
199700282A
報告書区分
総括
研究課題名
「精神障害者の退院準備プログラム(日本語版)」の作成とその退院促進効果に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
安西 信雄(都立松沢病院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 障害者等保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
厚生省精神衛生実態調査(1983年)等により適切な地域の受け皿があれば退院可能な、いわゆる「社会的入院」が20~30%にのぼることが明らかになっている。これらの患者は地域で自立して生活する能力が乏しかったり、疾病の自己管理の能力が乏しいため、退院すると生活が破綻したり再発して再入院となることが多い。したがって、これらの患者の退院の促進のためには、障害者プラン等による地域支援体制の整備とともに、患者自身の生活技能を高め、疾病の自己管理の能力を高めることが必要である。そこで、?米国で開発された退院準備プログラムの日本語版を作成し、?パイロット・スタディにより、わが国の入院患者に対する実用可能性と効果を見ることを目的に本研究を行った。
研究方法
研究?(日本語版の作成)
米国カリフォルニア大学のリバーマン(R. P.Liberman,M.D.)教授から日本語版作成の許諾を得て翻訳の作業を行った。高知医科大学の井上新平教授を中心に研究協力者による翻訳グループを結成し、訳語の統一等の打ち合わせを行ったうえで日本語訳を作成した。
研究?(パイロット・スタディの実施)
病棟ナースとの勉強会(10回)、実技練習1回ののち、主任研究者をリーダー、ナース等をコリーダーとして日本語訳版を用いた10回のセッションを実施した。対象患者は研究の趣旨を説明し自発的同意が得られた社会復帰病棟の11人(うち9人が分裂病)である。治療効果の評価のために、退院のレディネスに関する知識テストを前後で実施し、統計パッケージSASを用いて平均値の差の検定を行った。
結果と考察
研究?(日本語版の作成)
翻訳作業は完了し、現在パイロット・スタディの経験にもとづく改訂作業を行っている。
研究?(パイロット・スタディの実施)
期間中に退院した4人を含め全員が最後まで参加した。知識テストにおいて、?再発徴候の理解(前18%→後72%)、?再発徴候の自覚(18%→63%)、?服用薬の理解(54%→90%)、?余暇の過ごし方(45%→90%)などの項目において、実施前と比べて実施後に有意な改善が認められた。なお、病識の乏しい群、認知・学習障害の強い群では効果が乏しい傾向が見られた。これは、第一に、これらの群への治療効果を高めるためにどのような治療上の工夫が可能か、第二に、適切な治療上の工夫を行った上でも改善の乏しい例(本プログラムの適応とならない例)が存在しうるが、どのようにしてこうした例を見分ければよいか、の2つの点から検討を深める必要性が示唆された。
結論
本プログラムは実用可能で効果があると考えられた。上記の改善の乏しい群に対する実施上の工夫と、適応例(不適応例)の弁別のために神経心理学的諸検査(Continuous Performance Test; CPT等)を行うことが必要である。パイロット・スタディの結果から、本プログラムがわが国の精神障害者の退院を促進のために有望であることが示されたので、本プログラムの効果を本格的に評価するために、対照群をおいた統制研究が必要と考えられた。パイロット・スタディでは時間的制約から10回のセッションとしたが、第2年目の統制研究では米国において実施されている標準的な方法である16回のセッションを行い、効果を確認したい。第2年目には、その成果に基づき、全国的な普及を想定して、適応例選択の基準と、対象に応じた実施上の工夫を含む、実施のための指針を作成したい。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)